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走り書き「新刊」読書メモ(72)


ここでは、比較的最近出版された本についての短い感想を載せています。
(例外のやや古い本には☆印をつけました)。
時々、追加してゆく予定です。


index・更新順(2017.7.8‾)

小林敏明「夏目漱石と西田幾多郎」吉見俊哉「大予言」
ヤマザキマリ とり・みき「プリニウス 5」中島義道「明るく死ぬための哲学」古川順弘「日本の神様図鑑」
森洋子「ブリューゲルの世界」稲垣栄洋「怖くて眠れなくなる植物学」武村政春「生物はウィルスが進化させた」
小川順子「和歌のアルバム 藤原俊成 詠む・編む・変える」野網摩利子「漱石の読み方『明暗』と漢籍」かわぐちかいじ「空母いぶき 7」
今西祐一郎「死を想え 『九相詩』と『一休骸骨』」岡野玲子「陰陽師 玉手匣 7」林望「習近平の中国」
文月悠光他「小辞譚」吉本ばなな「毎日っていいな」読売新聞生活部監修「ことばのしっぽ」
三宅乱丈「イムリ 21」中村桂子「小さき生きものたちの国で」ハロルド作石「7人のシェイクスピア 2」
恋田知子「異界へいざなう女」伊藤誠二「痛覚のふしぎ「」大平一枝「あの人の宝物」
竹内睦泰「古事記の邪馬台国」夜釣十六「楽園」みやぎシルバーネット+河出書房新社編集部編「シルバー川柳 一笑青春編」


小林敏明「夏目漱石と西田幾多郎」(2017年6月20日発行 岩波新書 840)は評伝。1867年生まれの夏目漱石と、1870年生まれの西田幾多郎というほぼ同世代の二人の人物の生い立ちから生涯の軌跡を時代背景やその精神性をふくめてつきあわせながら掘り下げて紹介解説した本。著者には「憂鬱なる漱石」「西田幾多郎の憂鬱」という著作があり、本書はそうしたこれまでの研究成果をふまえて行われた講演がもとになっているという。



吉見俊哉「大予言」(2017年4月19日発行 集英社新書 840)は社会学の立場から歴史の変化を知るための「尺度」を論じた本。第一章では約25年という尺度で歴史の変化をとらえる「25年単位説」が提唱され、第二章ではその人口学的な変化との関連が、第三章では経済循環との関連が論じられている。第四章ではさらに150年、500周期説との関連にもふれられていて、第五章は未来予測にあてられている。



ヤマザキマリ とり・みき「プリニウス 5」(2017年2月15日発行 新潮社 680)はコミック。古代ローマの博物学者プリニウス一行がローマ帝国の各地をめぐる冒険旅行を描いた歴史伝奇ものシリーズコミックの第五巻。今号の一行の旅程はスタピアから震災後のポンペイへ、さらにナポリに向けて出航後嵐に遭遇して火山島に漂着するまでが描かれている。ポンペイではトランプ似の行政官やヒラリー・クリントンに似た実業家も登場(連載執筆当時は米大統領選のさなかだったという)。



中島義道「明るく死ぬための哲学」(2017年6月25日発行 文藝春秋 1500)は哲学の論考。第一章「古稀を迎えて」で過去の回想や心境の吐露から始まる本書では、第二章「世界は実在しない」以降、著者が50年来考えつづけてきたという「死」をめぐる本格的な哲学的論述が展開されている。「私が死ぬとき、私はまったく新しい〈いま〉に直面するのではないのか。私が生きて概念を使う限り、私は否定としての「無」しかとらえられないが、死は否定的な「無」から離れ、完全に肯定的な「無」に突入することではないのか。」(第四章「私が死ぬということ」より)。



古川順弘「日本の神様図鑑」(2017年5月28日発行 青幻舎 1600)は日本の神々の解説書。記紀神話や民間伝承に登場する代表的な神々を、それぞれ簡明な解説とともにカワグチニラコ氏のイラスト入りで紹介した本。天つ神、国つ神、人が神格化された人神。仏教との習合神、さらには神社という形式をとらない地方の民間信仰の神々などが、項目別に紹介されている。民間信仰の神々の項目では七福神や庚申、荒神、道祖神、オシラサマ、ナマハゲ、ミシャグチやオシラサマなど、系統立ててイメージするのが難しいほどで、まさに多種多様。



