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ナイジェル・オルソン Nigel Olsson

 ナイジェルは、70年代全盛期のEJバンド(デイヴィー、ディー、ナイジェル、レイ)のドラマーとして主要メンバーの1人だった。彼は1949年2月10日、イングランド北部のチェシャー州のウォーラシーで生まれる。ハイスクール時代に地元のバンドでリード・ボーカリストとして活動していたが、バンドのドラマーの脱退をきっかけに自らドラマーとしても活躍するようになる。その後、プラスティック・ペニーというバンドで、プロとして本格的な活動に入る。

 1968年、スペンサー・デイヴィス・グループに参加し、ベーシストのディー・マレー、ギタリストのレイ・フェンウィックらと出会う。この頃からスタジオ・セッション・ドラマーとしても活動を始め、当時新人だったEJのレコーディングにも参加する。

 そして1970年、ユーライア・ヒープに参加するも、デビュー・アルバム「VERY 'EAVY, VERY 'UMBLE」に2トラックだけを残して脱退し、EJのツアーにディー・マレー(b)と共に参加する。1971年、このメンバーで初来日公演を行なう。同年、初のソロ・アルバム「NIGEL OLSSON'S DRUM ORCHESTRA AND CHORUS」をリリース。EJバンドには1975年まで在籍し、その後セッション・ドラマーとして活動し、ロッド・スチュワートやリンダ・ロンシュタットなどのアルバムに参加する。そして、ソングライターとしても活躍するようになり、デヴィッド・フォスターとニール・セダカのアルバムにも参加。その傍ら、ソロ活動では1974年にシングル「Only One Woman」をリリースし、1975年頃から1980年にかけてソロ・アルバム「Nigel Olsson(1975年)、「Nigel Olsson(1978年)、「Nigel(1979年)、「Changing Tides(1980年)を立て続けに発表。「Dancin' Shoes」などのシングルをリリースするも、そのいずれもが商業的な大成功に恵まれることはなかった。1980年にはEJバンドに再び復帰し1985年まで在籍する。その後、音楽活動の傍らカーレーサーとしても活躍している。

 2000年、ナイジェルはEJバンドに久々に復帰(ドラム&コーラス)し、10月20, 21日の2日間だけ行なわれたEJのコンサート「one night only」(ニューヨーク・マジソン・スクエア)にて再びプレイをして、その健在ぶりを示した。この模様は2001年12月リリースされたDVD「ワン・ナイト・オンリー 〜 グレイテスト・ヒッツ・ライヴ」にて見ることができる。同年、久々となるアルバム「ムーヴ・ザ・ユニヴァース(2001年)を発表した。

 2001年11月、EJの新作「ソングス・フロム・ザ・ウエスト・コースト」リリース後のツアーにて、70年代のEJバンド黄金時代を支えたナイジェルがEJバンドに再復帰して来日公演を行なった。ナイジェルの来日は1974年以来、実に27年振りとなるが、往年と変わらぬパワフルなドラムとボーカルを披露し、多くの観衆を魅了させた。11月13日東京公演の1回目のアンコール曲「Crocodile Rock」終了直後、ナイジェルが客席に向かって投げたドラム・スティック(写真下)を私は幸運にも受け取ることができた。スティックにはナイジェル自身の直筆サインが印字され、この日EJナンバーを刻み続けてできた先端部(写真右側)の痕跡がとても嬉しい。長年のナイジェル・ファンとしては感無量である。

(参考文献:リズム&ドラム・マガジン/リットー・ミュージック 1999年6月号)


ユーライア・ヒープ・ファースト VERY 'EAVY, VERY 'UMBLE(1970年)

TOSHIBA EMI●WBS-40147(LP日本盤)

Produced by: Gerry Bron

 ブリティッシュ・ヘヴィ・ロック・バンド, ユーライア・ヒープの衝撃のデビュー作に、ナイジェル・オルソンが参加しているのは意外と知られていない。ナイジェルは、70年の2月にユーライア・ヒープにドラマーとして参加し、脱退したのが同年5月で僅か3ヶ月の間でこのアルバムに2トラック「Lucy Blues」と「Dreammare」を残している。

 ナイジェルが本当にヘヴィ・メタル・ロック?と半信半疑な気持ちで聴いたが、ヘヴィなスロー・ブルース・ナンバーの「Lucy Blues」での彼らしいドラミング、そして、この作品中でもベスト・トラックの1曲ともいえる「Dreammare」のドラムなど、もろプログレ・ロックそのものではないか。ナイジェルの力強いドラミングはこうして聴くとブリティッシュ・ロックにずいぶんピタリとハマるものだと思わず感心してしまった。本作に参加後、ナイジェルはディー・マレイと共にEJと活動をともにする訳だが、もし、ナイジェルがこのままユーライア・ヒープに在籍していたらこのバンドのメンバーはどうなっていたのか、ナイジェル抜きのEJバンドはどのようになってしまったのか、そうした要らぬ思いを巡らしてしまった作品である。


