●超なにわディープ見聞録 | |||||||||||||||
危険を顧みず、釜ケ崎へチェックイン! ★それは2002年、3月15日。急に大阪に行くことになり、『旅の窓口』で、ホテルを検索していると『ホテルエスカルゴ 1泊1800円、24時間チェックイン可、大浴場あり、レディスフロア設置』という、ウソのようなホテルが目に留まった。しかし、場所は釜ケ崎(あいりん地区)のど真ん中。ここらへんは、簡易宿泊所(通称ドヤ)が多数を占め、住民の失業率は90%超、約800メートル四方の地区に、約2万人の日雇労働者が暮らし、路上生活者があふれる町である。飢えや病で一日に行き倒れる人の数は約20人。また、ドヤの全部屋の85%は3畳以下の広さしかない。ほとんどがトイレ・炊事場が共有だ。1961年に、タクシーにはねられた日雇労働者を警察官らがすぐ病院へ運ぼうとしなかったことに端を発した事件。日雇労働者たちが西成署を包囲し、投石やパトカーに火を放った、いわゆる西成暴動でも知られるように、暴動や火事の発生が極めて多いエリアでもある。宿泊予約のボタンをクリックする手が一瞬止まったが「ええい! これもネタじゃあ!」と、半ば捨て身で宿を予約した。 すわっ!暴動か! 鳴り響くサイレンの音 ★釜ケ崎に泊まるというと「絶対やめとけ!」「何が起こっても不思議やないで!」と皆口々に宿泊を思いとどまらせようとする。だんだん不安になった私は、香取犬子を連れてとりあえずホテルまで行ってみることにした。地下鉄御堂筋線・動物園前駅で待ちあわせ、萩ノ茶屋に向かう。すれ違う人々の人口構成は、9割5分がおっちゃんだ。平均年齢60歳とみた。ノラ犬とじゃれあうおっちゃんや写真を撮っているとVサインしながら「わしも写ったでぇ」という人懐っこいおっちゃんもいて、なかなか楽しい。しかし、西成警察の筋を曲がると! わんわんと消防車のサイレンが鳴り響いているではないかっ! 「こちら西成警察です! 火はもう鎮火しましたので、皆さん歩道を歩いてくださいっ」と拡声器で叫ぶ警官(なぜか全員カジュアル着)の声にビビリながら、死んでるとも寝てるとも判別のつかない路上のおっちゃんや路上で酒盛りをしている団体を尻目にホテルの前までやってきた。
ブラボー! かたつむりホテル ★「うそっ!まじかよ」。顔を見合わせる、犬子と私。ホテルエスカルゴは、まるで掃きだめに鶴。むっちゃきれいなホテルであった。フロントのおっちゃんの対応も紳士的だし、鍵のかかるレディスフロアは、アンティーク時計やかわいいソファが配され『Oggi』や『25ans』『メイプル』『ヴァンティーヌ』などの女性誌も備えられている。共同だが、パウダールームも清潔〜! 部屋は狭いが、冷暖房・テレビ・浴衣・タオル・歯ブラシ完備。大浴場もきれいで、サウナも清潔。売店のドリンクもすべて市販のプライス! これをホスピタリティーと言わずしてなんという。スイートルーム(2800円)を見せてもらったが、ごっつ広くてきれい! 次回は、奮発してスイートに泊まっちゃお(きっぱり)。ホテルエスカルゴ、定宿決定!
