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走り書き「新刊」読書メモ(63)


ここでは、比較的最近出版された本についての短い感想を載せています。
(例外のやや古い本には☆印をつけました)。
時々、追加してゆく予定です。


index・更新順(2014.12.6~2015.3.14)

多和田葉子「献灯使」九井諒子「ダンジョン飯 1」谷口ジロー「千年の翼、百年の夢」
奥田祥子「男性漂流」楊逸(ヤンイー)「中国ことわざばなし 古為今用」三浦佑之「日本霊異記の世界」
苧阪満里子「もの忘れの脳科学」ヤマザキマリ+とり・みき「プリニウス 2」大石まさる「ライプニッツ」
西村賢太「下手(したて)に居丈高」石原慎太郎「エゴの力」NHK出版編「サラリーマン川柳 よくばり」
中沢新一「惑星の風景」黒田硫黄「アップルシード α 1」藤岡換太郎「海はどうしてできたのか」
西村賢太「一私小説書きの独語」浦沢直樹「MASTERキートン Reマスター」布施英利「「進撃の巨人」と解剖学」
堺屋太一「団塊の秋」飯野亮一「居酒屋の誕生」ヤマザキマリ「スティーブ・ジョブズ 1
白井明大「日本の七十二候を楽しむ」椎名誠「埠頭三角暗闇市場」石平+加瀬英明「ここまで違う日本と中国」
宮田珠己「いい感じの石ころを拾いに」椎名誠「酔うために地球はぐるぐるまわってる」ニール・シュービン「あなたのなかの宇宙」
坂本龍一+鈴木邦男「愛国者の憂鬱」佐々木マキ「ノー・シューズ」ポプラ社編集部「シルバー川柳4 あの世より近い気がする宇宙行き」


多和田葉子「献灯使」(2014年10月30日発行・講談社 1600)は小説集。近未来の日本を舞台にした表題作のほか、「韋駄天どこまでも」「不死の島」「彼岸」といった短編小説、戯曲「動物たちのバベル」が収録されている。中では、なんといっても本書の半分ほどの頁数を占める中編小説である表題作が読み応えがある。大災厄に見舞われたのちの近未来の日本では、「鎖国状態」になっていて、老人は百歳を越えても健康で、逆に先天的に極度に病弱な子供しか生まれなくなっていた。そんな世界のなかで老人義郎は曾孫の「無名」という名の子供を育てていた。。。比喩を多用した詩的な文章やフレーズが魅力で、SF小説というよりファンタジーの味わい。



九井諒子「ダンジョン飯 1」(2015年1月27日発行・KADOKAWA 620)はコミック。地底の王国の奥に住むドラゴンの守る財宝をめざして、探索に赴く冒険者たち。というダンジョン型RPGの設定をそのままコミック化したような作品だが、冒険者たちのパーティが探索途中で遭遇したモンスターをしとめたあと、どんなふうに調理して食べるか、というのが各話のテーマになっている空想ゲテモノ料理コミック。七話分収録されていて、登場するのは大サソリの水炊き、人食い植物のタルト、ローストバジリスク、マンドレイクのオムレツなどなど。



谷口ジロー「千年の翼、百年の夢」(2015年2月25日発行・小学館 552)はコミック。単身パリを訪れた日本人漫画家が、ルーブル美術館で「ルーブルの守り人」という不思議な女性(サモトラケのミケの化身)と知り合う。その後、漫画家がルーブルを訪れるたびに彼女に導かれるように過去の時空に誘われ、コローや浅井忠、ゴッホなど、所蔵されている美術品にまつわる様々な人々と出会うという、幻想的な体験を描いた叙情性豊かなファンタジーコミック。いつもながら端正な絵柄の魅力が充溢している連作集で、外国人のファンにも受けそうだ。



