第4回世界水族館会議への提言
第4回世界水族館会議参加者の皆様へ
- 私たちは、地球に生きるすべての生命を尊重する社会の実現を願い、より豊かな自然環境と生活環境を未来の世代に残したいと願って活動している団体および個人です。
私たちはこの度、世界各国の水族館関係者が一堂に集まり、各種問題について討議する「第4回世界水族館会議」が日本で開催されることを知りました。そこで、私たちが日々の活動を通じて感じている、今日の水族館の現状に対する疑問や疑念を、ぜひとも同会議に参加される方々にお伝えしたいと考えました。
会議のスケジュールの中で、この提言について討議するのにふさわしい場(例えば「教育活動」や「未来水族館」をテーマとする討議の場など)の座長に本提言書をご回付くださり、ご討議くださいますようお願い申し上げます。
今日、日本の大多数の人々にとって、水族館はとても楽しい夢のある施設として認識されています。感性豊かな子どもたちにとっては、さらにその意味は大きいでしょう。そして、私たちもまた、かつては同じ気持ちを持っていました。しかし、表からは見えない水族館の様々な問題を知るようになって、もはや水族館は悲しむべき施設になってしまったのです。
この提言は、私たちがなぜ水族館を“悲しむべき施設”と感じるようになったかを表明したものでもあります。それは、水族館関係者の皆様にとって、たいへん失礼な発言であるかもしれません。しかし、これらの疑問・疑念は、私たちの率直な思いです。
今日、人々の自然保護や野生生物保護、または動物愛護に対する興味や認識は、日ごとに高まっており、こうした疑問・疑念を持つ人々が国際的にも増え始めています。それを反映して、各種報道機関もこの種の問題について多くを伝えるようになっておりますし、英国でのイルカ・クジラ展示水族館の全廃や、アメリカ合衆国でのイルカやシャチのリリース活動なども、こうした人々の意識を反映したものだと言えます。
したがいまして、水族館がこのままの状態を維持するとしたら、近い将来、私たちのような疑問・疑念は多くの人々の共通の認識となるといっても過言ではないと思われます。そして、こうした時代の流れからすれば、水族館関係者の皆様がこうした問題に目を向けてくださることは、とりもなおさず水族館の将来的な利益にも合致することであると確信しています。
どうか水族館が、世界の子どもたちの夢を壊す施設とならないために、水族館に直接関わられる皆様がこうした問題に真正面から目を向けてくださいますよう、心よりお願い申し上げます。
なお、この提言の内容に関連する話し合いが会議の席上でなされた場合には、その内容をできるだけ早い時期に(同会議終了後1カ月程度のうちを希望いたします)、私たちにもお伝えいただきたいと思います。お伝えいただいた内容は、提言を提出した人々に伝え、今後の活動における大切な資料として活用させていただきます。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
末筆ながら、第4回世界水族館会議のご成功をお祈り申し上げます。
私たちが水族館に感じている疑問・疑念
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- 水族館は自然破壊を促進しているのではないか?
水族館で展示されている生物は、その大半が自然界から捕獲・採集してきたものであり、人の手で飼育繁殖されたものはごく僅かでしかないと聞いています。しかも、捕獲・採集した生物は、多くが輸送途中で生命を失い(9割以上が途中で死んでしまう場合も少なくないとも聞いています)、何とか水族館まで生きてたどり着いた生物も、水族館の人工的な環境などのために非常に短命だとされています。このため、水族館は、展示するための生物を自然界から大量に、しかも繰り返し捕獲・採集し続けなければならないと言われています。
これらが事実であれば、水族館の運営によって、自然は少なからぬ悪影響を受け、極端な場合には、大きな自然破壊をもたらす場合もあるのではないでしょうか? 特に日本のように100を超える水族館が運営されている場合には、自然に与える影響は、決して見過ごせない規模になるのではないでしょうか?
- 種を保存するという水族館の役割は十分に果たされていないのではないか?
