アレルギー性鼻炎、花粉症の標準的治療法
鼻アレルギーを起こさない最も確実な方法は原因物質を避けることです。ホコリやダニや化学物質などが原因ならバイオクリーンルームで過ごすこと、スギ花粉症なら花粉の飛散する時期は南の島にでも逃避すること、ですが現実的ではありません。一般的には日常生活で様々な工夫をすることになります。それでもつらい症状が出ている場合には「治療」を考えることになります。治療には保存的治療法と手術的治療法がありますが、どのような薬にしても手術でもアレルギー性鼻炎や花粉症を「治す」ことは出来ません。くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの辛いアレルギー症状を「一時的になくす」あるいは「出来るだけ軽くする」ことによって、普通の日常生活を取り戻すこと、つまり「生活の質」Quolity
Of Life を向上させることが治療の目的です。
保存的治療法としては内服薬と点鼻薬による薬物療法が一般的です。抗原特異的減感作療法は根治療法ともいえますが、効果発現が遅く確実性に欠けるのが難点です。アレルギー性鼻炎に対して薬を処方するだけの治療なら耳鼻咽喉科に限らず内科、外科、小児科などはもとより全ての診療科で一般的に行われていますし、市販薬や民間療法でもけっこう良い効果が得られる方もあるでしょう。しかし、鼻粘膜の腫脹による酷い鼻づまりに対する治療は耳鼻咽喉科でないと難しいと思います。薬による治療や耳鼻咽喉科的処置を継続しても鼻閉が改善しない方には手術的治療を考慮することになります。(参考:家族の花粉症対策、アレルギー性鼻炎と花粉症、スギ花粉症、ヒノキ花粉症の薬物治療法、花粉症の治療薬について、花粉症対策、花粉症対策図解、アレルギー性鼻炎の治療法とセルフケア、スギ花粉症の治療法、花粉症かな?)
手術的治療法としては外来で比較的簡単に行える下鼻甲介のレーザー手術、高周波電気やラジオ波による下鼻甲介粘膜凝固治療、アルゴンプラズマ凝固法、超音波メスによる下鼻甲介切除術、トリクロール酢酸による化学的粘膜焼灼術などと、一般的には入院を要する鼻中隔湾曲矯正手術、下鼻甲介粘膜下骨切除術、ビディアン神経や後鼻神経切除術など様々な手術方法が症状と程度にあわせて行われます。ただし、手術的治療を行っても何年もしない内に粘膜の再肥厚により鼻づまりが再発したり鼻汁過多が続くことも珍しいことではなく、そのようなケースでは再手術を行ったり、焼灼治療の繰り返しが必要となります。レーザーによる下鼻甲介焼灼手術やラジオ波凝固による下甲介の縮小治療は外来で簡単に行うことが出来るのが最大のメリットです。(参考:アレルギー性鼻炎の発症機序と治療、アレルギー性鼻炎の手術治療1-2-3-4 、鼻アレルギーの外来手術治療1-2-3)
炭酸ガスレーザー 半導体レーザー
ラジオ波凝固機器(セロンとコブレーター)
軽症〜中等症の場合
病型
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くしゃみ・鼻水型 | 鼻閉、充全型 |
治療 | 第2世代抗ヒスタミン薬、遊離抑制薬 、Th2サイトカイン阻害薬 抗ロイコトリエン薬、鼻噴霧用ステロイド薬 |
鼻噴霧用ステロイド薬 +抗ロイコトリエン薬 第2世代抗ヒスタミン薬 |
重症・最重症の場合
病型 | くしゃみ・鼻水型 | 鼻閉、充全型 |
治療 | 鼻噴霧用ステロイド薬 +第2世代抗ヒスタミン薬 +抗ロイコトリエン薬、経口ステロイド薬* |
|
点鼻用血管収縮薬、手術 |
基礎治療として、抗原除去・回避に努める。原因治療としては特異的免疫療法。
スギ花粉症ではシーズン1,2週間前より治療を開始。眼症状には点眼薬を使用。
症状が改善してもすぐには薬を中止せず、数ヶ月の安定を確かめ、漸減する。
*重症の場合、経口ステロイド薬を短期間、局所ステロイドと併用する。
ロイコトリエン拮抗薬、トロンボキサンA2拮抗薬は鼻閉に有効と報告されている。
(鼻アレルギー診療ガイドラインより改変)
ステロイドの筋肉注射はその副作用の面から標準的治療として一般的には勧められていません。
自由が丘耳鼻咽喉科・笠井クリニック
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アレルギー性鼻炎の原因抗原による分類
鼻アレルギーの分類 |
期間
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原因