奥田祥子「男性漂流」(2015年1月20日発行・講談社α新書 880)はルポルタージュ。副題に「男たちは何におびえているか」とあり、結婚や育児、更年期障害、リストラ、介護、老い、など、様々な悩みに対面した男性たちの事例がテーマ別に紹介されている。一人の男性について数年から10年という長期間にわたって取材を続けた「定点観測ルポ」が多数収録されているのが大きな特徴で、時と共に「問題」がどんなふうに変化していったのかという時間の要素が入ることで、取材対象となった個々人のとりかえのきかない人世の軌跡としても読み応えがあり、かつ現代社会についてのリアルなルポになっているのだった。



楊逸(ヤンイー)「中国ことわざばなし 古為今用」(2014年9月3日発行・清流出版 1600)はエッセイ。著者は日本在住27年という小説作家。初出は「月刊清流」2011年5月号から2014年4月号。中国のことわざ60題について、それぞれの出典や意味について解説をほどこしたエッセイが収録されている。収録されている漢字4文字からなることわざのほとんど全てが初見という感じで新鮮な内容だった。ただこれらの言葉が「古為今用」(昔人の知恵を、今に生かす)という意味で、日本語の文脈の中でも「ことわざ」として浸透するかとなると、かなりむつかしそうだ。



三浦佑之「日本霊異記の世界」(2010年2月10日発行・角川選書 1500)は「日本霊異記」の解説書。初出は角川ウェブマガジン。9世紀初頭に景戒という修行僧によって編まれたという仏教説話集「日本霊異記」(「日本国現報善悪霊異記」)に収録されている説話の数々を、「小さ子とトリックスター」「一寸法師の源流」「力持ちの女」というふうにテーマ別に8講に分けて紹介解説した本。著者の興味の中心は、仏教説話としての考察ということより、「説話が描き出す八世紀あるいはそれ以前の人びとの生き生きとしたすがたである。」(まえがき)とあるように多面的で、引用箇所も現代語訳で紹介されているので読みやすく面白い。



苧阪満里子「もの忘れの脳科学」(2014年7月20日発行・ブルーバックス 800)は認知心理学の解説啓蒙書。「これからの行動に必要な内容を、一時的にこころの中にとどめておく記憶」は「ワーキングメモリ」という概念で捉えられているという。本書はこのワーキングメモリの仕組みや、老化による「物忘れ」との関連を、様々な心理テストの測定結果を紹介しながら解説した本。記憶のしくみに迫る内容は難しいが興味深い。加齢によって記憶そのものがそこなわれるのではなく、何かを処理しながら記憶を保持するワーキングメモリの働きが徐々に低下する、とある。



ヤマザキマリ+とり・みき「プリニウス 2」(2015年2月15日発行・新潮社 660)はコミック。初出は「新潮45」2014年8月号から2015年2月号。古代ローマ時代ネロの帝政期に生きた博物学者プリニウス(西暦22・23から79年)の生涯を描いた「歴史伝奇ロマン」コミックの第二巻。実際にはネロとプリニウスとの関係を記した資料は残されていないというので、内容は全くのフィクション。二人の漫画家による作画・内容も共同制作という試みが面白い。



大石まさる「ライプニッツ」(2015年1月9日発行・少年画報社 800)はSFコミック。初出は月刊ヤングキングアワーズ2014年4月号から10月号に掲載。時は近未来。木星の惑星エウロパの調査中に事故死した両親の遺児天野新菜(ニーナ)は、事故から十九年後、念願がかない再度のエウロパ調査隊のチームに海洋生物学者として参加することになった。しかしチームにはエウロパに先着している国際機関UNSAの送りこんだ妨害工作員も潜入していて波乱の探査行となる。エウロパの探索をテーマにしたSFコミックで、タイトルはニーナの怪しい飼猫の名前。主人公の名前やキャラから、つい「星屑ニーナ」を連想してしまった。



西村賢太「下手(したて)に居丈高」(2014年9月30日発行・徳間書店 1200)はエッセイ集。初出は「週刊アサヒ芸能」2012年11月15日号から2014年4月3日号。毎日夜11時頃から執筆にとりかかり、5時間ほど執筆に専念したのち、軽食をとりながらの晩酌を欠かさず、朝方就寝、昼過ぎに起き出して片付けを済ませた後入浴をかかさない、というパターンを日課とされているらしい。そういう典型的な夜型の独身小説家の生活スタイルの詳細が、趣味嗜好や交友記録など様々なテーマで書かれているエッセイのはしばしから、包み隠さずという感じで伝わってくる。