今日、水族館は、様々な生物種の保存施設としての役割も担っていると言われています。しかし、種の保存という活動は、それ自体で独立して意義をなすものではなく、保存・繁殖させた種を戻す健全な自然環境の確保と、種を自然環境に戻してからの経過などに関する調査・研究などが同時になされてこそ、意義を持つものだと言えます。
しかし、残念ながら水族館は、自然環境の保護活動や、種を自然環境に戻し、さらにその後の経過などの調査・研究活動を積極的に進めていないのではないでしょうか? もし水族館が「種の保存」を自らの役割として自認されるのであれば、自然環境の保護活動と、種を自然環境に戻してからの調査・研究活動も併せて実行する計画を推進されるべきだと思いますが、いかがでしょうか?
- 動物に芸をさせるイルカ・ショーなどは動物虐待ではないか?
今日、水族館の多くでは、イルカなどの小型鯨類やシャチ、アシカ、アザラシなどの海洋哺乳類を使って様々なショーを行っています。しかし、これらのショーは、動物たちを飢えさせ、食べ物を得る手段として様々な芸を仕込んだものだと聞いています。つまり、動物たちは、決して自ら喜んで芸を演じているのではなく、食べ物の制限という厳しい条件によって、芸を強制されているのではないでしょうか? もしそうだとすれば、これは動物への虐待にあたる行為だと思われますがいかがでしょうか?
- 人工的な飼育がイルカたちの基本的な生きる喜びを奪っているのではないか?
水族館では、イルカ・ショーなどを成り立たせるため、また経済性や管理のしやすさを優先して、彼らが元々は食べないはずの死んだ魚などを餌として与えています。しかし通常、野生の動物たちは、1日の生活の大半を食べ物を探し、捕獲して食べるという行動にあてています。つまり彼らにとって、こうした食に関する一連の行動は、生来の生態を保つ基本的な行動であるとともに、生きる喜びを感じる源ともなる、重要な意味を持つ行動だと思われます。
このように考えると、野生動物を人工的な環境で飼育すること自体が、彼らの基本的な生態を歪め、生きる喜びを奪う行為だと言えるのではないでしょうか?
- イルカなどを狭くて変化のないプールに閉じ込めるのは動物虐待ではないか?
イルカなどの小型鯨類やシャチなど、今日、多くの水族館で見られる海洋哺乳動物は、自然界では非常に広い行動範囲を有しているものです。それに比べて水族館の飼育プールはあまりにも狭く、彼らの行動欲求を強く抑圧していると思われます。研究者は、こうした環境が動物たちにとって大きなストレスになっていると指摘しています。
また、様々な変化に富む自然界に比べて、コンクリートなどの壁で仕切られた飼育プールは、非常に殺風景であり、この点でも彼らに大きなストレスを与えていると報告されています。
こうしたことから、野生動物にとって、こうした狭くて変化のない環境での生活は、とても耐えがたいものだと思われますが、いががでしょうか?
- イルカなどを劣悪な環境のプールに閉じ込めるのは動物虐待ではないか?
イルカなどの小型鯨類は、自然界においては、エコロケーションによって物を知覚していますが、研究者によると、平らなコンクリートで囲まれた飼育プールでは、エコロケーションが有効に働かず、彼らはそうした自然の知覚方法を放棄してしまうとのことです。また、飼育プールは、殺菌剤などが大量に投与されているため、動物たちは常に薬漬けの状態に置かれており、さらに飼育プールでは、周囲の音が反響しやすいため、動物たちは常に大きな騒音の下で生活することを余儀なくされていると言われています。
こうしたことからも、動物たちを、本来生活している自然環境とかけ離れた環境下で飼育することは、彼らにとって耐えがたいことだと思われますが、いかがでしょうか?
- 基本的な群れの生活を奪うことが大きな苦痛を与えているのではないか?
小型鯨類やシャチなど、水族館で飼育されている海洋哺乳類の多くは、本来、群れを単位として生活する動物です。しかし自然界で捕獲され、水族館に運び入れられる場合は、本来の群れからは完全に切り離されてしまいます。ときには水族館で、同類の複数の個体が一緒に飼育されることもありますが、それは、それぞれの動物が自然界で有していた本来の群れの構成とはまったく異なった、いわば人が人の側の都合で押しつけた群れでしかありません。
こうしたことから、水族館では、動物たちが本来有している基本的な生活様式を無視した飼育がなされていると言えると思いますが、このことは動物にとって大きな苦痛になっているのではないでしょうか?
- 水族館は反教育的な施設になっているのではないか?
