大江戸ばってん日記 −岡崎弘明−

第10話 「初夢は何色?」

『一富士、二鷹、三ナスビ』と言えば、初夢の縁起物ベスト3である。このうち、富士と鷹はたしかに縁起がよさそうだが、問題なのは、『ナスビ』の存在だ。これが、どうにもこうにも気にかかる。あの、ナスビである。紫色のぷりんとした愛嬌たっぷりの、あのナスだ。たしかにおいしいが、初夢ベスト3にランクインするほどのものであろうか。気になって夜も寝られず、初夢を見るどころの話ではなくなったので、調べてみた。
 江戸時代の初期から『一富士二鷹三ナスビ』は言われていたようだが、なぜこの三つなのかは諸説紛々としている。『徳川家康三大好物説』というのがあり、家康は富士と鷹狩りとナスが大好きだったそうだ。それから、『駿河の国の高いもの説』というのもあって、富士山、愛鷹山(あしたかやま)、初物のナスの値段、これらが高いということから、夢で見ると縁起がよいらしいが、どうもこじつけのような気がする。あまりにもきれいにまとまりすぎだ。三つ目は、『ごろあわせ説』。一年間、無事(富士)で高(鷹)くて、ことを成す(ナス)、だそうだが、うーむ、これは苦しい。
 当時、富くじ(宝くじ)に当たった者が、「いやあ、正月に富士と鷹とナスの夢を見たズラ。縁起の良い夢だったズラ〜」とか言ったのが、案外真実のような気もするが。
 この三つのうちの一つでも初夢に現れると、大当たりの年になりそうな予感がするのだろうが、私は初夢でこの豪華三点セットをいっぺんに見たことがある。この話を自慢げにすると、百人が百人、疑惑の逆三角形の目でこちらを見るが、本当の話である。高校三年の正月に、ナスをくわえた鷹が富士山の周りを旋回するというおめでたい夢を見たのだ。

 世の中には、見る夢をコントロールできる人間がいる。この前もある芸能人がテレビでそんなことを言っていた。今夜は、こういう夢を見るぞと決めると、そうなるらしい。実は私もその時は夢を操っていた。寝る前に、「一富士二鷹三ナスビ!」と何度も唱えて枕を叩いたのだ。後にも先にも夢をコントロールできたのはこの時だけである。
 それともう一つ、そんな初夢を見ることができたのは、神様のおかげである。藤崎宮に初詣に行き、「富士と鷹とナスビの初夢を見ますように」と願をかけていたのだ。どうして、そこまでして縁起物の初夢にこだわったかというと、大学受験を控えていたからである。
 恐るべし、藤崎八旛宮! 私の願いをかなえてくれた。しかし、目覚めた直後は感動したが、すぐに冷静になり、せっかくかなえてくれるのなら、「志望校に受かりますように」と、そのものズバリの願をかければ良かったと後悔した。なんだか、バカな話である。
 結果として、その年、大学になんとか受かったので、夢の御利益はあったようだが…。
 それから数年後、おみくじで『凶』を三回連続で引いたのも藤崎宮である。恐るべし、藤崎八旛宮! 正月早々、あれは悪夢のような出来事だった。


イラスト: 村井健太郎


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