マレーシアからの便り32


 まーくんさん、こんにちは。
 さて、先週はペナン島から飛行機で1時間のシンガポールへ出張に行ってきました。シンガポール観光の目玉であり実物は期待はずれのがっかりすることで有名なマーライオン近くの高級ホテルに宿泊を予約していましたが、なぜかスイートルームに案内され、部屋の広さに落ち着いて眠れませんでした。
 さて、現地の方にシンガポールとマレーシアとの複雑な関係について少々教えてもらいましたので、今回のマレーシアからの便りはこの両国の逆転親子関係についてご紹介します。


マレーシアからの便り(32)

 以前のマレーシアからの便りでご紹介したように、20数年前にマレーシアから一部の中国人が独立してシンガポールという新しい国家を建築したそうです。
 これは、親に反発して家出した子供が見事に出世してついに親を追い越した、しかも子供の家は実家の隣でごく小さな所帯であるにもかかわらず、というのがマレーシアとシンガポールとの関係です。
 例えると、ある日突然、淡路島の住人が日本から独立して国家を建設し、加工貿易に精を出したり世界の金融機関を集めて金融中心街を形成し、ついに20年後には本国以上に経済的に繁栄を果たしたというような展開でしょうか。

【標準語と国歌】


 シンガポールでの事実上の共通言語は英語ですから、テレビでも英語番組が標準です。
 これに対してマレーシアではたいていの人は英語会話ができますが、テレビではマレー語が標準、ごく一部の番組で英語と中国語のニュースがあります。
 ところが意外なことに、マレーシアもシンガポールも公式の標準語はマレー語です。
 しかもさらに驚いたことは、マレーシアは当然ですがシンガポール国歌もマレー語です。こんなところに、実家の影響が残っていると言えるようです。

【航空会社】

 機内食がおいしいことで有名なシンガポール航空とマレーシア航空の乗務員(いわゆるスチュワーデス)の制服は、民族衣装を基本にしたデザインとサンダルですが、形は酷似していて、色使いのみが異なっています。それもそのはず、以前はひとつの航空会社であったところから分離独立したのがシンガポール航空であるため、制服デザインもよく似ているのだそうです。たしか緑色主体の方がマレーシア航空の制服です。

【通貨の関係】

 シンガポールドルとマレーシアドルには大きな格差があります。現在の交換レートは、1シンガポール$=2. 5マレーシア$(リンギット=RM)
 まさに子どもが親を通貨で2. 5倍も上回るほどのお金持ちになった象徴です。しかも、マレーシアドルは、現在の経済危機により米国ドルとの交換レートを固定とする緊急措置のため、マレーシア以外の国では外国通貨と交換できない非常事態が続いています。
 このため親子の関係であってもシンガポールではリンギットは交換できませんし、買い物にも使用できません。しかも今年はシンガポールの貿易収支もついに赤字に転落の見通しとなり、親の家の台所は火の車、子供の家もそろそろ危なくなってきたという状況です。

【物価】

 不思議なことにシンガポールとマレーシアの物価は、それぞれの国のドルの表示がほぼ同じ値です。
 具体的には、高級コンドミニアムの家賃が4000から5000ドル、同じクラスのリゾートホテルの宿泊料金が200から300ドル、休日のゴルフビジター料金は約150ドルです。
 食べ物では、屋台のラーメンが2ドル、おかずぶっかけご飯が4ドル、缶ジュースは1.2ドル、中級レストランの中華料理コースが一人前20から30ドルです。また夜のお酒を飲んでカラオケを楽しむお店の料金が100ドルから200ドル。駐車料金は1時間1から2ドル。タクシー30分ほどの走行料金が20ドルです。

 これらは、いずれもその国でのドルの値です。つまり、隣り合うマレーシアとシンガポールの物価はちょうど前記の通貨の交換レートである2. 5倍の差があるのです。
 このため、週末にはシンガポールからマレーシアへ買い物客が大挙して押しかけているそうですが、そうすると、国境近くのマレーシア側に住んで、シンガポールで仕事をし給与を得ている人は、実に裕福な生活を実現できることになります。そんな人いるんでしょうか?(その分は所得税が非常に高くなっているかもしれません。)

【物と人の交流】

 マレーシアからは、農産物、石油等がシンガポールへ、対してシンガポールからは主に工業製品がマレーシアへ輸出されているようです。
 マレーシア在住の中国人は、子供の大学として、たいてい外国へ留学させていますが、最も近場のシンガポールにも多くのマレーシアの中国人が留学しています。
 その逆はありません、なぜならマレーシア政府のマレー人優遇政策のため大学入学もマレー人が優先されるからです。

【高速道路】

 シンガポールチャンギ空国から繁華街への高速道路の一部は、何Kmもの直線道路が続きます。
 これは、有事の際に中央分離帯の花壇が実は移動式になっていて、即座に戦闘機の滑走路に流用できるようになっています。この道路が完成した直後に、マレーシアでは対抗措置として、まったく同様の道路が建設されたそうです。
 つまり、親子関係でありながら両国には緊張関係が存在するらしいのですが、まさに親子の対抗意識というようなものでしょうか。

【水の関係】

 小さな島国であるシンガポールはマレーシアから飲料水を購入していますが、シンガポールではその水をフィルターでろ過して高級な飲料水として購入価格の10倍以上の値段でマレーシアへ売っています。
 ここにも加工貿易によって繁栄しているシンガポールの底力を見せられます。ただし両国間に外交上の問題が生じた場合、マレーシアからシンガポールへの水の供給を停止すべきだとの強硬意見がマレーシア国内には出るそうです。

これでは、次のような良好な関係になるまでには時間がかかりそうですね。

『親子水入らず』



 


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