世の中にはいろんな人がいる。頭でっかちで理屈ばかりこねまわす人。寸暇を惜し んで仕事に精出す人。人に指図をしたり説教をしたりするのが好きな人。ただただ楽 をして生きたがっている人(それはぼく?)。ではGWANさんはどうなのかといえば、 さしずめいつも自分の身の回りをじっくりと観察しながら、とりとめもないもの思い に耽っている人ということになるのではないだろうか。ぼくは実際に本人のことをよ く知っているからそう思うし、GWANさんのこの新しいアルバムにも彼のそうした人と なりが色濃く滲み出ている。 酒場でお酒を飲む素敵な女性をじっと見つめるGWANさん。風に揺れる草に目を遣る GWANさん。ベランダの片隅の蟋蟀の鳴き声にそっと耳を傾けるGWANさん。鯨はどうや って眠るのかと思索に耽るGWANさん。川で凍った月を抱えて野原を歩く河童の親子に 思いを馳せるGWANさん。台所のボウルの中で水を吐いている浅蜊や小さかったがゆえ に熟していたのに誰にも見向きもされず落ちてしまった柿の心情を思い遣るGWANさん 。人によっては「どうでもいいようなこと」に思えてしまうそんなひとつひとつのこ とが、GWANさんにしてみればどれも「ひどく大切なこと」ばかりなのだ。 世間一般で「どうでもいい」とされがちなことをGWANさんはじっくりと見つめ、そ うしたことについて一晩でも二晩でももの思いに耽る。しかしGWANさんは何か明確な 答を見つけ出したり、結論を出したりするようなことはしない。見たことや思ったこ とを優しいメロディとあたたかな三拍子にのせてそのまま伝えるだけだ。それがGWAN さんの歌だとぼくは考えている。しかし人によっては「どうでもいいようなこと」を 歌っている「非実用的」な歌に思えてしまうそれらの作品が、ぼくの心の中にはどれ ほど深く沁み入ってくることか。GWANさんの歌は敢えて答を出したり、明確なメッセ ージを打ち出そうとしていないものだからこそ、逆にぼくにいろんなことを考えさせ 、ぼくの心を激しく揺さぶり、それこそ自分の生き方まで見直させられてしまう。少 なくともぼくにとっては、GWANさんの歌はとんでもなく「実用的」なものばかりなのだ。 優等生やヒーローや成功者にではなく、ぐずやトンチンカンな人間に優しく寄り添 うGWANさんの歌は、決して派手できらびやかなものではないが、静かな星空の美しさ を宿している。 |