NIGEL OLSSON'S DRUM ORCHESTRA AND CHORUS(1971年)

DJM●SDJL-934331(LPオーストラリア盤)

Produced by: Nigel Olsson

 ナイジェルにとって初のソロ・アルバムである。ナイジェル(Vo, Drums & perc)を中心とした参加メンバーは、キャシー・マクドナルド(Lead Vo)、ディー・マレイ(b)、カレブ・クエイ(g & key)、Mick Grabham(g & perc)、 B. J. Cole(g)。ナイジェル自らプロデュースを手がけ全10曲中5曲を自作している。ダイナミックな歌唱の女性ロック・シンガー、キャシーが2曲でリードを歌い、残りをナイジェル自身がボーカルをとるというボーカル主体の作りからも、ドラマーとしてのリーダー作品としては意表を突く内容だった。本作でのやや荒々しいともいえるロック指向のサウンドからは、カレブ・クエイの個性が見え隠れしているようである。

 この時期よりナイジェルはEJと活動を共にしていき、そのEJの影響からか、この後にリリースされていくナイジェルのソロ作が全てポップ・ボーカル色を強めていくことになる。そう考えると、このアルバムで見られる粗削りながらもナイジェルのロック・シンガー&ドラマーとしての魅力が詰まっている本作には、最も当時の彼の音楽的資質が集約されているような気がする。


オンリー・ワン・ウーマン Only One Woman / ナイジェル・オルソン(1974年)

ROCKET●IVR 10817(7インチ日本盤)

カップリング:In Good Time

 ナイジェルのロケット・レーベルからの初シングル盤である。とにかくバック・メンバーが凄い!EJ(ピアノ)を筆頭に、ディヴィー・ジョンストーン(ギター)、ディー・マレイ(ベース)、レイ・クーパー(パーカッション)とEJバンドが勢揃い。そしてプロデュースはガス・ダッジョン。そう、これはあの名盤「キャプテン・ファンタスティック〜」の製作の合間に録音されたものである。この「Only One Woman」は、バリー,ロビン&モーリス・ギブ兄弟(ビージーズ)作のビージーズがライヴで好んでプレイしているという未発表曲である。ナイジェルはこのナンバーを、自分流のポップ・バラードにしてカバーしている。EJの影響を充分に感じさせるナイジェルの物凄いハイトーン・ボイスを初めて聴いて、彼のボーカルの上手さに驚いたものだ。当時のEJ作品のバック・コーラスの一番高いパートが彼だったとわかったのもこの曲だった。

 カップリング ディヴィー・ジョンストーン作の「In Good Time」も大のお気に入り。この曲がA面でもいいのではと思うくらいの出来で、ナイジェルの情感たっぷりのポップ・バラードもいいけど、このギター・ポップ・サウンドに乗ったラフな歌い方もなかなか良い。この「In Good Time」は彼のソロ・アルバムにも未収録で、このシングル盤でしか聴くことができない曲だ。


ナイジェル・オルソン Nigel Olsson(1975年)

ROCKET●ROLL 2(LP英国盤)

Produced by: Robert Appere

 先行発売されている「Only One Woman」を含むナイジェルのロケット・レーベルからのソロ・アルバムである。このソロ第2作目は、全編に彼のドラムももちろん聴けるが、EJバンドでのドラミングとはガラリと違ったロック色を抑制したプレイをみせて、なんとポップ・ボーカル・アルバムに仕上げている。

 参加ミュージシャンには、今では大ヒットメイカーとなったデヴィッド・フォスターの名もあり、デヴィッドは、キーボードとストリングスを担当し、ナイジェルとも3曲を共作し提供している。そのなかでも「Girl,We've Got To Keep On」の出来が特にいい。EJファミリーの参加は「Only One Woman」のみで、唯一ディー・マレイ(ベース)が他の3曲でプレイしているだけである。「Don't Break A Heart」ではボーカルでニール・セダカも参加。ネッド・ドヒニー作の軽快な曲「Get It Up For Love」では、ナイジェルの歌い方がどこかネッドに似ているように感じる。デヴィッドの奏でるピアノの旋律が美しい「Songs I Sing」はリチャード・カーとゲイリー・オズボーンの共作曲。

 これはポップ・ボーカリストに徹したナイジェルによるシンプルなメロディーラインが際立つポップ・ソング集である。


ナイジェル・オルソン Nigel Olsson(1978年)

COLUMBIA●JC 35048(LP米国盤)

