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ROAD TO BRAZIL !!

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2000/9/8 特攻野郎Aチーム
 心配していたブラジレイロの日本人枠ですが、日本で中田さんや茂木さん、杉田さんが情報収集に奔走して下さり、何とか日本人枠で出られるという解答を日本の連盟から頂くことが出来ました。これで中田さんも出場出来ることになりました。僕自身もホッと胸をなで下ろしていました。一時は・・・。

 どこか納得いきませんでした。それでいいのかと・・・。ここまでアリアンシで練習させてもらっておいて、自分だけ特別扱いされていいのかと、悩みました。やっぱりそういうわけには行きませんよね。僕はアリアンシの予選に出ると決心し、アレシャンドリにその事を告げました。

 「OKだ。金曜日の朝10時、忘れずに来い。」

 アレシャンドリから言われたのはこれだけでした。予選はうちの道場で行われるようです。後はどこから誰の生徒が来るのか、何人参加するのかなど、何も知らされませんでした。凄く怖かったです。これで負けたらブラジレイロは観戦組。目的がなくなれば、その後の練習のモチベーションを維持するのも難しいです。不安になり、焦りが生じました。

 そんなとき平さんから届いたメールを読みました。

 「これから上を目指すのであればこういった時にその状況を自分の糧に出来るかどうかはとっても大切になってくると僕は思います」

 全くその通りだと思いました。ピンチをチャンスに変えられるかどうか。これから上を目指すのであれば、こんなところでビビっている場合じゃないですよね。やったろうじゃないか。そう吹っ切れた思いがいたしました。

 試合の前日、中田さんと合流しました。色々と街をご案内し、生活のノウハウを覚えてもらいました。しかしこの日はブラジルの休日だったので、どこのお店も閉まっていました。練習もお休みです。キモノなどの買い物は後日にしようということになりました。「実は明日予選なんです(笑)」と告げるとビックリされていましたが、セコンドでタイムなどを教えてくれると言ってくれました。

 試合の日はすこぶる体調が良かったです。珍しいです。10時に道場へ着くように家を出ました。しかし道場へ着いても数人の選手が来ているだけでした。「やはりブラジリアンタイムだったか」と思い、僕もゆっくり目のアップなどをしながら時を待ちました。待っている間に続々と選手が集まりだしました。リオにあるアリアンシ系道場以外にも、サンパウロや他の都市からも来ているようです。

 僕はなぜか試合の前になると、自分以外の選手がとてつもなく強そうに見えてしょうがなくなる症候群なので、すごくビビリました(笑)。でもいつもの事なのでもう慣れました。「錯覚だ、錯覚だ」と思いながらアップを続けました(笑)。じきにアレシャンドリが姿を見せました。そして後ろからすごく陽気な黒人が。よく見ると、先のムンディアルで天才ニーノを破って優勝したテレレーではないですか。ビックリしました。テレレーは元々はアレシャンドリの弟子だそうです。

 そしてもう一人、なんと僕の大好きな選手、レオジーニョことレオナルド・ヴィエイラが来ているではありませんか。彼らがわざわざサンパウロから来たのには理由がありました。テレレーは審判で呼ばれたようですが、レオは彼の弟が予選にエントリーしているからのようです。いつの間にか道場にはたくさんの選手が集まり、アレシャンドリが何人かのスタッフとその場でトーナメント表を作り出しました。

 11時頃でしょうか。ようやく試合開始の雰囲気となってきました。今日行われるのは、紫帯ペナ級、レーヴィ級、アブソリュート級の3カテゴリーのようです。アレシャンドリは僕に言いました。「我々は一つのカテゴリーから2名の選手を選ぶ。さらにその2名はアリアンシAとアリアンシBに分かれる。もしブラジレイロ本戦でAとBがクロスした場合は、BはAに勝ちを譲ることになる」

 僕は3回勝てば優勝出来るらしく、2回勝って代表権獲得、優勝すればアリアンシAの称号が得られるという事でしょう。とは言ってもこの時は動揺してて、アレシャンドリの説明の意味があまり分かっていませんでした(笑)。ですからとにかく勝てばいいんだな、と考えることにしました。いよいよ試合が始まりました。最初はペナ級です。ペナの選手達は非常にスピーディーでアグレッシブ。「さすがアリアンシの紫帯」とうならせる試合ぶりでした。ペナの1回戦が全て終わり、とうとう僕の名前が呼ばれました。

 1回戦です。相手の所属も名前も分かりません。審判はアレシャンドリです。握手を交わすと試合が始まりました。まずはテイクダウンを試みようと相手の襟を持ってあおりました。相手がすぐに引き込んで来たのでカウンターを狙いました。しかしあえなくクロスガードされてしまいました。さすがに反応が早い。しかもそのときに、運悪く自分の足がすくわれた状態で座ってしまいました。相手はその手でさらに僕の袖をキープしています。不用意に動けば、オモプラータでスウィープされるか、スキャピラーロックで一巻の終わりでしょう。

 用心深く、しばらくベイスを保ってチャンスを待ちました。2分間の膠着の後、相手の袖を切ることに成功しました。間を置かずすぐにクロスを割り、パスガードに入りました。頭を付けてしぶとくサイドへ回りました。相手も物凄いプッシュで押し戻してきます。ほとんど抜けかけたところで、相手が妥協してキムラ・ロックを仕掛けて来ました。ここが勝負所だと思い、一気に頭をまたいでカウンターの腕十字を取りました。タップアウト。約3分くらいの試合でした。

