PHOTON曲解説

この文章は、「PHOTON/林栄一+中尾勘二+関島岳郎」の初回プレス分に添付されていたものです。


      曲解説       関島岳郎

 篠田昌已は不器用なSAX奏者だったが、作曲家
としても不器用で、曲をまとめるのにいつも苦労し
ていた。試行錯誤を繰り返した後に少しだけ前に進
むやり方しかできなかったので、残した作品もそれ
ほど多くはない。今までCOMPOSTELA関連
のアルバムに収録した曲と今回収録した未発表曲で
ほとんどすべてだろう。

 それらの曲を、林栄一を中心に中尾と3人で少し
だけ試行錯誤の続きをしてみた。前に進めたかどう
かはわからない。

1 OVERTUNE〜二キシのまだ帰って来ない朝

 「OVERTUNE」という言葉を私は知らなか
ったが、篠田は序曲(Overture)ぐらいの意味で
使っていた。1998年頃に篠田昌已ユニットの
コンサートの1曲目に演奏するために作曲された。
メドレーで演奏される「二キシのまだ帰って来な
い朝」の二キシは、篠田の飼っていた猫の名前。

2 こぶしの踊り(光る人)

 「風の旅団」という劇団の1990年の公演「ウ
ルファウスト」のために作曲された。この頃の「風
の旅団」の音楽は、小間慶大を中心に篠田や中尾、
大熊亘、木村真哉、西村卓也などのミュージシャン
で録音されていた。しかし、この年の公演の音楽で
は、篠田がかなりのイニシアチブをとっていたよう
だ。当時代々木にあったチョコレートシティで真夜
中に録音された音楽は、 JAGATARA やミュートビ
ートでキーボードを弾いていた北村賢二の打ち込み
と、コンポステラや大熊の管楽器が入り混ざった不
思議な音楽だった。

3 アジールのマーチ

 後半部は、1989年に篠田昌已ユニットのため
に独立した曲として作曲されたもの。その時には、
別の中間部が付属していた。前半部は、1989年
のコンポステラ初のライブのオープニング曲として
作曲された。それをアルバム「1の知らせ」レコー
ディング時にひとつにまとめて現在の形になった。
題名の「アジールのマーチ」は「風の旅団」の芝居
からのインスピレーションによる。篠田は、「風の
旅団」主宰の桜井大造からいろいろなメッセージを
受け取っていたようだ。

4 1の知らせ

 1990年にコンポステラのために作曲された。
「1の知らせ」というよくわからない題名について
は説明されたのだが、難しすぎて私にはあまり理解
できなかった。1という数字にこだわりがあるわけ
でもなく、0でも2でもかまないのだという。今考
えると、1というのは座標を表わす記号であり、我
々の存在する位置であり、「1の知らせ」はその向
こう側の世界からの通信を表わしているような気が
する。

5 反射する道

 1980年代後半の作曲と思われる。実際に題名
のような風景を見たとも言っていた。コード進行は
ギターの服部夏樹がつけた。コンポステラの代表的
なレパートリーだった。

6 ハルマゲドン

 1980年代後半の作曲と思われる。題名は、キ
ーボーディストの工藤冬里が、この曲はハルマゲド
ンのようだと言っていたことによるが、後に篠田は
題名を変えたがっていた。

7 「TATSUYA」より

 1992年の7月に流山児祥の芝居「TATSU
YA」のために作曲。その時の録音は、篠田とギタ
ーの桜井芳樹と私の3人によるものだった。2曲メ
ドレーで収録しているが、1曲目はM−2「愛のテ
ーマ」、2曲目は単にM−3と楽譜に書いてある。
同じ芝居の劇中曲として「コンサルタントマーチ」
という曲もあり、そちらはコンポステラの「歩く人」
に収録されている。

8 Em

 1992年4月のコンポステラのライブで初演。
特に題名はついていなくて、篠田新曲Emと呼んで
いた。いつも曲の題名をつけるのに苦労していたよ
うだ。

9 耕す者への祈り

 ビクトル・ハラの曲。この曲を私が最初に篠田と
演奏したのは、宇野萬の舞踏とコンポステラ+久下
惠生の共演の時だったと思う。その頃、このような
曲をインストでやってどのくらい伝わるものかとい
うようなことを篠田に言ったら、僕は一生懸命いろ
いろなことを思いながら吹いているんだけどなあ、
と言っていた。

10 ナーダム

 林栄一の曲。林栄一の「MAZURU」というア
ルバムに収録されていた曲だが、そのころ篠田はよ
く林栄一ライブを聴きに行っていたようだ。
 1986年頃に、生活向上委員会のピアニストだ
った原田依幸主宰の、管楽器を50人集めた「大魚
貝類」というセッションが新宿ピットインで行なわ
れた。その時に最後に演奏したのがこの曲だった。
私は、篠田や中尾や林とその時初めて共演した。

 文中の敬称はすべて略させていただきました。




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