Produced by: Paul Davis & Nigel Olsson

 本作は、ナイジェルとPaul Davisとの共同プロデュース作。サウンドは前作の延長線上にあり、ナイジェル自らプロデュースに加わり、よりポップ・ボーカル色を全面に打ち出している。カヴァー曲の1曲を除く全曲のソングライティングをナイジェルが手がけ、うち半分の5曲をデヴィッド・フォスターと共作し、ポール・デイヴィスとも1曲を共作している。参加ミュージシャンには前作同様に、デヴィッド・フォスターがキーボードとオーケストラ・アレンジを担当している。ギターには、リッチー・ジトー、ジェイ・グレイドン等。パーカッションにレイ・クーパー(EJファミリーからは彼のみが参加)。ポール・デイヴィスとEd Seay(ミックスとエンジニアも担当)がコーラスで参加。ドラムスにはナイジェル以外にも、James StroudとMike Bairdの2人を起用し、ナイジェル自身はドラムを叩くよりもボーカルに専念している。

 オープニング曲は60年代オールディーズ・ポップ風の「Rainy Day」。続いてロマンティックなラヴ・バラード「You Know I'll Always Love You」。フィル・スペクター風にアレンジされたビリー・ジョエルのカヴァー「Say Goodbye To Hollywood」。ポール・デイヴィスの名曲アイ・ゴー・クレイジーを連想させるポールとナイジェルの共作曲「Part Of The Chosen Few」。デヴィッド・フォスター色の濃いバラード・ナンバー「Please Don't Tease」「All It Takes」等、これは文句なしのAORアルバムに仕上がっている。


Nigel Nigel Olsson(1979年)

Epic●ELPS 3970(LP米国盤)

Produced by: Paul Davis & Nigel Olsson 他

1. Little Bit Of Soap / 2. You Know I'll Always Love You / 3. Dancin' Shoes / 4. Part Of The Chosen Few / 5. Say Goodbye To Hollywood / 6. All It Takes / 7. Thinking Of You / 8. Living In A Fantasy / 9. Cassey Blue / 10. Au Revoir

 本作は、前作のアルバム「Nigel Olsson」(78年)収録の7曲に、シングル曲「Dancin' Shoes」(Carl Storie 作)と「A Little Bit Of Soap」(Bert Berns 作)の2曲をプラス収録したものだ。全曲中6曲をナイジェル自らがソングライティングを手がけ、優れたメロディー・メイカーとしての一面も見せている。

 参加ミュージシャンも、デヴィッド・フォスター(キーボード)、ポール・デイヴィス(コーラス、キーボード)、ジェイ・グレイドン(ギター)、リッチー・ジトー(ギター)、ブルース・ジョンストン(コーラス)、ブレンダ・ラッセル(コーラス)、レイ・クーパー(パーカッション)等と、当時流行りのAORアルバムと呼ぶにはあまりにも豪華なメンバー達だ。丁寧に作り込まれたポップでメロディー重視の選曲からも、これはナイジェルの魅力が詰まったベスト・アルバムともいえる内容だ。彼の歌いぶりにも更に磨きがかかり、まさに本作はナイジェルの一番脂が乗っている頃の最高傑作といえるだろう。

 97年に、本作と全く同一選曲のCD作品集「A Golden Classics Edition」がリリースされている。


Changing Tides Nigel Olsson(1980年)

Epic●EPC 84360(LPオランダ盤)

Produced by: James Stroud & Ed Seay

 これまでと同様のポップ路線であるが、参加ミュージシャンも一新し(前作よりの参加はギターのリッチー・ジトーのみ)、ナイジェルが全曲ドラムス、パーカッション、コーラス&コーラス・アレンジを担当。本作ではなんとEJが1曲ピアノで、ディー・マレイがベースで2曲にゲスト参加している。今回はナイジェル自身の自作曲はなく、シンガーのみに徹してピーター・セテラを彷彿させる甘い歌声を聴かせている。プロデュースはJames Stroud(前作ではドラムスで参加)とEd Seay(前作ではミキサーとエンジニアを担当)の2人。

 ナイジェルのソロ作では珍しいロックン・ロール・ナンバー「Saturday Night」(ディー・マレイがベースで参加)から始まり、軽快なポップ・ソングの「Fool Me Again」「If You Don't Want Me To」。ジョン・フォード・コーリィ(イングランド・ダン&ジョン・フォード・コーリィ)作の爽やかなアコースティック曲「Only A Matter Of Time」。曲のラストでEJのピアノの乱れ弾きが聴けるロック・ナンバー「Showdown」(EJとディー・マレイ参加)。ここでは、さすがに彼等が一緒にプレイするだけで曲にも勢いみたいなものを感じる。デヴィッド・フォスター(今回は1曲のみ提供)とジェイ・グレイドンの共作によるセンチメンタルなバラード「Should We Carry On」。ラスト・ナンバーの甘いラヴ・ソング「If This Is Love」。