森洋子「ブリューゲルの世界」(2017年4月15日発行 新潮社 1800)はブリューゲルの絵画についての解説書。16世紀の画家ブリューゲルの全作品41点を「生涯」「広場の世界」「聖書の世界」「農民の世界」「寓意画の世界」という5つの切り口で解説した本。「芸術新潮」2013年3月号の特集の「森洋子のブリューゲル特別講義」を再編集し、新たに書き下ろしを加えたという本で、なんといっても作品についての詳細な解説とともに画集といってもいいほど豊富に収録されている美麗なカラー図版がみて楽しい。



稲垣栄洋「怖くて眠れなくなる植物学」(2017年7月28日発行 PHP研究所 1400)は植物に関するコラム集。タイトルにひかれて図書館で借りだした本。「奇妙な植物」「毒のある植物」「恐ろしき植物の惑星」という三章だてで、34本の植物に関する面白コラムが収録されている。世界中でもっとも栽培され、人体の40パーセントトウモロコシでできているといわれるほど普及していながら、トウモロコシの起源や原産地は謎で、宇宙からきたのではという都市伝説さえある、という話が特に印象にのこった。



武村政春「生物はウィルスが進化させた」(2017年4月20日発行 講談社ブルーバックス 980)はウィルスについての解説書。ウィルスについての解説、とくに1992年に発見され2003年にミミウィルスと命名されたという巨大ウィルス群についての解説が中心で、著者はその分野の研究者で日本でのミミウィルスの発見者でもある。最終章「ゆらぐ生命観」では、細胞性生物の起源は太古のウィルスにあったのではないか、という著者の仮説が示されている。「巨大ウィルスの「美し亜」の右に出るものは、おそらく生物の世界にも存在しない」(おわりにより)



小川順子「和歌のアルバム 藤原俊成 詠む・編む・変える」(2017年4月14日発行 平凡社 1000)は国文学の評論。「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」というプロジェクトから生まれた成果を発信するという平凡社のブックレット「書物をひらく」の一冊。藤原俊成が自作の和歌に手を入れつづけた経緯を成立の時系列にそって「久安百首」「長秋詠集」「俊成歌集」とたどり、その変更の意味合いを検証する。俊成の自讃歌「夕されば野辺の秋風身にしみて鶉鳴くなり深草の里」についてのエピソードがあとがきにあり、これも興味深く読んだ。



野網摩利子「漱石の読み方『明暗』と漢籍」(2016年12月16日発行 平凡社 1000)は国文学の論考。「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」というプロジェクトから生まれた成果を発信するという平凡社のブックレット「書物をひらく」の一冊。漱石の小説『明暗』で主要登場人物たちの親の世代が貸借したとされている漢籍『明詩別裁』『呉梅村詩』の内容をその小説内のエピソードを含めて吟味することで、小説世界の展開に漢詩の世界が編み込まれた新たな作品空間がが浮かびあがってくることを示した文芸評論。



かわぐちかいじ「空母いぶき 7」(2017年8月2日発行 小学館 552)はコミック。もし尖閣諸島に中国軍が上陸し占拠したら、日本政府はどんな対応をして、どんな事態が進展するのだろうか。というあり得なくもなさそうな仮想の現実世界をリアルに描写しているシリーズものの軍事コミック。この巻では、日本政府が尖閣諸島を占拠した中国側に、もし撤退しなければ24時間後に攻撃すると通告してからの緊迫した時間の推移が描かれている。



今西祐一郎「死を想え 『九相詩』と『一休骸骨』」(2016年12月16日発行 平凡社 1000)は国文学の論考。これまで一部の研究者にしか活用されてこなかった近代以前の古典資料が広くインターネットで公開されるようになってきた。そういう流れを推進している「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」というプロジェクトから生まれた成果を発信するという平凡社のブックレット「書物をひらく」の一冊。人の死体が朽ちていく様子を絵にそえた漢詩や和歌で伝えた「九相詩」と、絵入り物語として伝えた「一休骸骨」の関連が論じられていて、多数挿入されている図版がとても興味深い。



