甲状腺機能の障害によって様々な症状が出現します。急に強い症状が出るようなことが少なく、不定愁訴的な症状が多いという臨床上の特徴や一般的に行われる検査での異常値からは、甲状腺ではない他の病気と誤まって診断されることがあります。甲状腺は様々な病変を内在することが多く、成人の20人に1人くらいは異常があり、特に女性に多いとされています。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることによる甲状腺機能亢進症の代表的疾患はバセドウ病であり、暑がりになる、火照る、イライラする、肌の痒み、食欲が増すといった症状で、更年期障害と間違えられることがあります。甲状腺ホルモンの分泌が不足することによる甲状腺機能低下症の多くは橋本病(慢性甲状腺炎)が原因となり、むくむ、寒がりになる、肌がかさつく、落ち込む、物忘れが増えるといった症状で、うつ病と間違えられることがあります。甲状腺は頸の正中部分にありますが、甲状腺機能に異常があっても必ずしも腫れているとは限らず、またたとえ腫れていても丹念な触診をしないと一見しただけではわからないことも多く、 甲状腺疾患は見逃されやすい疾患です。甲状腺機能障害の確実な診断をつけるためには甲状腺機能検査、特に血液検査が重要です。
甲状腺の位置
【甲状腺ホルモンが過剰な場合:甲状腺機能亢進症の症状】
疲れ易い、全身倦怠、体重減少、微熱、暑がり、多汗、動悸(頻脈)、息切れ、不整脈、食欲元進、口渇、下痢(便通が多い)、甲状腺の腫れ、いらいら、落ち着きがない、集中力低下、神経質、不安感、イライラ感、集中力低下、不眠、手指振戦、筋力低下、周期性四肢麻痺(男性)、頭痛、皮膚が温かい、顔面紅潮、湿潤、多汗、脱毛、浮腫、かゆみ、蕁麻疹、尋常性座瘡(にきび)、爪の変形、前脛骨粘液水腫(稀)、眼球突出、凝視、眼裂開大、眼瞼牽引、まぶたの腫れ、複視、女性(月経不順、月経過少、無月経)
【甲状腺機能亢進症と誤ることのある疾病とその原因となる症状と検査異常値】
心疾患(心房細動、動悸、息切れ)、本態性振戦(振戦)、ノイローゼ(いらいら、易刺激性)、悪性腫瘍(体重減少)、神経疾患(周期性四肢麻痺)、筋疾患(筋力低下、筋萎縮)、糖尿病(高血糖、尿糖陽性)、更年期障害。
【一般検査】T−Chol↓、ALP↑、LAP↑、ALT・AST↑、FBS↑
【特殊検査】TSHレセプター抗体↑or→、フリーT4↑、TSH↓、フリーT3↑
【甲状腺ホルモンが不足している場合:甲状腺機能低下症の症状】
疲れ易い、眠気、体重増加、むくみ、まぶたのむくみ、押したあとが残らない浮腫、寒がり、嗄声、めまい、息切れ、徐脈、食欲不振、便秘、関節痛、甲状腺の腫れ、成長遅滞、動作緩慢、精神活動遅滞、うつ状態、無気力、眠気、記憶力低下、言語緩徐、筋肉痛、頭痛、皮膚乾燥、脱毛、発汗低下、かゆみ、舌肥大、聴力低下、 女性(月経不順、月経過多)
【甲状腺機能低下症と誤ることのある疾病とその原因となる症状と検査異常値】
高脂血症(コレステロール高値)、慢性肝障害(ALT・AST高値)、筋疾患(CK高値)、認知症(記憶力低下・計算力低下)、腎疾患/心疾患(むくみ)、心疾患(動悸、息切れ)、脳血管障害(傾眠傾向、動作緩慢)、鉄欠乏性貧血(貧血)、うつ病。
【一般検査】T−Chol↑、CK↑、LDH↑、ALT・AST↑、ZTT↑
【特殊検査】抗サイログロブリン抗体↑、抗TPO抗体↑、フリーT4↓、TSH↑、フリーT3↓
自由が丘耳鼻咽喉科 笠井クリニック
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[資料]
甲状腺ホルモン過剰症の原因
●バセドウ病(TRABによる甲状腺刺激)
●無痛性甲状腺炎(甲状腺内ホルモンの漏出)
●亜急性甲状腺炎(甲状腺の破壊による甲状腺内ホルモンの漏出)
●甲状腺ホルモン過剰摂取(やせ薬、低下症治療中チラージン過多)
など
●バセドウ病
a)臨床所見
1.頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等の甲状腺中毒症所見
2.びまん性甲状腺腫大
3.眼球突出または特有の眼症状
b)検査所見
1.遊離T4、遊離T3のいずれか一方または両方高値
2.TSH低値(0.1μ∪/ml以下)
3.抗TSH受容体抗体(TRAb,TB_)陽性、または刺激抗体(TSAb)陽性
4.放射線ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率高値、シンチグラフィでびまん性
1)バセドウ病(甲状腺ホルモン産生亢進)
a)の1つ以上に加えて、b)の4つを有するもの
2)確からしいバセドウ病
a)の1つ以上にカロえて、b)の1、2、3を有するもの
3)バセドウ病の疑い
a)の1つ以上に加えて、b)の1と2を有し、遊離T4、遊離T3高値が3ケ月以上続くもの
※付記
1.コレステロール低値、アルカリフォスターゼ高値を示すことが多い。
2.遊離T4正常で遊離T3のみが高値の場合が稀にある。
