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エル・ドラド THE ROAD TO EL DORADO(2000年)-サントラ盤-

DreamWorks●PHCW-1090(CD日本盤)

Produced by:パトリック・レナード

 2000年のスタートを飾るこの作品はアニメ映画「エル・ドラド」のサウンドトラックである。1999年のミュージカル作品「アイーダ」と同様に全曲EJとティム・ライスの共作によるもので、その内容の充実ぶりからもこれはEJのオリジナル作品とみてもいいかもしれない。前作「アイーダ」はミュージカルという性格上、詩の世界重視のポップ性を抑制したメロディー・ラインと多彩なゲスト・ボーカルによる企画アルバム色が強かったが、本作「エル・ドラド」は、アニメ向きの軽快な曲が多く、EJ自身のボーカルもタップリと聴けてEJ本来のポップな世界で全体を包み込んでいる。

 EJのポップ・センスが凝縮された力強いナンバー「El Dorado」、これまた新しいEJの魅力が詰まった印象深いメロディーの「Someday Out Of The Blue-エル・ドラドのテーマ」、「Without Question」ではメロディーのサビで効果的なコーラス・ハーモニーを聴かせるドン・ヘンリーとティモシー・B.シュミット(共に元イーグルス)、バックストリート・ボーイズによるコーラスがEJと見事なまでに美しく絡み合う「Friends Never Say Goodbye」、ランディ・ニューマンの「Faust」(1995年)にEJがボーカル参加して以来の共演となる「It's Tough To Be A God」では2人の異色のデュエットが聴ける。オリジナル・アルバムであればラスト・ナンバーともいえる「Queen Of Cities」ではデイヴィー・ジョンストンとナイジェル・オルスンのコーラス参加が嬉しい。(彼等はもう1曲でもコーラスをとっている)。

 日本盤のみのボーナス・トラックとなる「ヘイ・アルマジロ」もオリジナル・サントラ未収録曲とは思えない程、良い作品である。本作「エル・ドラド」は、今後もEJが音楽シーンの第一線で走り続けていくであろう力量を見せつけた快作となった。


ワン・ナイト・オンリー 〜グレイテスト・ヒッツ・ライヴ one night only -the greatest hits-(2000年)

Mercury●548 336-2(CDヨーロッパ盤・15曲)、Mercury●UICR-1008(CD日本盤・17曲)

1. Goodbye Yellow Brick Road / 2. Philadelphia Freedom / 3. Don't Go Breaking My Heart / 4. Rocket Man / 5. Crocodile Rock / 6. Sacrifice / 7. Can You Feel The Love Tonight / 8. Bennie & The Jets / 9. Your Song / 10. Sad Songs (Say So Much) / 11. Candle In The Wind / 12. Saturday Night's Alright (For Fighting) / 13. I'm Still Standing / 14. Don't Let The Sun Go Down On Me / 15. I Guess That's Why They Call It The Blues Bonus tracks : Daniel / The Bitch Is Back

 EJの正規ライヴ盤としては通算4枚目にあたり、前作「Live In Australia」(1987年)から実に13年ぶりとなる待望のライヴ作品である。本作はタイトル通り、一夜限りで行なわれた(実際は2000年10/20、21の2日間だったが)ニューヨーク・マジソン・スクエア・ガーデンの模様を収録したものである。EJの偉大なるヒット曲を網羅した選曲のため、これまでの栄光の足跡の一端を堪能できるものとなっている。

 参加ゲスト陣も多彩で、お馴染みのキキ・ディー、ブライアン・アダムス、ローナン・キーティング、アナスタシア、メアリー・J.ブライジ、等とデュエット共演。また、今回はナイジェル・オルソンドラム&コーラス)が久々にEJバンドに復帰している。生収録と曲数の都合からか、通常ライヴの聴き所でもあるEJのエネルギッシュなボーカルとピアノ・ソロ・プレイが抑えられ、ほぼスタジオ・バージョンに近い状態の演奏となっている。とはいえ、自身の往年の名曲群が現在もなお、その瑞々しさを失わずにこうしてここに存在することが何よりも嬉しい。記録に残しても記憶に残らない作品が多いなか(ん?どこがで聞いたことのあるセリフだ..)で、これは、EJの曲が時代を越えても色褪せることのない正真正銘の名曲であるという証しでもあるだろう。