岡野玲子「陰陽師 玉手匣 7」(2017年8月5日発行 白泉社 990)はコミック。「陰陽師」のサイドストーリーといもいうべき「玉手匣」シリーズは、この巻で足かけ7年の連載をへて完結。安倍晴明も加わった大江山の鬼退治と女盗賊とその恋人のラブストーリーがからまりあい、この巻では天女伝説なども登場して、めでたく大団円をむかえる。「玉手匣」の蓋は閉じぬようにしておきます、と著者あとがきにあるので、また別の物語が楽しめるのを期待しよう。



林望「習近平の中国」(2017年5月29日発行 岩波新書 820)はルポルタージュ。朝日新聞社の元北京特派員による4年半の任期をふりかえっての中国ルポ。対外政策、国内問題、共産党と党大会、習近平と中国につきつけられている今後の課題、というふうに章別に論じられている。島旅行に携えて行った本だが、旅行中はほとんど読む時間がなかった。本書で「先富論」から「共同富裕」へといった政治的なスローガンの流れなどはじめてしった。



文月文月悠光他「小辞譚」(2017年4月1日発行 猿江商會 1600)は小説のアンソロジー。大修館書店発行の「辞書のほん」に2013年から2014年にかけて連載された辞書にまつわる短編小説10編が収録されている。執筆者は文月悠光、澤西祐典、小林恭二、中川大地、三遊亭白鳥、藤谷文子、木村衣有子、加藤ジャンプ、小林紀晴、藤谷治。青春小説から伝奇物、SF小説までジャンルはさまざま。主人公の性別が最初の印象と異なり、途中で気がつくということがいくつかの作品であって、これはどういうことだろうと考えさせられた。



吉本ばなな「毎日っていいな」(2017年2月10日発行・毎日新聞出版 1300)は、エッセイ集。毎日新聞日曜版「日曜くらぶ」に2015年10月4日から2016年9月25日にかけて連載されたエッセイ50編が収録されている。「楽しげなことだけ集めてみました」という著者の言葉が帯にある。おもに家族や友人、知人との関わりから生じたさまざまな体験が気配りの行き届いた肯定的な視線でいつくしむように語られている。短いエッセイ集でもこれだけの分量となるとちょっとした幸福論のおもむき。



読売新聞生活部監修「ことばのしっぽ」(2017年3月25日発行・中央公論社 1400)は、子どもの詩のアンソロジー。読売新聞日曜版の「こどもの詩」コーナーが今年2017年に50周年を迎えたことを記念して出版されたらしい投稿作品のアンソロジー。投稿者は中学三年生までの子ども、幼児の場合は親が代筆という募集要項のようだ。作品とともに、歴代の選者のコメントも合わせて楽しめる一冊。選者は山本和夫、川崎洋、長田弘、平田俊子の各氏。



三宅乱丈「イムリ 21」(2017年5月15日発行・KADOKAWA 650)は、コミック。月刊コミックビーム2016年12月号から2017年8月号に掲載された部分が収録されている。ルーンとマージという二つの惑星に暮らす3つの部族の紛争を描いたSFコミック。この巻では隔離施設から逃れてきた奴隷民イコルが原住民イムリと合流して「術」をまなびあい、支配民カーマからの襲撃にそなえる。



中村桂子「小さき生きものたちの国で」(2017年3月1日発行・青土社 1800)は小論、エッセイ集。第一部「生命と科学」には機械論的世界観から生命論的世界観への転換を提唱する小論5編が収録され、第二部「思慕と追想」と第三部「生活と視点」には、多田富雄、芝谷篤弘氏への追悼文や、当時10歳の少女だったという終戦時を追想するエッセイ、詩人まど・みちお氏へのオマージュなど、多彩な内容のエッセイが16編収録されている。



