公開講座、模擬授業等で頂いた質問に対するお答え



1 ロンの魔法はどうしていつも失敗するのですか?

 2003年3月、茂原英語学院で行った模擬授業の際に頂いた質問です。とても面白い質問だと思って考えてみたのですが、次のような結論にたどり着きました。
 呪文を唱えるロンの発音に訛りがあるからでも、ロンの魔法の杖が折れているからでも、ロンの来ているマントや身に付けている道具が中古品だからでもなく、たぶんロンは両親が魔法使いで、兄弟達もみんな魔法使いであるため、魔法の技をあまりにも生活に身近なものとして感じてしまっているため、魔法をただの便利な道具としてしか理解していないことが原因でしょう。ロンは魔法のことを良く分っているつもりで、実は一番分っていないのです。魔法の中にはもっと秘められた、重大な意味が隠されているはずなのです。
 ホグワーツ学院で学んでいる学生の中で一番魔法のことを知らないのがハリーでしたが、そのハリーが常にだれよりも強力な魔法の力を発揮することができていたのは、偶然ではありません。しかもハリーがこれまでに用いることができた最も高度な魔法は、たぶん両親がボルデモートに襲われた時、ハリーが自分の身を守るために使った力であったはずです。この時ハリーはただの赤ん坊でした。何も知らない赤ちゃんのハリーにこそ操ることのできた、不思議な強力な力が魔法なのです。様々のファンタシー文学作品の中で描かれている魔法の原理が、このような一見矛盾したことが可能になる訳を見事に語っています。科学知識とはまたどこか異なった、暗記や技術の習得に加えて、さらに別ないくつかの条件を必要として、ようやく発揮することができる技が魔法なのです。


2 日本語の論文のタイトルを英訳するとしばしば不自然なものになるが、どうしたらよいでしょう?

 こちらも、2003年3月、茂原英語学院で行った模擬授業の際に頂いた質問です。英語と日本語の違いを見事に指摘する、とても優れた質問だと思いました。
 確かに論文のタイトルを英訳しようとする時、例えば日本語の論文では「〜の〜に関する、〜についての〜」というようなタイトルが多いのですが、これを英訳すると皆 “on~of~of~”のようになってしまって、 “of”や “on”ばかりが目立ってしまうことになります。
 実は「に関する」とか「〜についての」という表現は、日本語において高踏的な学術的雰囲気を醸し出すことを意識して導入された、漢語的表現に類するものであるような気がします。これをそのまま英語に訳してしまうと、結果はかなり扱い難いものになってしまうでしょう。英語やその他のヨーロッパ言語において同様の「難しさ」、「高級さ」を意識した場合には、ギリシア語やラテン語起源の単語が好んで用いられているような気がします。特に学術的な用語に多いのは、独特の専門的な意味を保持した形容詞です。例えば「犬の」、「犬に関する」というような場合なら“canine”という形容詞があります。猫なら“feline”、ライオンなら“leonine”といった具合に、ちゃんと様々な日常の英語の単語に対応するギリシア・ラテン起源の単語がそれぞれあるのです。「犬科動物における行動特性」を英訳する場合に、“Characteristics of Dog’s Behavior”というよりも“Canine Behavioral Characteristics”とした方が、いかにも論文のタイトルらしい堅苦しい雰囲気になるのが分ることと思います。
一般法則として定式化すれば、日常的な英語表現で用いられる“of”などの前置詞やアポストロフィーS(’s)などを用いる代わりに、普段はあまり使わないのでちょっと頭に浮かんで来にくいけれど、英語表現としては異質のラテン語法等をちょっと調べてみる、というのが有効かと思います。これもまた英語の世界の中で定着した、格調高い伝統的な語法の一つではあります。素直で優しいのばかりがいつも良いというのはむしろ頭の固い人の言うことで、臨機応変に、時に厳めしくて堅苦しかったりすることもできるのが、本当に柔軟な感覚というものです。


3  “lemon”という言葉に果実のレモン以外の特別な意味はありますか?
映画の中で「町でレモンがつなぎを着ていた。」というセリフが使われていたのですが。

 2004年11月、和洋女子大学学園祭における模擬授業の際に頂いた質問です。映画を見ていると、時代劇や異世界で展開するファンタシーなどよりもむしろ、現代の日常社会を舞台にしたものの方が、発音が聞き取りにくかったり、意味不明の単語が用いられていたりして、内容が理解出来無いことがよくあります。しばしばその理由として、俗語表現(slang)が用いられていることがあげられます。
 俗語表現で“lemon”には、“嫌なもの、特に女性のことを指して言う。”という用法があります。 “a lemon in overalls”ならば“つなぎを着た、感じの悪い女”ということになります。
“apple”が素敵な良いものを指してしばしば用いられるのに対して、 “lemon”には酸っぱいばかりで嫌な感じのもの、という印象があるようです。
lemon:
anything undesirable, especially females; from sourness of the fruit

ついでに味を表す言葉の与える典型的な印象を下にまとめておきます。
 酸っぱいーsour: 嫌な、不快な、不機嫌な、意地の悪い
 甘いーsweet: 可愛らしい、魅力的な、愉快な、気だての良い
 苦いーbitter: 痛烈な、辛辣な、不機嫌な、邪慳な
 辛いーhot: 怒った、熱烈な
 塩辛いーsalty: 辛辣な、機智のある、世故に長けた


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