 ナイジェルは一連のソロ作品において、ドラマーとしてよりもポップ・ボーカリストとしての活動に重点をおき、その熟れたシンガーぶりは本作において集大成を迎えたといえるだろう。すでにAORシンガーともいえるナイジェルであったが、この後、ロック・ドラマーとして再び1980年以降EJと活動を共にし、80年代音楽シーンへのEJ完全復活の大きな原動力を担う存在の1人となったのである。


A Golden Classics Edition(1997年)

Sony Collectables●COL-5836(CD米国盤)

Produced by: Paul Davis & Nigel Olsson 他

1. Little Bit Of Soap / 2. You Know I'll Always Love You / 3. Dancin' Shoes / 4. Part Of The Chosen Few / 5. Say Goodbye To Hollywood / 6. All It Takes / 7. Thinking Of You / 8. Living In A Fantasy / 9. Cassey Blue 〜 Au Revoir

 これは79年に発表されたアルバム「Nigel」と全く同一選曲内容のCD盤である。今回のCD化リリースは、ファンにとっても嬉しいもので、これは現在ナイジェルの過去のソロ・ナンバーが聴ける唯一の作品集といえるだろう。

 本作で改めてナイジェルのポップ・センスの良さを再認識できるが、難をいえば収録曲数が少ないことである。このCD化時代に収録時間を考えると倍の曲数は収録できるはず。せめてシングル曲「Only One Woman」だけでも入れて欲しかった。しかし、そんなことを差し引いても今なお色褪せないナイジェルの作品群の素晴しさは充分に感じられる。これはお薦めである。


ムーヴ・ザ・ユニヴァース Move The Universe(2001年)

NIGEL OLSSON'S DRUM ORCHESTRA AND CHORUS VOLUME 2

Sony Music●SRCS 352(CD日本盤)

Produced by: Davey Johnstone & Guy Babylon(Executive Producer: Nigel Olsson)

 実に久しぶりとなるナイジェルの新作の登場である。サブ・タイトルにもあるように、これはソロ第1作「NIGEL OLSSON'S DRUM ORCHESTRA AND CHORUS」(1971年)の続編となるもの。しかし、本作はこれまでと同様のボーカル主体の作りながらもその内容は第1作目とはガラリと変わり、1975年頃から1980年にかけてリリースされたソロ作で見せたポップな世界の集大成ともいえる仕上がりになっている。

 本作では、ナイジェルの自作は僅か1曲のみで、EJ&バーニー作が1曲、デイヴィー・ジョンストンが2曲等と、殆ど複数のソングライターの曲で構成されている。また、ボーカル中心とはいっても、ナイジェルは全曲中4曲だけを歌い、他はキキ・ディー、宮川愛(なんと14才の新人だ)等、数人のボーカリストを起用している。バック・メンバーには、ナイジェル(ds)、デイヴィー・ジョンストン(g)、Guy Babylon(key)、Bob Birch(b)、John Mahon(perc)等と近年のEJバンドのメンバー達が勢揃いでプレイしている。

 本作の注目曲はなんといっても「Building A bird」(EJ&バーニー作)だろう。美しいEJのメロディーにナイジェルの甘い歌声が絡むベスト・マッチの楽曲である。ここでのナイジェルはEJを彷佛させる歌いぶりからも、彼のボーカル・スタイルがいかにEJから影響を受けているかがここでよく分かる。EJのメロディーと大変相性のいいナイジェルだが、彼自身のソロ作でEJの曲を取り上げるのは意外なことに今回が初めてとなる。ちなみにこの「Building A bird」は、EJのアルバム「メイド・イン・イングランド」(1995年)からのアウトテイクである。

 他に印象に残る曲としては、「Take A Chance」(Guy Babylon 他の共作)は楽曲の良さが光るが、抜群の歌唱の宮川の歌い方がどこか宇多田ヒカルっぽいのは御愛嬌といえるところか。次の「Naked Without You」はキキのボーカル・ナンバーだが、ベテランならではの奥行きのある歌声をここでタップリ聴かせてくれる。もちろん他のナイジェルが歌うナンバーも丁寧に作り込まれており、とても聴き易い楽曲ばかりだ。

 本作はナイジェルの集大成的な作品とはいっても、決して大上段に構えた作りではない。主役となるボーカルもドラムも至ってシンプルでありながら、彼のポップ・センスが程よくちりばめられている。全体的にも気心の知れた仲間達で作ったというリラックスした雰囲気がこちらにも伝わるようで、いかにもナイジェルらしい作品だ。これはお薦めのアルバムである。


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