2002年8月12日(月曜日)

主治医より強制退院を迫られ、万事休す!

明け方、むちゃくちゃ右腕が痛い。寝る前に痛み止め座薬(ボルタレン50mg)を入れてもらったが、全然効かへんやんけ。あまりに痛いので看護婦の今さん(可愛い)に、痛み止めの注射をしてもらう。しかし、その痛みより辛い試練がやってきた。朝の点滴である。一人目の看護婦さん3回失敗、2人目4回失敗。もれた点滴液で手も足も腫れ上がり、皮膚は内出血してパンパン状態。なにより、むちゃくちゃ痛いのだ。もうパジャマの色が変わるくらい汗だくになり「もう嫌だ〜」と泣き叫ぶ。「じゃあ、先生に変わってもらいますから」と2人目の看護婦さんは去っていった。痛いのと情けないのとで、ぐすぐす泣いていたら、3人目も違う看護婦さんがやってきて針を打とうとした。「あれ、先生が打つってゆったやん」、ナース「え? そうなの?」、私「さっきの人がそうゆったもーん。約束違うやーん」、ナース「ああ、そうですかっ!」と、プリッとして3人目の看護婦さんは去っていった。
 やれやれ、と思ったのもつかの間。「ナガハマさんっ!」の掛け声と同時にカーテンが開いた。いやん、えっちぃー、てゆーか、キサマは財前かぃ! まるでドラマ・白い巨塔の大回診のシーンのように、主治医・横●医師を先頭に、看護婦長、その他がズラリと私のベッドを囲んだ。まるでカツアゲの図。

横●「永浜さんは、どうも治療に非協力的だそうですね」
婦長「点滴を拒否したんでしょ?」
私「え? あれは、あんまり皆さんが失敗されるので、ドクターに替わってもらうはずだったにもかかわらず、また看護婦さんが来られたので、それは約束が違うんじゃないかということでお引き取り願ったわけですが」。
私は怒りが頂点に達すると、妙に口調が丁寧になる。
横●「とにかくっ! 三角巾もつけないし、安静にしろという注意も聞かないそうですね。パソコンも使ってるらしいし」
私「でも、ある看護婦さんは、充電してるものならいいっておっしゃったんですよ。そちら側のコンセンサスをしっかりとってくださらないとこちらも混乱します」
横●「こちらのルールを守れないのなら、強制退院してもらうしかありませんね」
婦長「それで、今日退院するらしいけど、どこの病院に行くの?」
私(げっ、きのうの買い言葉がそのまんま伝わってるやん)「東京共済病院」。
と、とっさに家の近所のそれらしい病院名をあげた。
横●「わかりました。では紹介状を書いておきましょう」
むっかちーん!! しかし、今は転院先を確保することが先決だ。携帯電話を抱えて、1階に降り、病棟前の地面にしゃがんで、まずは東京共済病院に電話をする。

ナガハマ行方不明と、病院中が大騒ぎ


私「えーっとぉ、そちらに入院したい者なんですけどぉ」
病院「はぁ? どうされました?」
私「えっと、開放骨折なんですけどね、病室空いてます?
病院「えっ!! 開放骨折ぅ! で、今どうしてるんですか?」
私「いや、今、広尾病院に入院してるんですけど、転院したいなーっと」
病院「何かあったのですか? でも、今、3万円の病室しか空いてないんですよ」
とまるで人の弱みにつけこむようにラグジュアリーな部屋をサジェストする整形外科医。
私「(おまえんとこは、リッツカールトンかい!)いや、ここの病院、意地悪で居心地悪くってー、っていうのはちょっとだけ冗談で、家が近いんですよ。おたくに」
病院「でも、大きな部屋が空くまで、そちらに入院されてたほうがいいと思います」
ちくしょおおおおお! 横ちゃんと婦長のほくそ笑む顔が思い浮かぶ。ついでにあちこに電話をかけていると……。
「ナガハマさんっ!!」と、すごい形相で看護婦さんが病棟から出てきた。

