扁桃の膿栓と口臭
【質問】
扁桃腺のくぼみに食べ物のカスなのか臭くて白い膿のようなものが入りこみ、口臭がいつも気になっています。病院で診てもらいましたが、「自然に出るのを待てばよい」とだけ言われ、治療していただけませんでした。気になるので、自分で取り除こうとするのですが、なかなかきれいに取れません。この、のどから出る臭いものは一体なんでしょうか。カスが入らないようにするとか、取り除く方法はないのでしょうか?
【回答】
扁桃と陰窩(腺窩)について
扁桃腺は、正しくは口蓋扁桃「こうがいへんとう」あるいは単に扁桃「へんとう」[ tonsil ]と言うこともありますが、口の奥の両側にある、アーモンドのような形をした親指大のリンパ組織の塊で、のどの粘膜の中に埋まっています。扁桃にはリンパ球が集まっており、細菌やビールスなどの異物を殺す働きがあります。扁桃の表面には陰窩「いんか」あるいは腺窩「せんか」[ tonsil crypts ]と呼ばれる多数の小さい穴が開いており、扁桃全体として表面積が大きくなって、細菌をより効率的に殺せるような構造になっています。その陰窩の奥には扁桃組織の壊死細胞、細菌の死骸である細菌塊、食べ物のカス等が溜まります。この塊を、膿栓「のうせん」[ tonsillolith, tonsil stones, 白苔とその成因について:white spot on tonsils, causes of white spot on tonsils ]といいます。雑菌が生成する化学物質を含む膿栓は特有の悪臭があるので、口臭の一因となります。
扁桃肥大、腺窩(陰窩)と膿栓
一見して何もないような扁桃であっても、前口蓋弓を軽く圧迫することにより、扁桃窩から口蓋扁桃が押し出されてくると同時に腺窩に溜まっていた膿栓や膿汁が流出してくる(くさい玉の正体を調査せよ)ことは珍しいことではありません。むしろ何もない扁桃の方が希なことであって、耳鼻咽喉科外来では、鼻咽腔や喉頭用の側方視の出来る内視鏡を用いることで、下図のような埋没型の口蓋扁桃であっても、陰窩に貯留する膿栓(様々な扁桃の膿栓所見)を観察することが出来ます。ただし、無数に存在する小さな陰窩や奥深く入り込んでいる上扁桃窩では内視鏡を使っても見えない膿栓が貯留していることもあります。このような扁桃窩に隠れた口蓋扁桃や陰窩の開口部が閉塞して深部が見えていないような場合においても、陰窩の洗浄や吸引処置を行うことにより膿栓や膿汁の流出を直接証明することも出来ます。
→→右 左
【前・後口蓋弓に挟まれた扁桃窩に存在する埋没型口蓋扁桃を内視鏡で観察することで扁桃の陰窩に貯留する膿栓を確認】
扁桃の膿栓症の治療について
このように健常な人でも膿栓の見られることは通常よくあることで、特に症状がなけれは放置してもなんら差し障りありません。しかし、かぜをひく度に高熱やのどの痛みがでる急性扁桃炎、陰窩性(腺窩性)扁桃炎の急性増悪を繰り返す場合や、それほど扁桃自体は大きくなくても扁桃周囲炎や扁桃周囲膿瘍などの重症化を起こしやすい場合、微熱が続いたり腎炎などの他の臓器に悪影響を及ぼす慢性扁桃炎、あるいはいびきや睡眠時無呼吸症の原因となるような扁桃肥大があれば、手術的治療が必要となります。
また、膿栓は口臭の原因となることから、口臭が気になったり、膿栓が貯留することで咽喉頭の違和感が続くような方では治療の対象と考えられます。膿栓は主に口蓋扁桃に付着しますが、上咽頭に存在する咽頭扁桃(アデノイド)や舌根扁桃を始めワルダイエル輪を構成するリンパ組織にはどこにでも出来ます。膿栓の保存的治療法(扁桃膿栓症の診断と保存的治療:学会報告)としては、専用の器具で膿栓の吸引や陰窩の洗浄といった処置が行われます。腺窩の洗浄や膿栓の吸引といった治療行為は保険診療では「扁桃処置」と称し、保険点数40点(3割負担の方で120円)の処置です。扁桃処置は主として慢性扁桃炎でのどの違和感や微熱が続いているような場合に行われる外来処置治療です。一時的に膿栓や膿汁が除去されることにより不快感は改善しますが、一回の処置で陰窩の全てがきれいにできるわけではなく、もとより根治的な治療ではありませんから、耳垢(みみあか)の除去などと同じように、また溜まれば何度でも洗浄・除去するという処置を繰り返します。陰窩洗浄や吸引治療を行う頻度の目安としては、最初は週に2、3回、症状が良くなったら週に1回、その後は気になる症状が出たときに処置するといったことでよいでしょう。扁桃の膿栓が口臭やのどの違和感の原因になっているかどうかの判断として、先ずこのようにキッチリとした扁桃陰窩の洗浄と吸引(扁桃処置)を何度かくり返し行って、自覚症状が改善するのかどうかを見極めることが大切です。