釜ケ崎から新世界 ★とりあえず、荷物を置いて犬子とジャンジャン横丁へ繰りだすことにした。ここらへんは、妙に公衆電話が多い。ケータイの着信記録を確かめている私をじろじろ見る人が多かったのは、私ではなく、携帯電話が珍しかったのだろう。また、靴かたっぽとか、あきらかに拾ってきたであろう生活雑貨や衣類を路上で販売する店があちこちに。しかし、これも釜ケ崎と太子町の交差点をはさんだジャンジャン横丁あたりでは、価格の差があることを発見! 釜ケ崎ではジャケットやシャツなどのトップスが300円前後に対し、ジャンジャン横丁や通天閣界隈では、500円くらいが相場となる。どうやら堺筋が結界となっている模様。交差点を渡り、通天閣方面に向かうと、簡易宿泊所も2500円とか3000円という宿泊料を表示している。1800円がスタンダードとなった我々は、もはや「たっかーい! ぼったくりやで」という感覚に陥っていた。
コスプレカラオケに酔う浪速の宴 ★通天閣のふもとの居酒屋『玉家』(うまい!)で、めし&酒。ヨッパの状態で、ピンク(エロではない!)映画館のあるあたりをウロウロ。大衆演劇のメッカ、新世界南本通の朝日劇場のとなりのコスプレカラオケに行く。カラオケ「アサヒフォーラム」は、豪華ステージやシャンデリアのあるゴージャスな店であった。ここでは、ドレスやスッチー衣装、セーラー服などの衣裳をタダで貸してもらえるので、欲張ってドレス数着を借りて、カラオケに挑む。なんとウエディングドレスは鳥居ユキだったりして、なかなか本格派。いつドリンクを持った店の人がカラオケルーム入ってくるかもわからぬ状況下、大胆に服を脱ぎ散らかしドレスに着替える犬子と私は、かなりキていた。 ひとりホテルに戻り、テレビを見る。夜中は、どのチャンネルをまわしても、吉本芸人の顔顔顔。うーん、これこれ、これが大阪やん! 月亭可朝がギター抱えて「ボインやでぇ〜」と歌っている番組を見ているだけで、幸せな私の血中関西人度は、かなり濃い。しかし、夜中に突然「バラバラバラ」と、隣のトタン屋根に雨が降るような音で目が覚める。翌日、大阪の知りあいに聞くと、雨は降ってないという。「それ、おっさんが部屋からションベンしとったんやでぇ〜」。「ちゃう、カップ焼きそばのお湯を捨てていたに決まってる!」と、反論しながらも、そう思い込みたいと、自分に言い聞かせる私だった。
★翌日、新世界で、なにはともあれ、パチンコ屋でモーニングに挑む。1回単発フィーバーがきたものの差し引き15000円の負け。「嗚呼、これならニューオータニに泊まれたな」などと、思わないのが勝負師の証。常に「明日は、勝つ!」、これのみ。気を取り直し、ジャンジャン横丁の食堂「いずみ」で、名物シチュー(350円)でランチ。じゃがいもにタマネギ、牛肉を煮込んだ半透明のシチューは、シンプルでうまい。千成屋で濃いコーヒーを飲んで、天王寺へ。天王寺公園と美術館の間の通りは、まさに「青空カラオケストリート」。10軒くらいの店(というにはあまりに模擬店風)があり、どの店も路上に大きなスピーカーを出し、フルボリュームで演歌をかけている。「カラオケ1曲200円」。路上生活者と見受けられるおっちゃんから、顔面白塗り、ばっちばちつけまつげ、ゴージャス(?)衣装&ヅラのスター(?)まで、おばちゃんもおっちゃんも踊る踊る踊る。しばし、静聴。ここらへんも路上生活者が多いエリアだ。段ボールハウスから、板張りの豪華な家までさまざま。そこに、段ボールの短冊に、俳句や短歌を書いてギャラリー風に家を彩っている人がいた。 寒し、冷たし、人恋し 「うん、わかるわ〜」と、熱心に詩を読むおっちゃんもいたりして、なかなかええ感じ。東京でも路上生活者を見ると、つい親しみがわいてくる私。昔からこのタイプの人々に、よく声をかけられるせいか、怖いとか汚いという感情はない。また、哀れみやかわいそうという気持ちもない。的確な言葉はないが、一番近いニュアンスの言葉は『敬意』である。将来、仕事がなくなったら、私はこの街に帰ってこようと思う。いや、まじで。
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