耳垢、耳垢栓塞 笠井耳鼻咽喉科クリニック・自由が丘診療室
 原則として、むやみに耳はいじらないことです。耳垢をきれいに取り除くのはけっこう難しくて、耳鼻科医でも苦労することがあります。家庭では耳かきでかえって耳垢を奥のほうに押し込んでしまったり、外耳道を傷つけて外耳道炎耳せつ(耳のおでき)の原因となったり、鼓膜を傷つけて鼓膜穿孔を作ってしまったりすることがあります。お風呂やプールの後に、汚れた耳垢があって耳をいじると、特に外耳道炎になりやすいので、注意が必要です。大きな耳垢は耳鼻科で年に2〜3回除去しておけば、そうたまるものではなく、普段は耳の中はいじらないようにするのが賢明です。(アメリカ耳鼻咽喉科頭頸部外科学会によるセルフ耳垢ケアの注意喚起耳垢栓塞の臨床ガイドライン
 単純な耳垢では聴力に影響することは普通はありません。急に聞こえが悪くなったというときに、耳垢が原因のことがあります。耳垢が結構溜まってきていても、外耳道との間に少しでも隙間があいていると、聞こえは悪くなりませんが、風呂上がりやプールなどで水が入って耳垢がふやけて外耳道をぴったり塞いでしまうと、急に聞こえなくなり、慌てて耳鼻科を受診することになります。耳鼻科で耳垢を除去すればたちまち聞こえはよくなるはずです。改善しない場合には突発性難聴などの可能性もあるため、聴力検査で確認する必要があります。
 耳鼻咽喉科で除去する場合は、外耳道や鼓膜を傷つけたりしないように、また出来るだけ痛みの無いように注意を払います。鼓膜内視鏡や顕微鏡で見ながら、耳垢鉗子や耳専用の器具でつまんだり、細い吸引管で吸い取ったり、硬い耳垢のときは軟らかくする薬液(耳垢水)を耳の中に一日数回入れて(点耳)、軟らかくしてから、耳専用の細い吸引管で吸引したり、生理食塩水で洗浄する方法(耳洗)で耳垢を除去します。外耳道や鼓膜表面に固着しているような耳垢栓塞ですと何日間かにわたってゆっくりと時間をかけて除去する場合もあります。性急に除去しようと無理をすると、外耳道を傷つけたり、鼓膜を破いてしまうこともあり、無理は厳禁、安全第一です。。
 「アメ耳」とか「ジュル耳」などと呼ばれる茶色の軟らかい耳垢が多い人は、遺伝的な体質でそうなっている場合が多いのです。その様な方は、市販の綿棒で時々耳の入り口だけ拭い取るのはかまいませんが、軟らかい耳垢が耳の奥に押し込まれて塞がってしまう場合があり、無理に取ろうとして外耳道を傷つけないように注意してください。耳の聞こえが悪くなったり、痛くなったら、すぐに耳鼻科を受診するようにして、ひどくなってしまわないうちに治しましょう。素人療法は禁物です。起こさなくてもよい病気を引き起こさないようにしてください。
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乾性、老人性耳垢 外耳道の自浄作用が低下した高齢者に多い、剥落性の耳垢は耳垢除去に際して痛みが強い

