The Frivolous Cake

Mervyn Peake (from Titus Groan)

reading by 赤い彗星

(平成17年12月21日、和洋女子大学西館にて)









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A freckled and frivolous cake there was
That sailed on a pointless sea,
Or any lugubrious lake there was
In a manner emphatic and free.
How jointlessly, and how jointlessly
The frivolous cake sailed by
On the waves of the ocean that pointlessly
Threw fish to the lilac sky.


そばかすだらけの浮わ気なケーキが、無意味な海の上を走っている。
「あるいはどこか、侘びし気な湖でも何でも」といういい加減さが良い。
「自由で力強く」泳ぎ続ける。いかにも女性的なたくましさである。
「なめらかに、すべるように」、無意味に“ポイントレス”で“ジョイントレス”なのがことさら感動的である。そしてリラ色の空に向かって、意味も無く魚が跳ねる。
平和で、哀切な、目くるめくような熱帯の海の情景である。


Oh, plenty and plenty of hake there was
Of a glory beyond compare,
And every conceivable make there was
Was tossed through the lilac air.


「比べようも無いほどの栄光に満ちた、沢山の鰊がそこにはいた、
ありとあらゆる種類の鰊が、リラ色の空に投げ上げられていた」
感動的なリフレーンである。猥雑さと崇高性が共存していることが見て取れる。
普遍性と、恒久性と、永遠性の奇跡的な視覚化がなされている。


Up the smooth billows and over the crests
Of the cumbersome combers flew
The frivolous cake with a knife in the wake
Of herself and her curranty crew.
Like a swordfish grim it would bounce and skim
(This dinner knife fierce and blue),
And the frivolous cake was filled to the brim
With the fun of her curranty crew.


「なめらかな波を昇り、その頂きを越え」
重たげなうねりを乗り越えて、ケーキは走る。
その航跡の中には、一本のナイフが青く光りながら後を追い続けているのである。
「青く、猛々しい」ナイフはカジキのように水面を滑り、あるいは跳ね、ケーキに迫りくる。
身体一杯の干しぶどうと共に、ケーキは期待の念に胸をふくらませる。
あまりにも官能的な情景が展開している。


Oh, plenty and plenty of hake there was
Of a glory beyond compare ―
And every conceivable make there was
Was tossed through the lilac air.



美しい音楽的な響きのリフレーンである。
“ヘイク”と“メイク”が成す韻は“ケイク”と連なって、より深い意味性を増幅するのに役立っている。


Around the shores of the Elegant Isles
Where the cat-fish bask and purr
And lick their paws with adhesive smiles
And wriggle their fins of fur,
They fly and fly ’neath the lilac sky ―
The frivolous cake, and the knife
Who winketh his glamorous indigo eyes
In the wake of his future wife.


「エレガント諸島の岸辺には、猫魚達が陽を浴びて、喉を鳴らし、
そしてねっとりとした笑みを浮かべて足を舐め、
毛皮のひれをうごめかす」
あやしい生命力に満ちた、生命讃歌である。
きらびやかな命と光の中を、ケーキとナイフは泳ぐ。
そしてナイフは恋の成就を予感して、その群青色の眼を瞬かせるのである。


The crumbs blow free down the pointless sea
To the beat of a cakey heart
And the sensitive steel of the knife can feel
That love is a race apart.
In the speed of the lingering light are blown
The crumbs to the hake above.
And the tropical air vibrates to the drone
Of a cake in the throes of love.


「ケーキの甲板からはパン粉が吹きこぼれ、なめらかな水面に散っていく、
ケーキの心臓のときめく鼓動の打つ度に」
はなはだ暗示的な、エロティックな描写と言うべきである。
「そして繊細な鋼鉄のナイフは感じる、
もうすぐ恋人が、我が手中のものとなることを」
“スティール”を形容する“センシティブ”が独特の音韻的効果を発揮して、
意味性の反響を図っているのである。
クライマックスを暗示するかのように、暮れなずむ光の中をパン粉はふきこぼれ、
おそらくは鰊の餌となるのである。
生と死と、生と性と聖と、死と詩と史の無限の転回を象徴するかのごとく、
「愛の苦痛に身をよじらせるケーキ」と共に、南洋の重く湿った大気もあやしく震えるのである。
全体と個の全てがそれぞれ連関し、反響し合う、きわどくも扇情的な光景である。


語句解説

freckled: そばかすだらけの
frivolous: 軽薄な、浮気な、
“freckled and frivolous”で “f”の音を重ねて頭韻を踏んでいる
pointless: 無意味な、無駄な
lugubrious: 陰気な、憂鬱な(侘びし気な)
jointlessly: 滑らかに。“pointlessly”と語調を合わせている
hake: 鰊、(ニシン)
conceivable: 考え付く限りの、ありとあらゆる
make: =種類 “hake”と韻を合わせている
toss: 投げ上げる(ニシンがぴょんぴょん飛び跳ねている)
billows: 波
crests: 波頭
cumbersome: 重々しい、動きの遅い
comber: “波”を呼ぶ詩語
cumbersomeとcomberで視覚韻を形成している
wake: 航跡。ケーキの泳いだ跡
curranty: “currant”(干しぶどう)の形容詞形。ケーキに乗っている干しぶ どうの乗組員達
swordfish: カジキ。“sword”は“剣”。ケーキの後を追っているナイフとイ メージを合わせている。
grim: 陰気な、暗い
bounce and skim: “飛び跳ね、水面を滑り”
brim: 端、周囲。“filled to the brim”で“一杯に満たされている”
crew: 乗組員
shore: 海岸、岸
Elegant Isles: 優雅諸島。(架空の地名)
cat-fish: “catfish” なら鯰(ナマズ)。ここでは“猫魚”。
bask: ひなたぼっこをする
purr: (猫が)喉を鳴らす
adhesive: 粘着質の、べっとりとした
wriggle: うごめかす
fins of fur: 毛皮のひれ
’neath: =beneath
glamorous: 魅力に満ちた、誘惑的な
indigo: 藍色の
future wife: 未来の花嫁
crumbs: パン粉、ケーキのトッピング
to the beat of a cakey heart: ケーキの心臓の打つ音に合わせて
cakeの形容詞形を強引に作っている。“curranty”と同様。
sensitive: 繊細な
steel: 鋼鉄
“sensitive steel”で頭韻を踏んでいる
love is a race apart: もう一走りすれば、愛は手に入る
lingering light: 暮れなずむ陽の光
tropical: 熱帯の
vibrate: 振動する、震える
to the drone: 響きに合わせて
throes of love: 愛の苦しみ、痛み


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