[TOP]

ROAD TO BRAZIL !!

<<PREV | INDEX | NEXT>>
2000/10/24 HOLD YOUR LAST CHANCE
 試合に出ることを決め、航空券の変更を済ませ、その日の午後は家でホッと一休みしていました。試合は泣いても笑っても明日です。ですが「このまま試合に出るよりは・・・」と思い、道場へ行って軽く動こうと思いました。夜にはそのくらいの事が出来る程度に、めまいもおさまっていたのです。

 道場に行くと、アレシャンドリが相当気を使ってくれて、「今日は練習するな。帰って休め」と言われました。でも「少しだけ。感覚を思い出す程度だけ」と言って、練習に参加させてもらいました。2、3人の青帯とだけやって、後はストレッチなどをしていました。この日、ようやく僕はアリアンシの新しいIDを受け取りました。「ああ、俺は試合に出るんだな、本当に出れるんだな」とカードを見つめながら噛み締めました。

 明日の朝、アレシャンドリはブラジレイロを観戦することなくヨーロッパへと発ちます。つまり僕にとっては、今日は彼に会う最後の日なのです。当初の予定では、僕は彼の帰ってくる11月初旬まで居るつもりだったのですが、こんな事もあったし、試合後にはやはり帰ることを決めていました。そろそろ潮時だなぁと。それでこれが最後の日になったわけです。その事を彼に告げると、「そうか、それは残念だ」、「また会える日を楽しみにしている」と言ってもらえました。「明日の朝来れるか?少し話そう」と言われましたが、「試合に備えて朝は寝ることにするよ」と答えました。「そうか・・・」と彼は言いました。

 最後に彼と話したのはこんなものでした。突然の事過ぎて、僕は何も言葉を考えておらず、向こうもその様で、素っ気無い握手だけをして別れてしまいました。今までの事、色々な事、ちゃんとお礼を言いたかったのですが、即興では何も思い浮かばず閉口してしまいました。これでお別れだとは、僕も信じられませんし、きっと向こうも信じられなかったのでしょう。なんかまたすぐに会うんじゃないかって感じで。でもとにかくお別れです。ありがとう、アレシャンドリ。

 翌朝目覚めると、めまいの方は80%回復していました。準備を整えました。朝飯をしっかり食い、さらに道衣を着て体重計に乗っても74kgしかありませんでした(笑)。まあ大丈夫。昨日の練習で少し不安が取れましたし、やるだけの事はやろう、というかやれると思いました。金子さん、杉田さんと共にイアッチ・クルービへ向かいました。金子さんは今日僕のセコンドについてくれます。杉田さんは撮影してくれます。今回の騒動でも、この2人はずっと励ましてくれました。おそらく彼らがいなかったら僕は逃げ帰っていたことでしょう。頼もしき仲間です。

 試合会場に着くと、早速トーナメント表を確認しました。アリアンシから出ているのは、僕とレオの弟であるレアンドロと、もう一人Bチームの名前がありました。しかしこの日レアンドロは欠場するらしく、事実上このカテゴリーのアリアンシの選手は僕だけになってしまいました。人数はすさまじく、6回勝たなければ優勝出来ません。僕が参加した大会の中でも過去最多でしょう。ライバル選手を確認すると、順当に行けば2回戦であのジョン・ハンゲルと当たる事が分かりました。ムンディアルで僕が負けたバッハの選手です。「三角掛け逃げ職人」とでも言っておきましょう。

 試合は1時間ほどずれ込みました。ドクターが思いっ切り遅刻したからです。僕のカテゴリーが始まったのは3時頃でしょうか。「カテゴリア ファシャホシャ ペソレベ」とアナウンスが流れ、僕はウォームアップ・ブースに向かいました。心臓がバクバクしてしまうのはいつもの事、座って休んだり動いたり、そわそわしているとすぐに僕の試合の番がやってきました。1回戦です。

 相手はどこの選手か分かりませんが、ブル・ファイターっぽい香りを感じました。試合開始と同時に、相手は案の定鬼のようなタックルを仕掛けて来ました。タックルというよりは突進かな(笑)。冷静に切って、サイドに回ろうとしたのですが、ここが柔術とレスリングの違うところ、相手が指先でズボンを掴んでいる限り、油断は出来ません。しつこくしがみついています。ここで小内刈りを決めて最初に2ポイント取りました。