外耳道外傷 耳垢を無理に掃除すると外耳道皮膚を傷つけて出血したり、皮下出血して血腫が出来る

耳垢に関する質問耳掃除は優しく耳あか1-2-3-4耳そうじ耳掃除耳の手入れ耳そうじは軟骨部まで1-2耳掃除のしすぎに注意「耳かき」は危ない!耳かきによる外耳炎耳かきと外耳炎耳かきをしてはいけない間違いだらけの耳掃除耳掃除は本当に必要なの?
1. 耳垢のために患者さんに何か困ったことが起こった例について
2. 耳垢が出やすい体質とその体質を改善する方法について
3. 自分で耳を清潔に保つ方法について
4. 自分で耳垢を掃除した時、どんな障害が起きやすいかについて
5. 米国には耳垢は取らなくても障害がないというエビデンスがあるそうですが、これについていかがお考えでしょうか
回答
1. 外耳道を完全に塞いでしまったものを耳垢栓塞と言い、耳の痒み・難聴・耳閉塞感耳鳴りがおきます。入浴や水泳の後に、外耳道に水が入って耳垢が膨潤して外耳道を圧迫し、痛みやめまいを生じることがあります。
 風邪の後などに急に耳が痛くなって耳鼻咽喉科外来を受診された場合、急性中耳炎が疑われるけれども、鼓膜を診察しようにも外耳道にびっしり耳垢が詰まっており、掃除するにも痛みが強くて、診断治療に難渋することがあります。普段から鼓膜が見える程度には耳垢も掃除をしておいていただきたいと思います。
 耳あかを取りすぎて外耳道を傷つけると、皮膚のびらん、水様性の耳だれ、さらにはカビが生えて(外耳道真菌症)かゆみが増すなど、慢性の湿疹性外耳道炎を引き起こすことになります。慢性の外耳道炎は、耳あかの取りすぎが原因のことが多く、耳あか掃除もほどほどが良いでしょう。
2. 普通の耳垢は自浄作用によって自然に外耳道の入り口の方へに排出されるように出来ていますが、外耳炎や外耳道の湿疹があったり、体質的な軟性耳垢の場合や、高齢者で外耳道皮膚の新陳代謝に問題がある場合には耳垢栓塞になりやすいと考えられています。軟性耳垢の人の体質的なものは治るわけではありません。外耳道湿疹の人などは耳をいじりすぎないことや、出来る限り愛護的に耳には触るようにする注意が必要でしょう。
 耳垢栓塞は定期的に耳内清拭することで予防できますから、軟性耳垢の人やアトピー性皮膚炎のある人、これまでにも耳垢が貯まりやすい人では自分で無理をせず耳鼻咽喉科で必要に応じて処置をしてもらうのが良いでしょう。
3. 風呂上がりに綿棒でそっと触る程度の掃除が良いと思います。耳垢が多いと感じたらオキシフルを付けた綿棒で外耳道を拭う位の掃除をします。カサカサの耳垢の人は、綿棒をベビーオイルなどで少し濡らして使うと上手に取れるでしょう。強くこすらないこと、痛みが出る場合はいじるのを止めてすぐに耳鼻咽喉科を受診することです。耳鼻咽喉科では顕微鏡下に耳垢をそっと掃除してくれます。固い耳垢は柔らかくする耳垢水という点耳薬を付けてから取るようにしますし、抗生物質や炎症を抑えるステロイドの入った軟膏や点耳薬が処方されることもあります。
4. 一番多いのがいじりすぎて外耳炎を起こすことです。かゆみや分泌物が出て、痛みを伴うこともあります。外耳道が湿疹状になるとじゅくじゅくしたりカサカサした耳垢がかえって増えることになります。感染を起こすと「耳せつ」と呼ばれる「おでき」が出来て、強い痛みや熱が出ます。耳かきやマッチの軸などで乱暴にすると、外耳道を損傷したり、鼓膜を傷つけて孔があいてしまう(外傷性鼓膜損傷、穿孔)ケースもあります。綿棒で取ろうとして耳垢を奥の方へ押し込んでしまって、かえって聞こえを悪くしてしまうこともあります。耳垢は耳の入口から鼓膜までの半分以上手前に貯まってくるのが普通ですから、奥まで綿棒などを突っ込まないようにしましょう。
5. 確かに、普通の耳垢は軟性耳垢(ベトベトした湿性型、アメ耳)であれ、乾性耳垢(カサカサの乾性型、フケ耳、粉耳)であれ、耳を掃除しなくても大きな害になることはめったにありません。軽い難聴や耳鳴り、かゆみなどは病気とは認めないという見識もあるでしょう。しかし、一部の人では耳垢栓塞となって前記の症状が出現しますから、耳鼻咽喉科を受診して耳垢除去をします。診療報酬点数表では簡単な耳垢除去は耳処置の処置料25点(保険3割の方で自己負担額は75円)、複雑な耳垢栓塞の除去は片側で100点(同300円)、両側では150点(同450円)、外耳道の簡単な異物除去術は手術料220点(同660円)、極めて複雑な外耳道異物除去術は790点(同2370円)と決められています。つまり日本の保険医療制度上は、耳垢も立派な病気だと認められており、保険診療の対象になっています。
 年齢的な変化で元々聴力が落ちてきている高齢者では、耳垢栓塞があると、感音難聴に伝音難聴が加わり、聞こえがもっと悪くなります。高齢者ではわずかな聴力の低下でも、脳への聴覚刺激が少なくなって、認知機能が低下することがあります。
 耳垢そのものが害になる事は無くても、その奥に隠れている急性中耳炎あるいは慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎、外耳道真珠腫、聴器腫瘍(外耳道癌や中耳癌)などの重大な疾患が耳垢に遮蔽されて診断が遅れたり、治療の妨げになることが一番の問題です。また、補聴器を使用している人は、耳垢によって補聴器の機能を低下させていることがありますから、耳垢が溜まってきていないか耳鼻咽喉科で定期的にチェックをして頂くのがよいでしょう。
 耳垢は、外耳道の皮膚にある、わきがと同じ汗腺の一種の耳垢腺というところから出る分泌物と古くなって剥離脱落した表皮(皮膚細胞)および外から外耳道に入った塵埃や毛髪の破片などが混ざり合ったものです。汚いと思われている耳あかにも、次のような重要な働きがあると考えられていますから、むやみに除去するのも考え物だということです。
耳垢の働き
・その酸性で殺菌作用を有する
・蛋白分解酵素が含まれており、殺菌作用がある
・脂肪が含まれていて、敏感な外耳道皮膚を保護している
・苦みがあり、昆虫などの進入を防いでくれる。
 ⇒外耳道有生異物外耳道にムシが入ったときの対処法

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