大江戸ばってん日記 −岡崎弘明−

第3話 「キングバッテン登場!」

「おー、ひさしかぶーり。調子はどぎゃんや」
「うふふっ、あいかわらずナマってるジャン。それじゃサー、東京で生きてけないわよ」
「ジャンてや! サーてや! 恥ずかしか言葉ば使うな。魂ば、売ったとか!」
 熊本出身の男女が久しぶりに東京で再会すると、こんな会話になることがある。この場合、男は『大江戸バッテン人(東京で異常に熊本を主張したがる者)』へと変貌し、女は『都会化』が進んでいる。両極端となってしまった二人は、このあと会話がはずまないだろう。
 大江戸バッテン人になるのは明らかに男性の方が多い。女性は比較的あっさりと都会に溶け込んでいくようだ。彼女たちの変身ぶりは見事であり、バッテン人からすれば、裏切られたかと思うほどである。中には、「なんさまサー」などと不思議な言葉を口走ってしまったり、じゃんけんで田舎チョキ(親指と人差し指)を出したりする未熟者もいるが…。

 一方、熊本回帰が進むバッテン人は、人混みの中でわざと熊本弁を使ったり、東京の馬刺はまずいと知ってるくせにわざわざ頼んでケチをつけたりと段々過激さを増していく。
 そこには、四段階のステップがあるようだ。上京してしばらくは、水がまずい、言葉が通じないなどの理由から、熊本を懐かしむ。このレベルが第一段階。第二段階に進むと、『お国自慢』が始まる。聞かれもしないのに、武者返しの説明をしたり、熊本がゲートボール発祥の地だと自慢したりするのである。
 第三段階になると、東京に対していつも怒っている。そして、無謀にも周囲に熊本弁を教え込もうとまでする。ここまで行くと、後戻りはなかなか難しいが、次の第四段階になると、もう更生できない。『意地でも、熊本魂を捨てんぞ』と決心し、顔つきが変わるのである。そして、都会に同化した熊本人を見ると、「情けなか〜」と説教をする。逆に、他のバッテン人に出会うと、すぐに意気投合する。これが、バッテン人の最終進化形である。
 ところが、こういった進化をまったくたどらない突然変異がたまに発生する。これぞ、世にも恐ろしい『キングバッテン』だ。
 彼らは、どこに住んでいようが、そこが熊本の飛び地であるかのごとく振る舞うのである。たとえば、なーんにも考えずに健軍商店街あたりで買った「モッコス!」とか描かれているTシャツを、なーんにも考えずに着て、大都会を闊歩している。すべてを超越した存在であり、都会に順応しようという発想すらない。第四段階バッテン人はかなり無理をしているが、キングバッテンは自然体であり、伸び伸びと暮らしているのだ。そんな人物を何人か知っているが、一人などは一緒に下宿していた埼玉県人をいつの間にか『熊本弁しか話せない体』に改造してしまっていた。
 彼らはたとえ海外に行っても平気で熊本弁を使い、宇宙人にさえも、「この円盤の中は、スースースッ。アトゼキばしとらんだろ」などと言うに決まっている。

イラスト: 村井健太郎

 
   

 
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