このような扁桃処置は急性扁桃炎や慢性扁桃炎急性増悪時などの急性炎症を起こして扁桃が腫れているときや痛みがあるときには、かえって症状を悪化させることがありますから、無理をして行うものではありません。急性炎症のある場合には抗生物質や消炎剤を内服して炎症が治まり、痛みや腫れが引いてから扁桃処置を行います。扁桃処置を受けようと思われる場合には、咽頭反射により嘔吐して食べたものを戻すことが無いように、受診の4〜5時間前から飲食をしないで下さい。扁桃処置は咽頭反射が強い方や耳鼻咽喉科処置の苦手な方には向きません。最初の内は咽頭反射が強い方でも、のどの処置治療を繰り返すことで次第に慣れて治療が出来るようになる方もありますが、どうやっても出来ない方もあります。そのような方はうがいを頻回に行うといった日常での自己管理で対処して頂くのが良いでしょう。(扁桃腺にたまる白いものは何?、扁桃の白い異物、膿栓、「くさい玉の正体を調査せよ」1-2、臭い玉って何?、「くさだま」口臭の一因、微熱などに注意、扁桃膿栓症の治療、扁桃膿栓症を考える)(YouTube上の参考動画;Tonsil Stones:扁桃膿栓所見と高周波メスによる口蓋扁桃摘出手術、Tonsil Follicle:扁桃の膿栓をピックを用いて除去)(In Tonsils, a Problem the Size of a Pea:扁桃の膿栓に関するニューヨークタイムズの健康記事)、悩ましい扁桃肥大_繰り返すようなら手術を、咽頭処置と扁桃処置、扁桃膿栓と咽頭異常感)
膿栓の処置専用に使われるレーダー吸引管(扁桃膿栓の図譜)
右口蓋扁桃の膿栓 吸引嘴管で吸引除去した膿栓
扁桃のラジオ波凝固治療について
扁桃に対する外来手術としては高周波電気を用いて扁桃と陰窩を縮小させる高周波電気凝固術やCoblationあるいはCelonというラジオ波凝固装置による扁桃の凝固縮小手術(扁桃炎:新しい治療法・ラジオ波凝固術、 Tonsil Stone Cryptolysis, Tonsiilotomy:扁桃の膿栓症の解説と保存的あるいは手術的治療について 、 Tonsil Cryptolysis for Tonsil Stone:YouTube)があります。扁桃組織がある限りそこに陰窩は存在しますから、膿栓の貯留を完全に無くするためには口蓋扁桃を全て除去する口蓋扁桃全摘出手術[ Tonsillectomy
]が必要です。しかし実際の臨床の現場において、扁桃の膿栓症の症状だけでは口蓋扁桃摘出手術の適応と判断されることが殆どありません。一方、扁桃のラジオ波凝固治療はあくまでも扁桃を凝固・縮小するだけであって完全に摘出して無くしてしまう治療ではありません。また高周波凝固治療を口蓋扁桃摘出手術に先行させることは周囲組織との癒着が強くなって全摘手術を難しくさせる可能性もあるとされます。手術的治療を選択するかどうかに関しては、まず陰窩洗浄や吸引といった扁桃処置を外来通院で繰り返してみて症状の改善があるかどうか、ということが1つの目安になります。どのような疾患についてもいえることですが、安易に手術的治療を選択するべきではありません。どのような手術を選択するに当たっても手術的治療の必要性とそれに伴うリスクに関して耳鼻咽喉科の診察を受けて、主治医の先生とよく相談されるのがよいでしょう。(臨床に活かすバイポーラ治療のメリット、Celon ENTによるラジオ波凝固治療の実際、レーザーとラジオ波手術の使い分け、扁桃膿栓症と扁桃肥大の外来治療、扁桃のラジオ波治療)
扁桃膿栓症のラジオ波手術:https://youtu.be/jswapB3_SJk
扁桃肥大のラジオ波手術:https://youtu.be/cKpTk2y8pe4
扁桃を手術する目安
1. 大きい場合(扁桃肥大)
睡眠中に呼吸が乱れる、睡眠時無呼吸症の原因になっている。
いびきが大きい(イビキの出やすいノドの形)
いつも口を開けている、呼吸障害、構音障害。
食事が極端に遅い、摂食障害。
茎状突起過長症の手術に際して(扁桃肥大はなくても)。
2. 炎症が続く場合(慢性扁桃炎)
風邪をひく度に高熱が出る(一年に3〜4回以上が目安となります)。
適切な治療にもかかわらず微熱が続く原因となっている。
急性中耳炎や滲出性中耳炎を繰り返したり、ちくのう症が治らない。
息がくさい、口臭の原因、咽頭喉頭異常感症の原因になっている。
扁桃の周囲にうみがたまる扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍。
3. 体に悪影響を及ぼす場合(病巣感染症)
腎炎、皮疹、掌蹠膿疱症、関節リウマチ、慢性疲労症候群などの原因となっている。
4. 扁桃腫瘍あるいは扁桃腫瘍の疑いがある場合
扁桃癌、悪性リンパ腫、扁桃良性腫瘍など。
原発不明の頸部リンパ節転移癌の潜在性原発扁桃腫瘍の検出のため。
扁桃腫瘍が疑われる場合の診断的治療として。
これらの手術適応の基準は厳格なものではなく、あくまでもガイドラインであり、手術によって得られる利益と手術に伴うリスクと後遺症状、合併症罹患の改善率、手術に伴う費用と保存的治療に要する費用との比較、自然に症状が改善する可能性もあることなどを認識した上で、患者個別に慎重に治療法を選択する必要があります。(参考:成人扁摘の合併症発症率20%;術後出血6%、脱水症2%、耳鼻咽の疼痛11%との報告)
自由が丘耳鼻咽喉科 笠井クリニック
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