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通年性鼻アレルギー
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一年中
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ダニ、ハウスダスト(ほこり)が主 ネコ、イヌ、ハムスター、ウサギ等のペットの毛 カビのアルテルナリア、アスペルギルス、カンジダ |
季節性鼻アレルギー
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季節
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1〜4月;スギ 4〜5月;ヒノキ 初夏;カモガヤを中心としたイネ科植物 晩秋〜秋;ブタクサやヨモギ等のキク科植物:秋の花粉症 |
アレルギー性鼻炎の治療薬 (参考:花粉症の薬)
飲んですぐに効果が発現し、持続して症状が完全に無くなり、副作用の心配が全く無い、その上に安価であるというのが薬の理想ですが、現実には完璧な薬は存在しません。どのくらい自覚症状の改善という要求を満たすことが出来、しかも眠気やだるさの副作用が発現しないでという観点から、以下の薬の中で選択することになります。薬は全ての人に同じ効果をもたらすことはありません。また、個々人でも体調や暴露される抗原の量などによって薬の効き方は時々刻々に変わって行きますから、ずっと同一の薬で維持できることはなく、症状により適宜薬の変更が必要になります。
アレルギー性鼻炎に適応のある主な経口の抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬
●ルパフィン、デザレックス、ビラノア、ザイザル、アレロック、アレグラ、ディレグラ、クラリチン、ジルテック、エバステル、アレジオン、タリオン、セルテクト、ザジテン、アゼプチン、ダレン、レミカット、アレギサール、ペミラストン、リザベン、バイナス、アイピーディ、オノン、ゼスラン、メキタジン、ニポラジン、ペリアクチン、タベジール、ポララミン、セレスタミン、など
●アレサガテープ(貼付薬)
参考:抗アレルギー薬とレーザー治療の効果
アレルギー性鼻炎に適応のある抗アレルギー点鼻薬、ステロイド点鼻薬、抗コリン点鼻薬
●インタール点鼻液、ソルファ点鼻液、ザジテン点鼻液、リボスチン点鼻液、等
●アラミスト点鼻液、アルデシンAQ点鼻液、フルナーゼ点鼻液、シナクリン点鼻液、リノコート点鼻薬、ナゾネックス点鼻液、エリザス点鼻薬、等のステロイド外用薬
●フルブロン、アトロベント、等の抗コリン作用薬は点鼻用としては販売中止となっている
鼻アレルギーに用いられる漢方
●小青竜湯、葛根湯加川弓辛夷、麦門冬湯、麻黄附子細辛湯、柴胡桂枝湯、など
血管収縮性点鼻薬
●プリビナ、コールタイジン、ナーベル、ナシビン、トーク、ABCスプレー、など
抗原特異的・アレルゲン免疫療法
●シダキュア(スギ花粉舌下錠)
※2018年6月より、スギ花粉の舌下免疫療法薬の錠剤「シダキュアスギ花粉舌下錠」が発売された。スギ花粉症に対する初めての減感作療法薬として2014年に登場した「シダトレンスギ花粉舌下液」に比べて、保管方法が簡便で、使用年齢に制限がないなどの利点がある。従来の皮下注射による減感作療法に比べて注射による痛みが無く、患者が自宅で治療できるのが特徴。5
歳以上65歳未満のスギ花粉症患者に適応。治療には3〜5年かかり、全ての患者に効果が期待できるわけではない。通常、投与開始後 1 週間は、シダキュアスギ花粉舌下
錠2,000JAUを 1 日 1 回 1 錠、投与 2 週目以降は、シダ キュアスギ花粉舌下錠5,000JAUを 1 日 1 回 1 錠、舌下
にて 1 分間保持した後、飲み込む。その後 5 分間は、 うがいや飲食を控える。(アレルゲン免疫療法ナビ・シダキュアを服用される患者さんへ)
●アシテア、ミティキュア(ダニ舌下免疫療法薬)「ダニ抗原によるアレルギー性鼻炎に対する減感作療法」
※2015年末、2種の室内塵ダニ(ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ)から抽出したダニエキス原末のアレルゲン免疫療法内服製剤(アシテアダニ舌下錠、ミティキュアダニ舌下錠)が発売された。適応は12歳以上となっている。(ミティキュアを服用される患者さんへ)
抗IgE抗体薬