 しかし、次々と繰り出されるヒット曲の数々にただタメ息が出るばかりである。「Don't Go Breaking My Heart」では、EJとキキの歌声に時の流れを感じはさせるがポップな煌めきは今なお健在だ。「Bennie & The Jets」はピアノ・ソロだけの時よりも、やはりバンドとの絡みがあったほうが断然マッチしていい感じだ。まだまだ沢山の聴き所も満載だが、中盤のハイライトとなるローナンとの「Your Song」とブライアンとの「Sad Songs」、ラストのメアリーとの「 I Guess That's Why They Call It The Blues」は、楽曲に対する新しい発見もあり、本作中でも最注目曲だろう。

 本作は、EJが傑出したメロディーメイカーであり、また優れたエンターティナーであることを再認識させるに充分な内容であり、ライヴ演奏によるヒット曲集としてEJの代表作の一つとなるだろう。欲をいえば、この「one night only」の模様が全曲完全収録であれば申し分なかったのだが..。当初、日本ではCD2枚組の話もあったようだが、残念なことに結局1枚のみのリリースとなってしまった。  (2000.11.19.記)

 翌2001年、映像版のビデオ「one night only」と完全版DVD「ワン・ナイト・オンリー 〜 グレイテスト・ヒッツ・ライヴ」がリリースされた。


ソングス・フロム・ザ・ウエスト・コースト SONGS FROM THE WEST COAST(2001年)

Mercury●UICR-1015(写真左:CD日本盤)、Mercury●586 459-2(写真右:CDオーストラリア盤)、 Produced by:パトリック・レナード 1. The Emperor's New Clothes / 2. Dark Diamond / 3. Look Ma, No Hands / 4. American Triangle / 5. Original Sin / 6. Birds / 7. I Want Love / 8. The Wasteland / 9. Ballad Of The Boy In The Red Shoes / 10. Love Her Like Me / 11. Mansfield / 12. This Train Don't Stop There AnyMore

 この数年間、EJは映画やミュージカル作品を主に手掛けてきたが、本作は「ビッグ・ピクチャー」(1997年)以来、実に4年振りとなるオリジナル・アルバムである。昨年、これまでの長いキャリアの集大成ともいうべき「ワン・ナイト・オンリー」を発表した後だけに、ヒット性の曲満載の新作を期待すると、いい意味で肩透かしを食うことになる。というのも、これまでは完全主義者として完璧なまでのスキのない音作りがなされ、シングル候補となりうる曲が多数収められていたが、本作ではそうしたタイプの曲は影を潜め、全編に渡りラフでリラックスした雰囲気が漂っているのだ。だが、決して雑という意味ではなく、聴き込むごとに音の端々まで丁寧に手間をかけているのがよくわかる。こうしてさり気なく良質なアルバムを生み出してしまうところがEJの凄さでもあるだろう。

 プロデュースは前年の「エル・ドラド」を担当したパトリック・レナードを再起用し、バックには、お馴染みのデイヴィー・ジョンストン(ギター)、ナイジェル・オルソンドラム&コーラス)、ポール・バックマスター(ストリングス)の他は、LAのミュージシャンで固めている。楽曲は全てEJとバーニー・トーピンの共作で、このコンビ作はやはり良い!曲自体にもキラメキを感じる。今回はいい曲ばかりを集めたとEJ自らが語るように、ピアノを基盤としてバンドの余分な音を削ぎ落としたシンプルなサウンドが、メロディー本来の持ち味を浮き彫りにさせている。ゲスト参加のスティーヴィー・ワンダー、ビリー・プレストン、ゲイリー・バーロウ(元テイク・ザットのリード・シンガー)らも、こうしたサウンド指向のためか、楽曲に対し程よいスパイスを効かせる演奏に終始留めているようだ。

 1曲目から簡素なピアノ・ナンバー「The Emperor's New Clothes」で、まず驚かされる。今回はなんか違うと予感させ、つい何度も聴き返したくなる曲だ。続いてスティーヴィー(クラヴィネット&ハーモニカ)がゲスト参加の「Dark Diamond」。美しい旋律が心に染みる「Original Sin」。シングル・カットされた「I Want Love」。エイズ危機とゲイの人権について歌われた「American Triangle」('98年に実際にアメリカで起きたゲイ殺人事件について歌った)。同じくエイズを題材にした「赤い靴の少年のバラード-Ballad Of The Boy In The Red Shoes」(エイズの合併症により死亡したバレリーナのことを歌った)。今回唯一といえるポップ・ティスト曲「Love Her Like Me」。再びピアノを主軸としたナンバー「This Train Don't Stop There Anymore」でラストは締め括られる。全体的にメロディアスな曲がとても多いようだ。