「こんなとこで何してるんですかっ! 全館放送流してもいないし、行方不明だって大騒ぎなんですよ!!!」。
ところで私はちび(151センチ)である。背の高い看護婦さんに連行され、ふてくされた表情で病室に戻る私の絵は、まるで塾をさぼっているところを見つけられて叱られているガキのようで情けない。
ナースステーションで「これから、病室を離れるときは、必ずどこへ行くか、ひと声かけていくこと」を約束させられる。ちえ、まるでガキじゃんか。ともかく、転院先が満床なので、15日まで入院をのばすことにした。

昼ご飯を食べて、取材に出かけようとすると「どこ行くんですか?」とマスク看護婦。
私「え? 外出届け出してましたけど」
マスク「今日、退院されるということなので、外出許可は抹消されています」
融通が効かないでやんの。ともかく外出届を提出しなおして、新宿プリンスホテルへと向かった。

ところで、私は左腕ギプスで、右腕は包帯にくるまれて、三角巾で吊っている。どっから見ても、ケガ人だ。なので、どうしても人と対面したときに、なにかしらのリアクションを受ける。「え〜っ、ど、どうしたんですか?」とか、派手に驚かれると、いささか恥ずかしいのだが、人間とはわがままなもので、まったく無関心をよそおわれても、正直いってがっかりする。その取材相手もそうだった。簡単な挨拶の後、事前に伝えていた質問について、一気にしゃべりだした。

え〜、この包帯見えないのかなー。んなことないよなー。ギプスの手、振っちゃえ、えい! なんちて。
あれ? 目に入らないようだ。うーむ、恐るべし不動心。
 
とにかく、自分がしゃべりたいことが山盛りあって、熱き思いをしゃべり尽くさないと気が収まらない人って、あまり他人のことに興味のないタイプが多い。取材しているうちに、だんだん自分のケガってたいしたことないような気がしてきた。取材の終わりくらいに、ねこ(ウンコ大黄)が、新宿プリンスまで来てくれたので、ら致されるように、プレジデント社にいただいたタクシー券で病院に戻る。もみが会社の帰りに、すげーまぬけなパジャマを買ったのことで、もってきてくれる。
夜の点滴もやっぱり入らない。何度も失敗され、廊下に響き渡るくらいの叫び声をあげる。疲れ果てて寝る。

左・まぬけなパジャマ(キンカ堂にて購入)。しかし、意外と似合う自分にオドロキ。いくつになっても、カメラを向けられると『シェー』のポーズをとってしまうところが昭和30年代生まれ。右・今回の入院騒ぎで、一番ワリを食ったというか、功労者のもみさんイバるの図。サングラスがちょっと海原小浜風味。


動かぬ指でしたためた慎太郎への手紙


夜中にぱちっと目が覚めた。普段、朝の4時5時に就寝していた私に、21:30消灯なんて生活がおいそれと身に付くわけがない。ふと、入院してからの身の回りで起こったいろいろなことに思いをはせてみる。自分のしたことは、きれいさっぱり棚に上げ、病院側の理不尽な姿勢に対して、ふつふつと怒りが湧いてきた。この怒りが消えてしまわぬうちに! と「昼食の選択メニュー表」の裏に、都知事、石原慎太郎宛てに『都立病院の救急医療体制における問題点』を動かぬ指で書き記そうと試みた。ボールペンもまともに握れない右手ではあったが、なんと怒りと正義のパワーが不可能を可能にした。指が動くではないか! うーん、ええ感じ。調子にのった私は、「ま、文句ばっかり言うのもナンやし」と、『ERの立場とその役割』『インフォームドコンセントとセカンドオピニオンの重要性』『広尾病院の改善点とその対応策』まで、膨大なる文章を書き上げてしまった。慎太郎、読んでくれよな。続く