1. 最も多い末梢性顔面神経麻痺の原因;60〜70%はBell麻痺(ベル麻痺)
特発性顔面神経麻痺つまり原因不明の顔面神経麻痺がベル〔人名〕麻痺です。ベル麻痺は6割以上が単純ヘルペスウイルスが関与していると推測されていますが、血液検査などで確証の得られるケースは通常の外来診療ではそれほど多くはありません。顔面神経の栄養血管がヘルペスウイルスやその他の原因で貧血で低酸素状態になり、顔面神経に浮腫がおこるために麻痺が発生すると考えられています。背景因子としては、全く何もないことが多いのですが、高血圧、動脈硬化、糖尿病などの関与があると思われるケースもあります。疲労、ストレス、風邪、寒冷の暴露、妊娠などが引き金になっていると考えられることもあります。
顔面神経麻痺は突然症状が出現して、ゆっくり治ってゆきます。うんと軽い場合には外来でステロイドの内服で経過をみていると1週間くらいで治りますが、重度の顔面神経麻痺の場合には1ヶ月以上かかっても回復しないこともあります。重症例は入院してステロイド等の点滴を行います。ウイルスの関与も考えて抗ウイルス剤を使うこともあります。最重症例では手術(顔面神経減荷術)が行われることもあります。
自然治癒率は60〜70%で、ステロイド治療により95%の治癒率となっていますが、発症1週間以内に治療を始めることが重要です。再発はきわめて希なことです。発症時に完全麻痺のケースでは、顔面麻痺が残ったり、顔面のけいれんが起こるようになることもあります。顔面表情筋のリハビリ(1,2)は病的共同運動(口を動かすと目が閉じてしまうといった異常な動きが起こる)の後遺症を残すことがあるともいわれていますから、主治医の指示の元に慎重に行ってください。軽いベル麻痺は自然に治ることが多いのですが、できる限り安静を心がけ、後遺症の心配もあるので放置せずに早めに耳鼻咽喉科や神経内科、脳神経外科などを受診する様にしてください。
2. 次に多い末梢性顔面神経麻痺の原因;10〜15%はRamsay Hunt症候群(ラムゼィハント症候群)
帯状疱疹というのは幼少時に水ぼうそうを発症させる水痘・帯状疱疹ウイルスの再発により生じます。潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスが免疫機能が低下したときなどに、外耳道、耳介、顔面神経に再感染してハント症候群が発症します。耳に強い痛みを伴う水泡ができ、それと前後して顔面神経麻痺がおきるのが特徴です。発疹は軟口蓋や舌に広範囲に出現することもありますが、見落としてしまうほど小さな耳介の皮膚病変でも顔面神経麻痺を引き起こすことがあります。また、内耳や内耳神経にウイルスが波及して難聴やめまいが合併することもあります。顔面神経麻痺の回復期に「食事をすると涙が出る」ことがあり、ワニの涙症候群crocodile
tears syndromeと呼ばれる症状が出る方もあります。帯状疱疹の治療には、アシクロビル製剤(ゾビラックスなど)や塩酸バラシクロビル製剤(バルトレックス)などの抗ウイルス剤の内服や点滴、ステロイドの内服や点滴、免疫グロブリン等が行われますが、Bell麻痺より治癒率がかなり悪く後遺症を残すことも多くやっかいな疾患です。
その他の顔面神経麻痺として多い原因には、
3. 外傷性顔面神経麻痺(側頭骨骨折、顔面打撲、切り傷、銃創など)に対しては、完全麻痺のケースでは顔面神経減荷手術などの手術が必要なこともあります。
4. 聴神経腫瘍、耳下腺腫瘍、顎下腺腫瘍・唾石症などの手術後に顔面神経麻痺がおこることがあります。
5. 中耳炎性顔面神経麻痺。
参考:
末梢性顔面神経麻痺を来す疾患
1) 特発性:Bell麻痺
2) 感染性:Hunt症候群,耳下腺炎,伝染性単核球症,ポリオ,髄膜炎,脳炎,梅毒,マラリア,風疹,水痘,破傷風
3) 外傷性:頭部外傷,側頭骨骨折,顔面外傷,手術時損傷
4) 腫瘍性:耳下腺腫瘍,小脳橋角部腫瘍,顔面神経鞘腫,頸静脈球腫瘍,脳腫瘍,外耳道癌,中耳悪性腫瘍,白血病
5) 中耳炎:真珠腫性中耳炎,急性中耳炎,慢性化膿性中耳炎,中耳結核,錐体炎,悪性外耳道炎
6) 先天性:部分的顔面神経麻痺,口角下制筋形成不全,サリドマイド症,Mobius症候群,分娩周期外傷
7) 代謝疾患:糖尿病,アルコール性ニューロパチー,重症筋無力症,高カルシウム血症,ポルフィリン尿症
8) 全身疾患:sarcoidosis ( Heerfordt症候群),Guillain-Barre症候群,Melkersson-Rosenthal症候群,膠原病
自由が丘耳鼻咽喉科・笠井クリニック
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