 いつの時代でも音楽を聴いて、多くの人々の記憶に残り愛され続けるのは、やはりメロディーだと思う。EJは、いつまでも枯れることのない創作の源泉から溢れ出る数々の名曲を世に送り出してきた。長年に渡り優れたメロディー・メイカーとして活躍し続けてきたこの才能と自負こそが、EJの最大の強みであり魅力でもある。この「ソングス・フロム〜」からいくつのヒット・シングルが生まれるかなんて考えも吹き飛ぶほどピュアな内容だ。本作もまた、EJの数ある名盤の一つに加わることになるだろう。  (2001.9.28.記)

 同年、CD英国盤にプロモーション用ボーナスCDを付けた限定版「SONGS FROM THE WEST COAST - Limited Edition」がリリース。翌2002年には、オーストラリア・ツアー・データの記された紙ケース入りのCDオーストラリア盤「SONGS FROM THE WEST COAST - Australian 2002 Tour Edition」(写真右)をリリース。英国では、シングル曲やレア・トラックとビデオ・クリップを収録したボーナスCDを付けた英国限定盤「SONGS FROM THE WEST COAST - Special Edition」がリリースされた。


ピーチツリー・ロード Peachtree Road(2004年)

Mercury●UICR-1034(CD日本盤)、UNIVERSAL●B0003647-36(SACD米国盤)

Produced by:エルトン・ジョン 1. Weight Of The World / 2. Porch Swing In Tupelo / 3. Answer In The Sky / 4. Turn The Lights Out When You Leave / 5. My Elusive Drug / 6. They Call Her The Cat / 7. Freaks In Love / 8. All That I'm Allowed (I'm Thankful) / 9. I Stop And I Breathe / 10. Too Many Tears / 11. It's Getting Dark In Here / 12. I Can't Keep This From You

 前作「ソングス・フロム・ザ・ウエスト・コースト」以来3年振りとなるスタジオ・アルバム。過去にEJは、「シングル・マン」('78年)や「21 AT 33」('80年)等でクライヴ・フランクスとの共同プロデュースの経験はあるが、今回はEJ単独の初プロデュース作となる。本作にはバーニーが全曲作詞を担当し、参加メンバーもゲスト・ミュージシャンに1曲だけシカゴのホーン隊の姿があるのみで、デイヴィーギター)、ナイジェルドラム&コーラス)、ガイ・バビロン(オルガン他)等、EJツアー常連のバンド達でバックを固めている。

 通常、多くの音楽ファンは自分の好きなミュージシャンの音楽性に対して、常に高い期待を持ち続ける(これは当たり前の事だが)。しかし、そのミュージシャン自身が本当にやりたい音楽と聴き手側が求める音楽の方向性が完全に合致していることは少ないと思う。勿論、ミュージシャンの追求する音楽に聴き手が共感を持ち続けてくれれば、双方にとって幸せだろう。だが、ミュージシャン自身がやりたい音楽ばかりを追求すると、時として聴き手からは期待外れだといわれ、聴き手の求める事ばかりに比重を置けば、自身の音楽性を見失ってしまう危険性がある。多くのミュージシャンがこのやりたい事と求められる音楽の方向性のバランスとギャップに思い悩む事になる。聴き手を意識した上での自身の音楽性の追求は、アーティスト自身が持つ客観的な視点だけではなかなか難しい。このバランスとギャップを埋めるために、アーティストの潜在的な才能を引き出す優れたプロデューサーが必要となる(自身の音楽性を追求するだけならばセルフ・プロデュースという選択もある)。永年、音楽界の一線で活躍するアーティストは、自身を客観的に見られる優れた感性の持ち主か、自身の才能を引き出すプロデューサーの起用が上手いかのどちらかだろう。

 EJの場合、優れた(EJに理解のある)プロデューサー達に恵まれた事もあるが、自身の優れた感性による客観的な視点を持ち続けていたことが、これまで第一線で活躍してこられた理由だと思う。過去に於ける共同プロデュース作でみられたEJの新たなる再出発への強い決心の表れとなる作風とは異なり、今回のセルフ・プロデュースでは、これまでの自身の音楽的足跡を改めて見つめ直している作業のように思える。自らプロデュースを手掛けることで、永年蓄積された経験を生かしつつも当然ながら過去の作品以上にEJの本当にやりたかった部分の比重が色濃く出る訳で、そこに聴き手を満足させる音楽性がどれだけ盛り込まれているか。EJの音楽的本質がより明確になると考えただけで本作への興味は尽きなく、期待と不安も高まる。