●ゾレア:季節性アレルギー性鼻炎(既存治療で効果不十分な重症又は最重症患者に限る)に対して、アレルギー症状を引き起こすIgE抗体に作用する抗体製剤が2019年12月より保険適応となった。原因花粉抗原の飛散時期のみに注射投与される。
薬の種類と効果に関して
内服薬のうち、抗ヒスタミン薬は第一世代の古いタイプのものでは効果は数分で発現しますが、眠気の少ない新しい第二世代のものはもう少し時間がかかることが多いようです。化学伝達物質遊離抑制薬やロイコトリエン受容体拮抗薬、トロンボキサンA2受容体拮抗薬、TH2サイトカイン阻害剤などは効果発現までに1〜2週間を要します。血管収縮性点鼻薬は数分で効果が出ますが、持続時間はせいぜい数時間です。ステロイド点鼻薬は効果が十分に出るまでに数日かかりますが、持続効果があります。色々な種類の薬を個々人の症状程度や病脳期間に合わせて選択するのがよいでしょう。
アレルギー性鼻炎の重症度の目安
種類
程度 |
くしゃみ
一日の回数 |
鼻水
鼻をかむ回数 |
鼻閉
鼻詰まりの程度 |
最重症
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21 回以上
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21 回以上
|
一日中完全に詰まっている |
重症
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20〜11回
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20〜11回
|
鼻閉が非常に強く、一日のうちかなりの時間が口呼吸となる |
中等症
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10〜 6回
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10〜 6回
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鼻閉が強く、口呼吸が一日のうち時々ある |
軽症
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5〜 1回
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5〜 1回
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口呼吸は全くないが、鼻閉がある |
無症状
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0 回
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0 回
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なし |
日常生活の支障度
最重症:全く仕事が出来ない 重症:仕事が手に付かないほど苦しい 軽症:仕事にあまり差し支えない
血液検査で原因抗原の検索と抗体がどのくらいの量あるかを調べる方法も簡単に出来て、ある程度重症度の目安になります。しかし一番の目安となるのはご自身の自覚症状と日常生活への支障度です。鼻粘膜が腫脹して完全に鼻が詰まっている状態でも、慣れてしまって平気で過ごされている方がある反面、ほんのわずかな症状でも普段は何ともないような方では非常に苦しく感じられて夜も眠れないとおっしゃる方もあります。また、人前に出る必要のある職業の方にとっては、少しの症状でさえも社会生活を送る上で大変困る場合もあり、症状と治療の必要性に関しては個人差のとても大きいものです。
アレルギー性鼻炎の治療法の選択
治療法は重症度と病型の組み合わせで選択しますが、症状をどの程度につらく感じるかは非常に個人差が大きいもので、治療法の選択は画一的なものではありません。また、どの方法でなくてはいけないとか、どの方法が最もよいと言うことでも無く、患者さんご自身の希望や生活習慣などに合わせて行うことになります。全ての治療法に利点と欠点があり、主作用と副作用が伴い、治療効果には限界がありますから、万人に一律に適応できる治療方法は存在しません。
参考:小児のアレルギー性鼻炎、家庭でのケアについて
日本アレルギー協会のアレルギー性鼻炎ガイド、食物アレルギーの診療の手引き2011
「アレルギー疾患navi」(東京都のサイト)