大江戸ばってん日記 −岡崎弘明−

第9話 「東京かくれんぼ」


 大都会を舞台にした恋愛小説が始まりそうなタイトルだが、『東京かくれんぼ』とは子供のころの遊びの名称である。
 かくれんぼの変形であるが、まずは地面に直径五十センチほどの円を描き、ピザを切り分けるように何等分かする。そこでできた枠それぞれに、『何々をしろ』という指令を書く。鬼は円をめがけて石を投げ、止まった枠の中の指令を遂行しなければならない。その間にみんなは人の家の植え込みなどに隠れるのだ。
 例えば、『学校の校門にタッチ』と指令が書いてあれば、次のようになる。
「ぶぁっ、一番大変かところに止まった」
「はよ行け!」
「学校まで往復三十分はかかっぞ」
「よかけん、行け!」
「とほほほほ」と言って、鬼は走り出すわけだが、かくれんぼを楽しむと言うよりは、困難な指令を遂行しようとする鬼の様子がおかしくて、夢中になって遊んだ。
 だが、この指令はまだ良い方である。
『さゆりちゃんに、好きと言う』とか、『田中先生の足を踏んづける』などと意地悪なことも書いた。
 そんなところに石が止まると大変なことになる。どこにいるのか分からないさゆりちゃんを捜し求めて鬼はいつまでも帰ってこなくなり、みんなは飽きてしまって他の遊びを始めたり、あるいは、田中先生に怒られてしまった鬼は、ふてくされてそのまま家に帰ったりする。
 さらにエスカレートすると、実現不可能な指令が始まる。『県知事の家のトイレを借りてくる』とか、『四次元の世界に行って、誰かを連れてくる』など、想像力を働かせて様々な指令を考えるのだ。そうなると、かくれんぼそのもので遊ぶわけにはいかず、『面白い指令を思いつく遊び』に変貌する。


 それにしても、どうして『東京』という言葉が付くのか、良く分からない。もしかすると、指令の中で一番大変なのが、『東京まで行く』ということなのだろうか。
 ちなみに、周囲にいる東京人にこの遊びのことを聞いても、みんな知らなかった。また、私が子供のころ遊んでいた『屋根死刑』や『ろくむし』などというのも誰も知らなかった。子供の遊びは、地方色豊かなのだろう。
 子供は遊びの天才である。普通のおにごっこやかくれんぼで飽きたらず、いろんなルールを考え、いかに楽しい時間を過ごすかということに専心する。結果として、地方により、独自の遊びがたくさん生み出されるのだろう。
 と、ここまで書いてハッとした。『東京かくれんぼ』は、熊本の中でもローカルな遊びと勝手に思いこんでいたのだが、ポピュラーな可能性だってあるではないか。毎年、白川公園あたりで大会が行われているかもしれないし、そこでは大人たちもやっているかもしれない(大人の場合、どんな指令が出てくるのか、興味深い)。プロのプレーヤーさえ、いるかもしれない。
 上京して四半世紀が経ち、今の熊本の状態をよく知らないのだ。
 ひょっとすると、子供の時、この遊びで鬼となった私は、『東京へ行く』という指令を受けて、いまだに遂行中なのかもしれない。



イラスト: 村井健太郎


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