夜恋


同族でも滅多にお目にかかれない美しさに、一瞬で目を奪われた。
闇に紛れて近づき、手を差し伸べて誘った。
「俺と、共に来い。・・・人間。」
窓辺に立った碧い瞳は、瞬きもせずに見つめ返す。
「・・・構わないよ。」
抵抗されたら、力ずくでも自分のものにしようと思っていた。
だから、イザークはらしくもなく、夜でもなお薄青に光る目を瞠らせる。
微笑んで彼は、イザークの手におのれのそれを与えた。

優しげな曲線を描く首筋に舌を這わせて丹念に舐めながら、イザークは薄青い眼を細めた。
指で触るよりも、こうやって敏感な器官を使った方が感覚はリアルだ。
薄い皮膚の下に走る血管を舌先でなぞり、自分自身を焦らすようにそれを幾度も繰り返す。
首は、心臓の次に命に近い。
震える肌、徐々に速くなっていく息遣いを近くで聞くのも、食事を美味いものにする。
温かい血潮を啜りたがる本能が、突き上げる衝動へと昇華するまで、ある種の絶頂感へと至る道程を、彼は存分に時間をかけて愉しむ。
碧色の目を見開いた、アスランの怖れの滲む表情も。
大きく開けた口に覗いた、唾液に濡れ光る長く白く尖った牙の先端が、柔らかい肌の上を引っ掻くように走り、うっすらと細い痕をつける。
不安と、期待と。種族を異にする者同士が、互いの心情をこれほどしっかりと掴み取れるのは、この時を置いて他にはあるまい。
ひく、と喉を引きつらせたのは、どちらだろうか。

年老いた者は、血が薄くて不味い。
子供の血は、同族の中には好んで飲むものもいるけれども、量が少ないし熱すぎる。質も安定しない。
概して男のそれは苦く、女は甘い。
味の良い血液は、芳醇な酒にも似る。

首に残っている痕からは少し場所をずらして、イザークは牙を当てる。
顎に力を込めて、ざくりと音が聞こえるほど、白い皮膚を突き破るように打ち込んだ。
向かい合って座るアスランの手が強張り、骨が軋むほどきつく肩に食い込んだ。
さっと拡がった錆びた鉄の匂いが、辺りの空気を濃厚なものに変える。
「っ・・・・」
半ばまで牙の埋まっている傷口から真っ赤な血が滲み、肩から胸の方へと細く筋を作って流れていくのを、ざらついた舌が逃さぬように舐め取る。
血の気が引いて青ざめた唇が、痛みを耐えるように引き結ばれた。
ゆっくりと引き抜いてゆき、夜目にも鮮やかな紅が奔流となって迸る前に、喰らいついた。
温かい口腔内を、それより更に温かい、甘みを持った液体が満たす。
しばらくは、勢いに任せて傷口を口で塞いでいるだけでいい。
喉へと流れ込む血の中で舌を踊らせ、ぬるりとした舌触りと味とを堪能する。
抱えていた痩身から力が抜け、くったりと倒れ込んでくるのを、腰を抱いて引き寄せ、支える。
無防備に広げられた首筋に再び顔を寄せ、新たな赤を溢れさせる噛み痕に唇を当てて強く吸った。
「ぅあっ・・・・・」
苦痛に耐えかねているとも、快楽に酔っているともつかない顔で、アスランが身体を捩った。
人間同士が交わる時に似ていると、月の光を浴びながらイザークは思う。こういう表情を目にしていると。
「愛している」
戯れに言ってみた。
「・・・・・耳が腐る。」
荒い息遣いと共に返ってきたのは、そんな物騒な言葉だった。

彼が何を思って自分の元にやって来たのか、それは共に暮らすようになった今でもわからなかった。
月光に溶けそうに白い肌、その下に流れる血潮をおのれのものに出来ただけで十分だった。
しかし、もどかしく感じるときがある。
何を思ってここにいるのか。何を思って夜空を見上げるのか。
イザークはなおもアスランの首を噛み、細い身体を組み敷いて支配した。
けれど、どれだけ肌を荒らしても、心までは思い通りになりはしない。




こちらのSSは、管理人の「心のアス受け女王様」の1人である(←大迷惑)ambivalence満田さまにキリリクとして書いていただいたものです。
ああ、嬉しい…vv
吸血鬼ネタだなんてキテレツなリクを引き受けて下さった満田さまに心からの感謝を捧げたいと思います。イザークもアスランも夢のように美しいですよね!

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