 本作は一聴すると、前作の延長線上にあるように思えるが、繰り返し聴くとこれまでのスタジオ録音での緻密で繊細な音とは若干異なる音作りがされているようだ。セルフ・プロデュースと共に、近年のツアー・バンドのメンバー全員がEJのバックを務めることで、これまでのスタジオ・アルバムよりもライブに近い一体感のある暖かい温もりを感じるさせる作品に仕上がったようだ。静かなピアノに導かれて始まる「The Weight Of The World」。フィリー・ソウル系の「Answer In The Sky」。第1弾先行シングルとなる「All That I'm Allowed(I'm Thankful)」等、EJの幅広い音楽性をポップに消化する手腕が、プロデューサー&パフォーマーとしてここでも発揮されている。

 本作では、デイヴィー(音楽ディレクターも務める)による英国トラディショナル・フォーク・ロックの影響も感じ取れるが、EJはもともとロックの起原であるR&B(更なるルーツはブルースとゴスペル)と、カントリー&ウエスタン(ルーツは英国の民族音楽)を自らの解釈で昇華させ、ポップ・ソングとして生み出してきた。全編に渡ってゆったり流れるような作風の曲が続くなかで、その根底にはロックという枠では括れないポピュラー音楽の歴史が凝縮しているように感じる。有名ベテラン・ミュージシャンの新譜のいくつかがベスト盤(わずかな新曲入り)だったり、過去の未発表ライブ集だったりする場合もあるなかで、現在に於いても全て新曲を聴き続けられるエルトン・ファンは、他のファンに比べ本当に幸せだと思う。ここに存在する音楽は、(金太郎アメのように)どの曲を切り取っても相変わらずのエルトン印だが、これはマンネリなどではなく、EJ自身によって更に量産され続けるポピュラー音楽の縮図の結実ともいえるだろう。

 これまで私はEJの作品を国内外問わず、様々な同一作品を集め続けてきたが、さすがにその量は膨大になってしまった。そこで私は今回の新作CD購入は国内盤だけにしようと考えたが、やはり一日も早く聴きたい。そのため、国内CDよりも先にリリースされたこのSACD(これはCDとは別物と考えている)をまず入手した。これまでと同様に最初は絶対ステレオ音声だけで聴いておきたいとの思いもあって、いまだSACDサラウンドは未聴のままだ。サラウンドは暫くしてからの楽しみという事で、この感想も後日追記したいと思う。  (2004.11.14.記)

追記● さて、一足遅れて入手したCD国内盤について。国内盤は、歌詞・対訳付き、エンハンストCDにて2種(「All That I'm Allowed」「Answer In The Sky」)のビデオ・クリップ付きと買い得感が高い。SACDと比較すると、盤だけ見ると国内CD盤はPeachtreeの道路標識&信号機というピクチャー盤(輸入CDも同様のピクチャー盤のようです)で、米国SACD盤は裏ジャケと同系色のピンク盤。音の方については、SACDのCDオーディオのみを先に聴き続けた後のせいか、若干ながら国内CDとの音の違いに気付いた。それぞれ同じCDプレイヤーで聴いていたが、CDの方の音は、全音域のバランスが良くて聴き易い感じだ。それに対して、SACD(CDオーディオ)の方が中高音に艶があって前面に迫って来る感じ。低音はやや軽めだが、全音域に渡り音の余韻や空気感がリアルに響く。音質を言葉で表現するのは難しいが、(SACDのCDオーディオの音を)簡単にいうと、SACDサラウンド時にフロントの音だけを鳴らした感じといえばわかり易いだろうか..

 続いてSACDサラウンド自体の音だが、最新録音されただけあって、同時期リリースされた'70年代旧作群のSACD以上に、5.1サラウンド化による各楽器の音の膨らみも豊かだと感じる。録音スタジオの中に視聴者も一緒にいるようで、フロントからはEJ、そしてギターやドラム等バンド達に囲まれたような感覚でとても心地良く聴ける。昔('70年代)、雑音混じりのラジオから聴こえるエルトンの曲に心を踊らせ、音楽は音を純粋に楽しめれば良いと考えていた。しかし、いつの時代でも好きな音楽をより良い音で、新しい形で聴きたいと思う。前述したように、私の所有するEJ作品(様々な同一アルバム)の膨大化を抑えるために、今後は新作CD購入は国内盤だけにしようと考えたが、近年のCD(オーディオ)からSACD(サラウンド&CDオーディオ)等といった媒体がある限り、結局は同内容のアルバムが私の手元に増え続けていくことになるだろう。もしかしたらSACDって、そういった楽しみ方もできるのが魅力なのかもしれない。  (2004.11.28.追記)


キャプテン・アンド・ザ・キッド Captain and the Kid(2006年)

Mercury●UICR-1064(CD日本盤)、Mercury●1707366(CD英国盤-DVD付き限定盤)、Mercury●1705730(LP英国盤)