今日、水族館は、人々が容易に自然に触れることができる施設として、自然教育の入門段階を担う教育的な意義が付与されています。しかし、上記1〜6のように考えると、水族館は自然界に直接的に好ましくない影響を与えている可能性が高いだけでなく、水族館を訪れる人々に、展示している生物の本来の生活や行動、環境とは違う状態を提示して、誤った認識を与えている可能性も高いと思われます。
また、イルカ・ショーなど動物に芸をさせる行為は、動物の立場を、人間に従属する存在とする、好ましくない自然観を人々に与えているのではないでしょうか?
このような水族館の教育的効果は、本来、人々が水族館に期待する教育効果や水族館が掲げる教育効果とは逆のものであり、結果として、人間と他の生物とがよりよく共存する社会の実現を遅らせる要因の一つになっていると思われますが、いかがでしょうか?
- 水族館は不健全な娯楽を提供しているのではないか?
水族館はまた、人々に娯楽を提供する施設です。しかし、上記1〜6のことから考えると、水族館が提供している娯楽は、あまり健全なものとは言えず、特に子どもたちにとっては好ましくない娯楽と言える面も少なくないと思われますが、いかがでしょうか?
- 水族館はすみやかに縮小・廃止すべきではないか?
今日、水族館は多くの人々に人気があり、今後はさらに数が増えることが予定されています。しかし、上記のように考えると、現在のような条件で、水族館を増やすことはもちろん、現状を維持することも、人々の将来にとって決して利益にはならないのではないかと思われます。したがって、もし、水族館がこうした問題を早急に解決する手段を持ち得ないとしたら、水族館は、すみやかに縮小・廃止の方向に向かうのが好ましいと判断されても仕方がないと思われますが、いかがでしょうか?
- 飼育動物の解放に向けた活動を開始すべきではないか?
ご存じの通り、すでにアメリカ合衆国では、水族館で飼育されていたイルカやシャチなどをもとの自然環境にかえす活動が始まっています。しかし、これらの活動はまだ始まったばかりであり、リハビリテーションの方法やリリース後の追跡調査の方法などは、まだ試行錯誤の段階といえます。また、そうした活動を進めるのに必要な専門家もまだまだ僅かしかいません。
水族館が今後、縮小・廃止の方向に進むかどうかにかかわらず、現に水族館に直接関係する問題として、飼育動物の自然界へのリリースという具体的な問題が存在しているのですから、水族館は、こうした人たちの活動を積極的に支援するとともに、よりよいリリースの方法を確立する研究活動やそのための専門家の育成などに力を注ぐべきだと思われますがいかがでしょうか?
また、リリースが困難と思われる高齢のイルカなどについては、入江や湾などを使ってより自然な状態で飼育するなど、より快適な生活環境を与える措置が必要であり、そのための調査・研究活動も水族館に期待されていることと思いますが、いかがでしょうか?
- 生き物を飼育しないバーチャル水族館が望ましいのではないか?
上記の通り、水族館は今日、様々な問題を抱えていると思われますが、これらの問題の多くは、水族館が生物を飼育・展示する施設であることに起因していると思われます。
一方、今日では、映像技術などの進歩により、日本でも映像のみで構成された水族館(いわゆる「バーチャル水族館」)が完成されており、生物を飼育・展示せずに、非常にリアルな水中の世界を人々に提示することが可能となっています。
したがいまして、上記のような水族館の抱える問題を解決し、しかも水族館の持つ教育的意義や娯楽提供といった使命を果たす施設として、今後はバーチャル水族館の普及こそが最も社会的な要求に則したものではないかと考えますが、いかがでしょうか?
以上
要望書の提出団体
- ・提出団体名/22団体/順不同
エルザ自然保護の会/日本消費者連盟/オルカ工房/エコプラン研究所/アニマルライツセンター/自然通信社/なまえのないしんぶん/今淵事務所/自然食通信社/地球生物会議/野生生物協議会/ひげとしっぽ企画/BIG
BLUE/シマリスとミズナラの森を見守る会/全国野生々物生息地環境調査研究所/動物実験の廃止を求める会(JAVA・東京都文京区)/サークリット/オイコス事務所/オーガニック・ネットワーク/JAVA(動物実験の廃止を求める会・東京都世田谷区)/クジラ問題ネットワーク/イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク
・提出個人名/149人 ※氏名省略