嗅覚障害 笠井耳鼻咽喉科クリニック・自由が丘診療室
【質問】
 数年前から、
においを感じなくなり、耳鼻科でもらった蓄膿症の飲み薬と点鼻薬を使うと、においが戻りますが、中止すると1週間ぐらいで、またしなくなります。薬を使ってにおいが戻っても、薬をやめるとまた、しなくなるという繰り返しです。どうして嗅覚障害が起きるのでしょうか。飲み薬と点鼻薬は何の薬なのですか。長期に使って大丈夫なのでしょうか。
【回答】
 においは鼻と口を通って鼻の奥の鼻腔に入り、鼻腔内の天井部分にある嗅粘膜にたどりついて嗅神経を刺激します。その刺激が大脳へ伝えられ、どんな匂いかが認知されます。このルートのいずれの一部分でも不具合があると嗅覚障害が起きます。
嗅覚障害 嗅神経 嗅糸
 ニオイを感じる受容器は、耳鼻咽喉科の通常の鼻鏡検査では視ることが出来ないほど奥の鼻腔天井部にある切手1枚分ほどの嗅上皮と呼ばれる部位にあり、ヒトではここに500万個の嗅細胞が存在します。嗅覚障害で多いのは鼻づまりや嗅粘膜の障害で、原因の約8割を占めると考えられています。鼻の通りが悪くなって起こるのを
呼吸性の嗅覚障害といい、鼻茸が出来ているために鼻の中がふさがっている場合やアレルギー性鼻炎や肥厚性鼻炎で粘膜が腫れているために鼻呼吸が障害されている場合です。これだけならそれほど重症となりませんが、これに対して嗅粘膜性の嗅覚障害が起こると、嗅覚は著しく減退し、ほとんどゼロになることもあります。代表的なのが慢性の副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)によって起こるもので、呼吸性嗅覚障害と重なっていることが多く、味覚障害を伴っていることもあり、治療にも時間がかかります。気管支喘息に鼻茸と嗅覚障害を伴う副鼻腔炎を合併している方では、アスピリン喘息という病態のことがあり、薬や手術治療に際してだけでなく日常生活上でも思わぬ物質によって喘息発作が誘発されることがあり注意が必要です。他にも交通事故などによる頭部外傷や脳腫瘍、頭蓋内手術等によって嗅神経や中枢神経系が破壊されてしまうことが原因となる神経性の嗅覚障害(中枢性嗅覚障害)があります。また、アルツハイマー病では病初期の段階から中枢性の嗅覚障害が起こることが知られています。中枢神経がやられてしまった方の場合には、匂いの感覚が全く消失して無臭症となることが多く、簡単には戻りません。嗅覚神経が生き残っているかどうかは、ニンニク臭のするアリナミン注射液(いわゆる「ニンニク注射」と称して、スポーツ選手などが疲労回復や体力増強のために行っているものと同じビタミンB1製剤です)を静脈注射することで臭いを感じるかどうかの静脈性嗅覚検査で判断できます。あなたの場合は、においが何度か戻っていることから、副鼻腔炎が原因の嗅粘膜性の嗅覚障害と考えられます。アレルギー性鼻炎やいわゆるカゼ症候群のあとにも同じような嗅覚障害が起きます。耳鼻咽喉科での副鼻腔炎の治療や家庭では「鼻うがい」や「嗅覚トレーニング」も有効な場合があります。
 リンデロン液などの点鼻薬はステロイドホルモンが主成分で、匂い回復の特効薬です。仰向けに寝た状態で鼻の穴から少量をたらすと、薬が嗅粘膜に届き、炎症を抑えます。この点鼻薬の使い方は独特な方法で、頭部をうんと下げる懸垂頭位という状態で点鼻を行う必要があります。ちょっとしたコツが必要ですから、処方されたら使い方に関して十分指導を受けて下さい。効果が無いという方の中には間違った使い方をしている方があります。まず2カ月位を目安に点鼻を続けて、においが戻ってくるかどうかをみます。普通、神経は一度死んでしまうと再生しないのですが、嗅覚神経は新しいものが生まれてきます。ある程度の数の神経が生まれてくる目安が2カ月といわれています。においが戻ると勝手にやめてしまう方が多いのですが、点鼻薬の止め方は大切です。戻った嗅覚が維持できるかどうかを確かめながら、1日数回だったものを1日二〜三回から1日一回にして、臭いがしていれば2日に一回、3日に一回というように使用回数を減らしていきます。臭いが戻ったからということで、点鼻治療を急に止めてしまうと、また臭いがわからなくなってしまうことは結構あることで、慢性の副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎がある場合は、その治療も継続しないと嗅覚障害は反復して起こります。副作用に関しては極めて微量を局所に使用するだけなので、重い副作用は出ませんが、漫然と長期間使用することは控えます。ちょっと使っただけで顔がむくむといった軽い副作用が出る人もいますので、その場合は薬を止めていただき、ステロイドを使わない方法で副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の治療をします。重症の場合はステロイドの内服治療も試みられますが、ほとんどがこのように局所ステロイド薬の点鼻療法を中心とした方法で治療を継続します。アレルギー性鼻炎や肥厚性鼻炎による下鼻甲介の粘膜肥大に対してはレーザー処置ラジオ波凝固治療を、慢性副鼻腔炎やそれにともなう鼻茸によって匂いの通り道が塞がっている場合には内視鏡下鼻内手術( ESS )などの手術的治療も併用して治すこともあります。
(感冒後嗅覚障害鼻のしくみと嗅覚の解説臭いがわかるしくみ図においを嗅ぐしくみと嗅覚障害1-2嗅覚障害とステロイド点鼻薬鼻のしくみと働き鼻の構造と役割嗅覚障害診療ガイドライン
嗅覚・味覚障害と新型コロナウイルス感染症について−耳鼻咽喉科からのお知らせとお願い−日本耳鼻咽喉科学会HP

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参考
【嗅覚障害の種類】
 呼吸性嗅覚障害:鼻腔内の空気の通りが悪いために、においが嗅粘膜に届かない状態
  慢性副鼻腔炎、鼻茸、アレルギー性鼻炎、鼻中隔彎曲症、肥厚性鼻炎など
 末梢性嗅覚障害
  嗅粘膜性嗅覚障害:風邪、インフルエンザなどで嗅粘膜が傷害された場合
  末梢神経性嗅覚障害性:後頭部外傷で頭部に強い衝撃を受けて嗅糸が切れた場合
 中枢性嗅覚障害:頭部外傷、脳腫瘍、脳梗塞、アルツハイマー病、パーキンソン病など

【嗅覚に関するいろいろな症状】
 嗅覚過敏:嗅覚が異常に過敏な状態。ある種の薬物使用時や女性の性周期で。
 嗅覚減退、嗅覚脱失:文字通りに嗅覚が弱い、あるいは全く嗅覚の無いもの。
 嗅覚錯誤:本来の匂いと異なった匂いを感じるもの。
 嗅覚幻覚:匂いが無いのに匂いを感じるもの。
 異臭症:自分だけで悪臭があると思い込んでいる、自覚的悪臭症。