 そのままガッチリと脇を差したハーフガードに組み敷き、得意の足抜きにつなげようとしたのですが、相手は持っていたズボンを離さず、何と強引に立ち上がられてしまい、さらにズボンを引き上げられて、僕は後ろにズテンと倒れてしまいました。これでポイントはタイ。しばらく寝技の攻防をした後、またスタンドに戻りました。またもや相手は鬼のようなタックル、僕はそれを切り、横に回って足を抱えて倒し、テイクダウンで2ポイント。これで勝負ありました。判定勝ちです。

 全く体は動いていました。スタミナ的にも問題ありません。次の試合に備えて休みました。ジョン・ハンゲル君の試合をチェックしましたが、1回戦は三角で秒殺していました。やはりあれが彼のフェイバリットなんだなと思い、ここで僕は作戦を考えました。「あいつより絶対に早く引き込もう」と。しばらくしてから名前がコールされ、僕とハンゲル君はマットに進みました。実はブースに居た時からお互い意識しまくりで、向こうはムンディアルの時の僕の怒りを覚えていたらしく、シカトしながらチラチラ見合っていました(笑)。

 試合開始です。ハンゲル君がおもむろに握手っぽく手を差し出してきます。ふふふ、その手には乗らないよ。僕はパンナムの時にダニエル・コヘア君が同様にして差し出した手を握り返し、そのままタックルを合わせられた間抜けな男だ(笑)。だからハンゲル君の、いやブラジル人の魂胆は見え見えです。握手には応じず、お互いグルグルとマットを回りました。向こうもこちらの考えが分かったみたいで、どちらが先に引き込むか。それだけの勝負ですね。僕は負けない自信がありました。最初から分かっていれば自分が負けるはずがないと。しかしハンゲル君の引き込みは、僕の想像以上に早く、目の前から消えたかと思うと、アッという間にスパイダーの形を作られてしまいました。

 「うおお、これでは前回と一緒だ!」と思い、すぐに対処しようと思いましたが、ハンゲル君にはかなりのグッドグリップを先にキープされてしまいました。非常にうまい組み手です。脱出不可能でした。そしてまたもや掛け逃げ三角の嵐!そのうち一つがアドバンテージ取られてしまいました。かなり焦りました。もう必死で仕掛けようとしたのですが、何も出来ませんでした。ハンゲル君のディフェンスは強固で、パスする糸口が全く見つかりませんでした。そのジレンマと戦うこと7分。僕の敗北は決まりました。前回と同様、アドバンテージたった一つの差が取り返せなかった。前回と同様全く疲れてもいません。何もかも前回と一緒でした。

 ただ一つ違うことは、ハンゲル君は今回いい奴になっていたことです(笑)。前回の僕の怒りを覚えていのか、ストップが掛かった時はちゃんと力を緩め、レフリーが僕の道衣を直すのを待ってくれました(笑)。そして暗黙の了解でみんながやる、相手の体をポンッと叩いてからのリスタート。非常にフェアな戦いでした。僕の完敗です。完全な敗北でした。試合後はお互いの健闘を称えあいました。彼はとてつもなくうまい柔術家であると思います。そしてやはり優勝しました。6回も勝って。凄いです。僕は2回戦負け。それで終わりです。表彰台に上がる選手達を見て、悔しさが胸一杯に込み上げて来ました。こうして僕のブラジレイロは幕を閉じたのです。

 それにしても今回の修行、最初と最後に、ムンディアルとブラジレイロで同じ相手と戦うことになるなんて、夢にも思っていませんでした。面白いものですね。そして再び同じような展開で負けてしまった僕は、何の進歩もなかったというわけです(笑)。僕の実力では、まだまだブラジルでは通用しないことが分かりました。やらなければいけない事は山ほどあります。また出直します。次は勝てるように、精一杯練習します。自分が納得するまで、トコトン紫帯で。

 大会後は、この日帰国する杉田さんを見送りにガレオン空港まで行きました。何事もなければ数日後にまた再会出来るはずです。僕の体調ですが、試合後も特に崩れることはなく、大きな怪我をすることもありませんでした。ご心配なく。無事に試合を終えることが出来ました。神様に感謝します。
<<PREV | INDEX | NEXT>>


HP banner
TAIRA Naoyuki
http://www.grappler-taira.cx