Produced by: Elton John & Matt Still 1. Postcards From Richard Nixon / 2. Just Like Noah's Ark / 3. Wouldn't Have You Any Other Way (NYC) / 4. Tinderbox / 5. And The House Fell Down / 6. Blues Never Fade Away / 7. The Bridge / 8. I Must Have Lost It On The Wind / 9. Old '67 / 10. The Captain And The Kid

 前作から2年ぶりとなる本作は、全米チャート初登場No.1という音楽史上初の快挙を成し遂げたトータル・アルバム「Captain Fantastic And The Brown Dirt Cowboy」(1975年)の続編となる作品。プロデュースはEJとマット・スティル。マットは前作「Peachtree Road」と同様に本作でもエンジニア&ミックスを手掛けている。全曲、EJとバーニーの共作で、バック・ミュージシャンもデイヴィーギター)、ナイジェルドラム&コーラス)、ガイ・バビロン(キーボード)等、EJツアーでもお馴染みのメンバーが揃っている。

 EJとバーニー・トーピンの記念碑ともいえる「Captain Fantastic 〜」の続編というだけでも本作への期待は大きく、実際にこうして手にできただけでも感無量だ。近年のEJ作品群はメロディーを重視した良質な楽曲集だった。あの70年代当時のキラめくばかりの眩しく華やかなサウンドに乗せた「Captain Fantastic 〜」の流れを汲むとはいえ、本作も近作のメロディー重視の落ち着きのある作品集になると思っていた。

 ところが...まず一聴すると、躍動感のあるEJのピアノから始まる「Postcards From Richard Nixon」から、すぐにこれまでの作品とは一線を画するのがわかる。1曲目から艶のあるEJのボーカルに次第にバンドの音が重なっていく生命力溢れるナンバーに驚いた。次の「Just Like Noah's Ark」は更に力強くバンドが一体となったロックンロール曲。一転して愁いを帯びたバラード2曲「Wouldn't Have You Any Other Way (NYC)」「Tinderbox」では、EJの声とピアノがどこまでも瑞々しいのだ。ミュージカル調の巧みなメロディーとリズムが融合した「And The House Fell Down」。パワフルなブルース・ナンバー「Blues Never Fade Away」。唯一のピアノの弾き語りとなる「The Bridge」。デイヴィーのハーモニカが印象的な清涼感のあるカントリー・ナンバー「 I Must Have Lost It On The Wind」。骨太のカントリー・ロック・サウンド「 Old '67」。EJとバーニー、2人の永遠のテーマ曲ともいえる「Captain Fantastic And The Brown Dirt Cowboy」のエッセンスを大胆に取り入れた「 The Captain And The Kid」。

 全編に渡るEJのメロディーとボーカル、バーニーの詩が深く心に染みる。更に、1975年当時の「Captain Fantastic 〜」にも参加していたデイヴィー(本作でも音楽ディレクター、ギター&コーラス等と大活躍だ)とナイジェル(ドラム&コーラス)の2人(彼等の存在は欠かせない)を中心としたバック・メンバーの一体感のある演奏が実に気持ちいい。唯一、ガスプロデュース)とディーベース)の姿がもう見られないのが寂しいところだ。

 EJとバーニーは浮き沈みの激しい音楽界で長年に渡って途切れることなく膨大な名曲を量産してきた。おそらく後にも先にもこれほどまでのソングライター・コンビは見当たらないだろう。この2人は間違いなく世紀を超えた名ソングライター・コンビといっても過言ではない。記念碑「Captain Fantastic 〜」から31年という長い年月を経た今、第一線で活躍し続けた彼等がここに再び同じテーマの流れを汲む作品を世に送り出したことは、単に「Captain Fantastic 〜」の続編という枠だけでは括りきれないほど意義は大きいと思う。そんな彼等だからこそ生み出せる創造性と生命力溢れる音楽史の年輪が、本作には深く刻み込まれているからだ。「キャプテン・アンド・ザ・キッド」は、我々ファンにとって「Captain Fantastic 〜」と同様に、特別に大切なアルバムとなった。

 9月リリースのCD英国限定盤は、紙ジャケット仕様、ブックレット2冊(歌詞、写真集)入り、EJとバーニーのインタビューDVD(39分)が封入されている。CD日本盤は、通常プラ・ジャケット仕様、ブックレットはCD英国盤と比べてフォトとページ数が若干少ない1冊(歌詞&写真集)にまとめられた。LP英国盤は、二つ折り紙ダブル・ジャケット仕様、ブックレット2冊(歌詞、写真集)もCD英国盤よりもLPサイズに合わせて大きくなっている。


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