 体は予想以上に動いていました。紫帯同士の試合なので、ワンミスが命取りになるのは肌で分かります。でもやれると確信しました。相手の強さも全く感じませんでした。腕も疲れていません。握力もバリバリ残っています。自分の能力はここに来てさらにアップしていたようです。

 続いて2回戦。かなり短いインターバルですが、これももう慣れっこです。テイクダウンを狙って軽く相手をあおると、すぐに引き込んで来ました。ここで怒涛のようにパスガードを試みて、一気に押さえ込むことに成功しました。これで3ポイント。そのまま極めてしまおうとポジションをチェンジし、アタックを仕掛けました。それに乗じて相手もガードに戻してきました。そこをもう一度ハーフで固めて、足を抜き、もう3ポイント。さらにアタック、ニーオンザベリーで攻め立て、アドバンテージを重ねました。しばらくしてタイムアップ。6−0の判定勝利でした。

 これでアリアンシの代表権獲得は決定致しました。意外なくらいアッサリと。物凄い安堵感に包まれました。でもまだ決勝が残っています。ここまで来たなら優勝したいと思いました。アリアンシのトーナメントで優勝出来れば、ブラジレイロに向けての大きな自信になるからです。決勝の相手、かなりのテクニシャンです。彼の試合だけはチェックしていました。

 準決勝が終わってからは、アレシャンドリ道場の仲間や他道場の知らない選手までもが、なにやら僕に耳打ちしてきます。「君は決勝の相手を知ってるのか?用心しろ。彼はブラジルでもトップの一人に数えられるレオ・ヴィエイラの弟だ」

 まさかと思いました。僕はレオ弟の顔を知らなかったし(言われてみればそっくりです)、確かムンディアルでは違う階級にエントリーしていたので、自分の相手になるとは思っていませんでした。ということで、僕はレオジーニョの弟と試合をすることになってしまいました(笑)。「どうしよう、どうしよう」とまたビビっていると、もう試合の時間です。向こうのセコンドにはレオジーニョとテレレーが付いています。やばいです。まあでも、相手も同じ人間です。思い切りやってやろうと思いました。負けても悔いはないなと。

 実際この試合では、僕は今まで出したことがないくらい、全力を出したと思います。試合は1分で終わりました。

 試合開始の合図と同時に威勢良く飛び出し、相手の襟を掴むしぐさでかく乱しました。実際に掴んでからは、あおり、足払いをしかけ、相手の引き込みを誘いました。しかしレオ弟は今までの相手と違い、「そうくるならこうするよ」とでも言いたげな余裕の表情で、腰を引き、立ち技で応戦する姿勢を示してきました。「やばい、ハッタリが通じない」と悟った僕は(笑)、今日初めて引き込みました。と同時に、自分の両足を開脚して相手の両足はじく、僕の最も得意な技「レオジーニョバスター」を仕掛けました。この技はかつて和道さんから教わった技です。和道さんはレオに教わったと言ってました。いわゆる掟破りの逆レオジーニョバスターだったのです(笑)。ここから試合のフィニッシュまでは30秒とないです。

 バスターをレオ弟が耐えました。ちょうど僕は座り込んだ姿勢になり、サイドがガラ空きです。レオ弟は素早くサイドに回ってきました。僕も反応して脇を取りました。袖も引きつけ、そのままスウィープ。レオ弟は頭を床につけて耐えます。僕もスウィープし続けます。しかしレオ弟はケンケンでさらに耐えます。僕は脇を取った状態で立ち上がってついていき、そのまま腰投げを放ちました。しかし切り替えされ、仰向けに倒されてしまいました。しかしほとんど同体だったので、レオ弟もバランスを失なったままでした。すかさずガードに入れて、下から腕を取りました。首と肩で相手の手首を挟み、肘を極める、腕ひしぎ腕固めです。レオ弟の肘がミシミシと音を立てました。しかし腕を回転させてエスケープしてきました。そのまま逃がしつつ、今度は三角絞めに取りました。ガッチリと決まり、3秒後にはタップアウトしてくれました。

 勝った瞬間、場内はシーンとしていました。周りの人間はもちろんレオ弟が勝つと思っていたのでしょうか。彼のタップに僕しか気付いてなかった事もあるでしょう。アレシャンドリも呆然と僕達を見ていました。しかしレオ弟が立ち上がらないのを見ると、僕の手をスッとあげてくれました。勝ちました。優勝です。やりました。

 大会終了後はもう同じアリアンシの仲間達。みんな良い人でした。祝福してくれました。アレシャンドリも誉めてくれました。すぐにレオジーニョとテレレーのところへ挨拶に行きました。ただただ誉めてくれるだけで、ホッとしました。少し和道さんの話をしました。レオもテレレーも「おお、トシを知ってるのか!」と大喜びで、「彼は今も柔術を続けています」と話すと嬉しそうにしていました。でも「まだ青帯なんです」と言うと、少しもどかしそうな顔をしていました。レオ弟とはブラジレイロでの再会を約束して別れました。

 ということで僕はブラジレイロで戦えることになりました。いよいよ2週間後です。代表権どころか、アリアンシAになれました。僕は特攻野郎Aチームと化してブラジレイロに挑みます。この1ヶ月の修行でかなり実力がアップしたと実感しています。やれると思います。がんばります。平さん、メダルを持って帰ります!
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