ハロルド作石「7人のシェイクスピア 2」(2017年7月6日発行・講談社 650)は、コミック。16世紀のロンドン郊外の住宅に同居するランス、ワース、リー、ミル、ケイン、アンの6人の仲間たちに本の行商人トマスを加えた7人の「シェイクスピア」合作チームの物語。仲間たちの協力を得て「ヴェニスの商人」の脚本を書き上げたランスはさっそくロンドンの二大劇団の座長に売り込みにでかけるのだが。この巻ではその売り込みの苦労が終始描かれている。



恋田知子「異界へいざなう女」(2017年4月14日発行・平凡社 1000)は物語論。日本中世の物語に登場する女性の果たす媒介者としての役割について考察した本。「異界へいざなう女」「源氏物語を供養する女」「嫁入り道具としての奈良絵本」「尼と絵巻」の4章からなる。あとがきに旧著「仏と女の室町 物語草子論」(2008)や既発表論文をもとに大幅に書き改めた、とある。近年古典籍がネットで公開されるようになったことをうけての研究成果を提供するという平凡社ブックレット(書物をひらく)シリーズの一冊で、本書でも絵巻等の図版が多数挿入されているのが特徴だ。



伊藤誠二「痛覚のふしぎ」(2017年3月20日発行・講談社ブルーバックス 920)は、痛覚のメカニズムについての解説書。外部からの刺激によって「痛み」がなぜ起きて、どのような伝達経路をたどって脳で「痛み」として認識されるのか、といった疑問について、生化学、分子生物学の立場から、分子のレベルで解説した本。トウガラシの主成分カプサイシンの受容体が熱による痛みの受容体であることが判明した、という近年の興味深い発見についての解説ほか、最先端の「痛み」についての知見がわかりやくす解説されている。



大平一枝「あの人の宝物」(2017年4月16日発行・誠文堂新光社 1600)はインタヴュー集。イラストレーター、翻訳家、工芸店の経営者、料理家、デザイナー、書家、書評家、、、といった様々な職種の人々16人に、大切にしている「宝物」について語ってもらうという企画で、その取材の様子が取材現場のカラー写真(撮影・本多康司)とともに収録されている。正確にはインタヴュー集というよりも、そのときの「宝物」にまつわる会話をふくめて、ご当人の半生を紹介し文章化した人物探訪エッセイ集という感じで、さまざまな人生模様が伝わってくる味わい深い一冊。



竹内睦泰「古事記の邪馬台国」(2017年3月20日発行・河出書房新社 926)は、古事記と邪馬台国の関係を伝承から解説した本。著者は第73世武内宿禰で、極秘口伝「正統竹内文書」の伝承者としての観点から、古事記の記述では隠されているという口伝内容の一端を明らかにしていく。いわゆる邪馬台国の所在地については、口伝によれば最初九州の日向にあったが、神武東征によって近畿に移動したのだという。また卑弥呼(日巫女)とは祭祀王の呼称で何代にもわたって存在したという。内容もそうだがこういう口伝が伝承されてきたこと自体に驚かされたのだった。



夜釣十六「楽園」(2017年4月20日発行・筑摩書房 1200)は小説。30歳になる橘圭太は会ったことのない母方の祖父から「おまえに引き継いでもらいたいものがある」という文面の葉書を受け取り、なにを貰えるのかと期待して炭鉱跡の廃村に独居している祖父に会いにいく。はたして引き継いでほしいものとは祖父が育てている月下美人という植物だった。圭太は帰ろうとするが強引にひきとめられ、なりゆきで夜ごと祖父の戦時中の話をきかされることになるのだったが。「記憶の継承」がテーマという、第32回太宰治賞受賞作品。



みやぎシルバーネット+河出書房新社編集部編「シルバー川柳 一笑青春編」(2017年3月20日発行・河出書房新社 926)は、川柳のアンソロジー。川柳アンソロジーはときどき図書館の新刊書コーナーでみかけるたびに借りているが、中でもこのシリーズは第七弾。「みやぎシルバーネット」誌と河出書房新社編集部に投稿された60代から70代の人々の作品、177句が収録されている。「うっかりと弔辞に感動つい拍手」「夜勤明け帰るナースの美しさ」「病床の老妻(つま)の目線に花飾る」などなど。