夢語る吟遊詩人

無頼派ヒゲさんの夢追い人生

もし、「ヒゲさん」が無頼派を気取るアーティストだったら……、
という視点からアプローチして、でっちあげた半生記です。
尚、このお話はまったくもって、フィクションであり、
実在する人物・団体とは一切関ありません。
●少年時代

愛知県知多半島に生まれる。都会の田舎でのほほんと育つ。子供の頃からちょっと斜に構えたえたところがあったが、いじめに至るほどではなく、比較的活発な少年時代を送る。やや肥満児。地元の公立中学、高校へ進学。レスリング部に所属、勉強は中の中。女の子と軟派に遊ぶ同級生をしり目に、男同士でもっぱら競馬やプロレスの話に興じる、が、内心少しうらやましい。映画サークルにも顔を出し、フランス映画フリークの副部長に淡い恋心を抱く。超娯楽大作を見るヤツを軽べつし、エリック・ロメール等難解な映画を好む。少し澁澤龍彦にも憧れる。蓮見重彦の映画評論のファン。ある日、副部長と錦で一緒に映画を見ることに成功。公園で、映画について語り合い、恋心は加速度つきで急上昇。東山動物園で初デート。しかし、副部長は無邪気にブランコにのったり、ジャングルジムに興じたりするなど、徹底的にヒゲさんのアプローチをはぐらかす。愛の告白をしかねて、とぼとぼ帰宅するも、次の日、彼女が娯楽映画好き、大林宣彦監督の「時をかける少女」をはじめとする“尾道三部作”ファンの男前の部長とつきあってることが判明。傷心のヒゲさん。以後、卒業まで男同士で無頼でバンカラな高校時代を送ることとなる。
●学生時代

日大芸術学部を目指すも、夢破れ東京の映像系の専門学校に入学。パチンコ、競馬に興じる学生生活を送る。合コンには無縁の無頼な日々。学校の勉強にいまいち魅力が感じられず、授業は休みがち。無為な気持ちで過ごしていたある日、日芸へ入学した幼なじみの影響で自主映画サークルに入会。手先が不器用&機械オンチなため、カメラワークより台本書きに専念。アート系趣向の部員と違和感を感じつつも、一応周りと同調するが、その実、青春ラブストーリーや熱血スポーツドキュメンタリーが好き。4年生のとき、サークル合作で自主映画を作成。タイトルは「モラトリアムの憂鬱」。台本は部長と共同執筆。将来は映像関係に進むことを決意。
●就職

いちおー就職活動はするものの、大手制作会社からはことごとく不合格の通知を受ける。なんとか、テレビ局の孫請けの弱小プロダクション有限会社「アドバンテージ」に就職が決まる。最初は荷物持ち&掃除係。編集現場では7日間家に帰れないこともあるなど、激務の日々に少し痩せる。タレントと仕事したりする毎日に「ラッキー!」とはいうものの、給料15万円で毎日18時間勤務の日々に、心によぎる「こんなはずじゃなかった」という思いを消し去ることはできなかった。いつまでたっても、照明係。半年後、体を壊し失意のままに退社。友達の紹介で、さらに商品プロモーションや教育関係、会社案内のビデオを制作する弱小プロ「アロマ企画」に就職。給料10万円也。本来はドキュメンタリー志望のため、少し会社の方向性には疑問があるが、これも修業。ここで台本書きのノウハウを学ぶ。
●転機

給料への不満はあるものの、一通りの仕事を覚えたとき「オレのやりたいことは何?」と自分に問い掛ける日々が訪れる。サブチーフというポジションも得、後輩もでき、そこそこエラソうに仕事ができるようになったが、やりたいことと、会社の仕事とのあまりのギャップに嫌気がさし、3度目の正直とばかりに、ドキュメンタリー系の制作会社「オフィス・ゼロ」にかわる。しかし「オレは一人前」という傲慢な態度なので、他のスタッフとの摩擦は度々。ある日、クライアントに打ち合わせにいった際、先方の担当者と真っ向から対立。社長の逆鱗にふれ、以後、事実上仕事をホサれるハメに。またあるときは、大手からのプレゼンで、クライアントのニーズを逸脱する「オレ的企画書&脚本」を提出し、ライバル会社に負ける。社長と大げんかの末、フリーとして独立。
●営業活動

人形町の風呂なし、共同炊事場の文化住宅に居を定め、事務所兼自宅とす。ポンコツパソコンが唯一の文化的生活の証。プロバイダと契約もすませ、ネットサーフィンの日々。ただ、マシンがポンコツなので、やたらと重いのが悩み。しかしながら、待てど暮せど仕事はなし。これではいかんと、営業活動に目覚めるも、ついつい一言多い性格が災いし、先方の怒り&苦笑を買うはめに。あるときは、先方の退屈する空気も察知せず、延々と「オレ的生き方・オレの理想」を語り、「あー、この後、アポが入ってるんだよね。まっ、頑張ってね。んじゃ、というわけで、ひとつヨロシク」と軽くかわされ、思わずコブシを握るヒゲさん。そんななかでも、友達&昔の同僚からポツポツ仕事が入り、貧乏ながらも、なんとかフリーとして活動をはじめる。
●それでも恋

