くまもとアンケート




「そうねえ、お城かしら」
「僕は阿蘇ですね。阿蘇はいいですよね」
「みかん」
「からしれんこん。ありゃうまい。ヒッヒッヒ」

 はたして『熊本』は東京の人たちにどんなイメージを持たれているのだろうか。
『東京に長年暮らしながらも熊本にこだわり続ける、あるいはちっとも熊本が抜けない肥後バッテントホホ男』という長ったらしくも壮大なテーマを掲げた以上、第一回目はこれしかない。
 そう考え、『熊本と聞いて何を連想しますか、アンケート大会』を行った。
 記念すべき、インターネット初エッセイだ。
 世界に向けて発信するわけである。
 世界一の大富豪ビル・ゲイツが見るかもしれないし、ローマ法王がアクセスするかもしれない。
 ここは景気良く『百人に聞きました』といきたかったけれど、なにせ友人が少ない僕は二十人程度に聞くのがやっとだった。トホホ‥‥。
 お城、阿蘇、みかん、からしれんこん。この四つは、まあまっとうな回答である。十人ほどがこれを答えた。
 平凡と言えばそれまでだが、ツボは押さえている。うまく世の中を渡っていきそうな答であり、実際、そういう人物たちが答えた。 
 続いて、
「すいか」という答を得た僕は、じっとその若い男を見つめた。
 これも一見、平凡な回答のように思われるが、答えた後、彼の怪しげに光る瞳を僕は見逃さなかった。
(ははーん、ひとひねりしたな)
 とっさにそう思った。
 たぶん彼は、最初に『お城』や『阿蘇』がひらめいたはずである。
 しかし、それじゃつまらないと考え、コンマ三秒ののち、すいかと答えたのだ。
 そうに決まっている。みかんとどう違うんだと聞かれても困る。なんとなく、そういう感じがしたのだ。なんとなくね。

「真珠」と答えた女性がいた。
 天草の真珠だ。渋い答である。
 ふたひねりぐらいして、知性をちょっぴりひけらかしたような慎ましくも大胆で美しい回答である。
 まさに真珠の輝きのような答だ。
 だが、そんなに複雑な状況ではないことを僕は知っている。
 その前日、彼女は天草の真珠のことをテレビで見ていただけのことだ。僕もそれを見ていた。
 深く考えずに「真珠」と答えたにちがいない。
 次の答は、「左門豊作」であった。
 永遠の熊本のヒーロー、巨人の星の左門君。
 たくさんの兄弟を養い、貧乏で、「星君、打ってみしょうタイ」などと変な熊本弁をあやつる彼は、ある世代に対して決定的と思われるほどの強烈な熊本のイメージを刷り込んだのだ。
「あれはないよ」と頭を抱えてしまう回答である。でも、二人もこれを答えた。
 そして、「夏目漱石」と言った人がいた。
 僕などは夏目漱石と聞くと、『松山』のイメージが強いが、たしかに熊本にも在住している。
 どうしてお城よりも阿蘇よりも漱石なのかは定かではないが、なかなかかっこいい予想外の答であった。
 次は、もっと予想外の答。

「熊本か、そうだな。不愛想かな。イメージとしては」
「ブアイソですか?」
「そう、不愛想。愛想がないよ、熊本は」
 これはショックだった。
 両肩に熊本全土千億トンを乗せているような肥後バッテン男の僕は、必死になって熊本を擁護した。バッテン、バッテン(でも、でも)と心で言いつつ。
「(バッテン)熊本県人はみんな陽気で、楽しい、好人物ばかりですよ」
「一人一人はそうかもしれないけれど、全体的なイメージは、やっぱり愛想がないなあ」
「(バッテン)そんなことはないですよ」
「怒るなよ。おまえが聞くから正直に答えただけさ」
「(バッテン)お城とか、阿蘇とか思い浮かばないんですか!」
「おいおい、そんなに膨れるな。こら、にらむなよ、ごめん。ごめん。おれが悪かった。まったく、熊本の悪口言うと、おまえは本気で怒るからなあ」
 その答を好意的に受けとめれば、これは「素朴(そぼく)」「純朴(じゅんぼく)」「朴訥(ぼくとつ)」の朴三兄弟、すなわち、素朴さが無愛想に置き換わっているというところだろうか。

 続いて、「ラーメン」と言う答。
 東京での豚骨ラーメンの人気はほぼ定着したと言っても良いが、豚骨ラーメンイコール博多という図式が成り立っている。
 そんな悪環境の中、熊本と聞いてラーメンと答えてくれた彼はえらい。とはいうものの、良く考えたら、しょっちゅうその彼を連れて新宿の熊本ラーメンを食べさせていた。僕のマインドコントロールのたまものである。

「馬刺」という答もあり、うれしくなった。
 東京で馬刺というと、群馬や山梨が有名なのである。しかし、それらの馬刺は霜降りではない。まぐろの一番安いところの赤身みたいなもので、味がない。
 やっぱり馬刺は熊本よ、とこだわり続ける僕はそれを聞いて飛び上がって喜んだ。
 しかし、一年ほど前、熊本の馬刺を食べさせる店にその彼を連れていき、「ここに来たら、焼酎のお湯割りと馬刺。馬刺はなんといっても熊本、熊本、熊本!」と無理矢理押しつけたことを思い出した。彼の心に深く印象づけてしまったのだろうか。
「焼鳥屋のきゃべつだな」
 その答を聞き、驚いた。
 熊本で焼鳥屋に入れば、何はなくともまずきゃべつである。
(今でもそうですよね)
 あれに酢だれをかければ、焼酎とぴったり合うのだが、悲しいかな、東京にはそんなものはない。
「へえ、そんなもの良く知ってますね」
「だって、焼鳥屋に行くたびに、おまえはブーブー文句言うだろ。熊本の焼鳥屋はきゃべつがあってどうとかこうとか」
 そうか、この答も、僕のマインドコントロールのたまものだったのだ。
 このアンケート自体、ちょっと公平さにかけるというか、質問者が肥後バッテン男である僕というところに問題があるのかもしれない。そんなことを考えつつ、別の人に聞いてみた。

「熊本と聞いて、何を連想しますか」
「おまえ」
「え?」
「おまえだよ。いつもいつも、熊本、熊本ってうるさいよ」
「はあ、すんまっせん」
 肥後バッテン男は今日もゆく。

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