3.眼症状がありTRAbまたはTSAb陽性であるが、遊離T4およびTSHが正常の例はeuthyroid Graves' diseaseまたはeuthyroid ophthalmopathyといわれる。
4.高齢者の場合、臨床症状が乏しく、甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意をする。
5.小児では学力低下、身長促進、落ち着きの無さ等を認める。
6.遊離T3(pg/ml)/遊離T4(ng/dl)比は無痛性甲状腺炎の除外に参考となる。
●亜急性甲状腺炎
a)臨床所見
有病性甲状腺腫
b)検査所見
1.CRPまたは赤沈高値
2.遊離T4高値、TSH低値(0.1μ∪/ml以下)
3.甲状腺超音波検査で疼痛部に一致した低エコー域
1)亜急性甲状腺炎(甲状腺ホルモンの漏出)
a)およびb)の全てを有するもの
2)亜急性甲状腺炎の疑い
a)とb)の1および2
※除外規定
橋本病の急性増悪、嚢胞への出血、急性化膿性甲状腺炎、未分化癌
※付記
1.上気道感染症状の前駆症状をしばしば伴い、高熱をみることも稀でない。
2.甲状腺の疼痛はしばしば反対側にも移動する。
3.抗甲状腺自己抗体は原則的に陰性であるが経過中弱陽性を示すことが有る。
4.細胞診で多核巨細胞を認めるが、腫瘍細胞や橋本病に特異的な所見を認めない。
5.急性期は放射線ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率の低下を認める。
●無痛性甲状腺炎
a)臨床所見
1.甲状腺痛を伴わない甲状腺中毒症
2.甲状腺中毒症の自然改善(通常3ケ月以内)
b)検査所見
1.遊離T4高値
2.TSH低値(0.1μ∪/ml以下)
3.抗TSH受容体抗体陰性
4.放射性ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率低値
1)無痛性甲状腺炎
a)およびb)の全てを有するもの
2)無痛性甲状腺炎の疑い
a)の全てとb)の1〜3を有するもの
※除外規定
甲状腺ホルモンの過剰摂取例を除く。
※付記
1.慢性甲状腺炎(橋本病)や寛解バセドウ病の経過中発症するものである。
2.出産後数ヶ月でしばしば発症する。
3.甲状腺中毒症状は軽度の場合が多い。
4.病初期の甲状腺中毒症が見逃され、その後一過性の甲状腺機能低下症で気付かれることがある。
5.抗TSH受容体抗体陽性例が稀にある。
甲状腺機能低下の原因
●慢性甲状腺炎(橋本病)
●ヨード過剰摂取による甲状腺ホルモン合成抑制(コンプ、健康食品、イソジン頻回使用)
●バセドウ病治療後
●甲状腺腫瘍術後
●甲状腺ホルモン合成障害
など
●原発性甲状腺機能低下症
a)臨床所見
無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声等いずれかの症状
b)検査所見
遊離T4低値およびTSH高値
原発性甲状腺機能低下症
a)およびb)を有するもの
※付記
1.慢性甲状腺炎(橋本病)が原因の場合、抗マイクロゾーム(またはTPO)抗体または抗サイログロブリン抗体陽性となる。
2.阻害型抗TSH受容体抗体により本症が発生することがある。
3. コレステロール高値、クレアチンフォスフォキナーゼ高値を示すことが多い。
4.出産後や∃一ド摂取過多などの場合は一過性甲状腺機能低下症の可能怪が高い。
5.小児では成長障害、甲状腺腫大に注意する。
●中枢性甲状腺機能低下症
a)臨床所見
無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声等いずれかの症状
b)検査所見
遊離T4低値でTSHが低値〜正常
中枢性甲状腺機能低下症
a)およびb)を有するもの
※除外規定
甲状腺中毒症の回復期、重症疾患合併例、TSHを低下させる薬剤の服用例を除く。
※付記
1.視床下部性甲状腺機能低下症の一部ではTSH値が10μ∪/ml位まで逆に高値を示すことがある。
2.中枢性甲状腺機能低下症の診断では下垂体ホルモン分泌刺激試験が必要なので、専門医への紹介が望ましい。
●慢性甲状腺炎(橋本病)
a)臨床所見
1.びまん性甲状腺腫大
但しバセドウ病など他の原因が認められないもの
b)検査所見
1.抗甲状腺マイクロゾーム(またはTPO)抗体陽性
2.抗サイログロブリン抗体陽性
3. 細胞診でリンパ球浸潤を認める
1)慢性甲状腺炎(橋本病)
a)およびb)の1つ以上を有するもの
※付記
1.他の原因が認められない原発性甲状腺機能低下症は慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いとする。
2.甲状腺機能異常も甲状腺腫大も認めないが抗マイクロゾーム抗体およびまたは抗サイログロブリン抗体陽性の場合は慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いとする。
3.自己抗体陽性の甲状腺腫瘍は慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いと腫瘍の合併と考える。
4.甲状腺超音波検査で内部エコー低下や不均一を認めるものは慢性甲状腺炎(橋本病)の可能性が強い。