たまに仕事でチームを組む山梨県出身のスタイリスト見習い(24歳)に他人ではない感情を抱き始めるヒゲさん(32歳)。仕事の打ち上げの最後、家の方向が同じだったこともあり、居酒屋で朝まで「オレの生き様」を語る。最近失恋したばかりの彼女は、ヒゲさんの話は半分に聞いていたものの酔った勢いでヒゲさんの胸で泣いてしまう。男ヒゲさん、甘酸っぱい思いが胸にわき、ベロベロの彼女をアパートに泊めるも、お互いかなりの泥酔状態のため、そのまま爆睡。二日酔いで目覚めた彼女は、ぼんやりとした視界の中に、コーヒー(ネスカフェ)を入れ、ハムを焼くヒゲさんの姿を見る。「ごめん、私、帰らなきゃ」「ずっといてもいいんだよ」などという、甘い会話から半同棲生活がスタート。
●チャーミーグリーンな日々

スタイリスト事務所に所属する彼女は、いちおー朝出て、夜帰るサラリーマンスタイルの勤務体系のため、もっぱらヒゲさんが主夫係。休みの日には二人で競馬に出かけたり、パチンコしたり、またお金のないときは公園でブランコに乗ったり、缶けりをして、商店街で買い物して帰るようなラブラブな日々を過ごす。古い14インチのテレビしかないけれど、冷凍庫のない冷蔵庫しかないけれど、エアコンもお風呂も部屋にトイレもないけれど、ふたりで神田川よろしく手をつないで銭湯に通うのもまた楽し。「オレの夢」を語るヒゲさんの姿は、同時にスタイリストとして独立を夢見る彼女の姿だった。
●嗚呼破局

しかしながら、少し帰宅が遅かったり、また飲み会にいちいち文句をつけるヒゲさんと、田舎出身で都会の業界ライフスタイルが楽しくてしょうがない彼女の間には、だんだん亀裂が・・。最初は年下ということもあり、ヒゲさんの言葉に文句はあるものの素直に従っていた彼女も、いつしか、理想ばかり追い求め、甲斐性のないヒゲさんに嫌気がさす。そうこうしているうちに、仕事で知りあった飄々としたテイストが身上のカメラマンにヒゲさんの愚痴をこぼす彼女。「しょーがねーよなー」と何に対しても鷹揚で懐深いカメラマンに心が傾く彼女。毎日のように泊まりにきていた彼女がだんだん自分のマンションに帰宅することが増え、ますます小言が多くなるヒゲさん。そして破局。
●ネットな日々

自分も知っているカメラマンと彼女が付き合っていることを知り失意のどん底に落ちるヒゲさん。ゴールデン街でうさをはらす日々が続くが、しかしヒゲさんも男だ、「こんなことでは!」と一念奮起。この悔しさをバネに仕事に精を出すヒゲさん。「企業の新人教育プログラム」、「電動のこぎりの使い方」、「ハウツーエアロビクス」など、ドキュメンタリーとは畑違いの仕事ながら、なんとか食うに困らない生活を送る。あるとき、ヤフーを検索していると、ひょんなことから出会い系チャットのサイトを発見。いろんなチャットに毎夜顔を出し、無頼でニヒルな業界人を演出し、常連となる。あるとき、チャットで知りあった女の子のメアドを聞き出し、メル友になるが、相手が岩手県在住のため逢瀬には至らず。その後もそんな相手が何人もでき、うきうきした日々。電話を掛け合う仲になり、初めて横浜の芸術系の専門学校生とツーショットオフ会にこぎつける。
●オフ会

初めてのオフ会! ドキドキわくわく! 待ち合わせはホームグランドの新宿。コマ前で会った彼女は、身長168センチの長身(ヒゲさんは165センチ、75キロ)。しかもブス。お互い、「えっ、あなたが ……」としばし、絶句。気を取り直して、コマ近くの居酒屋で軽くめし&酒。将来、デザイン関係を希望している彼女の夢をことごとく打破するひとりよがりの「オレ様節」に、泣きそうになる専門学生。早々にひきあげようとする専門学生の腕をむんずとつかみ、「もっと話そう」と、強引に公園に連行する。ブランコに乗り、ここでも「夢」滔々と語るヒゲさん。ふと目が合った瞬間、チューを迫るようなとんがった唇を見た専門学生は、ヒゲさんを殴って、猛ダッシュ! 元陸上部のためあっという間に人込みの中。がたいのでかい専門学生に殴られた勢いで、かなり重量オーバーであったブランコのチェーンが重さに耐え切れえずぶち切れる。したたかに腰を痛打するヒゲさんに夜空の星は優しく瞬くのであった。