石原慎太郎「エゴの力」(2014年10月30日発行・幻冬舎新書 780)はエッセイ集。自己中心主義、自己中心癖として否定的に捉えられやすいエゴ(エゴイズム)という言葉を、著者は「個性に裏打ちされた自我(の力)」ととらえ、それを伸ばす方法は、好きなことに打ち込むことで感性を磨く他ない、と指摘する。古今東西の偉人のエピソードや、自らの懐古的体験談を交えて「エゴ」の重要性を説いた人生論風エッセイ集。



NHK出版編「サラリーマン川柳 よくばり」(2014年6月20日発行・NHK出版 950)は川柳傑作選。第一生命が毎年公募しているサラリーマン川柳の第二十七回分の中から、ベストテンや選者やくみつる、やすみりえ氏選の作品を収録した川柳傑作シリーズ。「失敗に「いいよいいよ」の目が怖い」「ゆるキャラと言われてやめるダイエット」などなど。人気投票一位は「うちの嫁後ろ姿はフナッシー」フナッシーの意味がわからないとわからない。ネットでみると船橋市非公認のゆるキャラの名前だった。



中沢新一「惑星の風景」(2014年4月10日発行・青土社 2200)は対談集。対話者は、クロード・レヴィ=ストロース、ミシェル・セール、ブルーノ・ラトゥール、吉本隆明、河合隼雄、河合俊雄、養老孟司、中村桂子、管啓次郎、細野晴臣、杉浦日向子、藤森照信の各氏。「今日の時点からみても語りあっている内容がまったく古びていないと思われるものだけを精選して、一冊に編んでみた」(あとがき)、というだけあって、すでに物故された方も多く含まれる多彩な顔ぶれで、読み応え充分。巻頭に「野生の科学または新構造主義」という著者へのインタヴューも収録されている。



黒田硫黄「アップルシード α 1」(2015年1月16日発行・講談社 720)はコミック。士郎正宗の「アップルシード」の原作第一巻をベースにアレンジした映画「アップルシードα」のスピンオフ作品で、シリーズの第一巻。212X年、第五次非核戦争後の荒廃した世界。元SWATのデュナンとサイボーグのブレアレオスは漂泊の末辿り着いたNY市で傭兵としての勧誘を受けることになる。原作とひと味違う絵柄が新鮮。映画も1月17日から全国公開中で、4DXシステムを装備した映画館では座席が上下左右に動いたり、風が吹いたり、フラッシュが光ったりと、新しい映像体験が楽しめるという。みてみたいなあ。



藤岡換太郎「海はどうしてできたのか」(2013年2月20日発行・ブルーバックス 820)は海と地球の歴史の解説書。地球の誕生から今に至る46億年の歴史を一年にみたてた「地球カレンダー」に沿って、海洋の発生とその進化を中心に、ドラマチックな地球史の変貌を分かりやすく解説していく。カレンダーでは海洋の誕生は2月9日で、2月25日の生命の誕生を経て5月31日の酸素の発生に至る。地球環境と生物との関わりでいうと、この6月31日のドラマがとりわけ興味深い。シアノバクテリアの光合成という生物の営みが海や大気の組成も激変させてしまったのだった。



西村賢太「一私小説書きの独語」(2014年6月30日発行・角川書店 1600)は随想集。著者の第三随筆集で第二随筆集『一日』以降、2014年中までに雑誌に発表された短文・随想が収録されている、とある。映画化された「苦役列車」評で、主人公がコミュニケーション障害のように描かれている点に苦言を呈しているところが、著者の作中人物像の自解となっていて興味深く読んだ。主人公の矜持の立脚点は、唯一その「江戸っ子意識」にあり、主人公が周囲の顔色を窺ったり人なつっこく振る舞うのは、十代半ばで世に出た少年の処世術である、映画ではそうした原作主人公の心の機微がまったく描かれていない、というのだった。



浦沢直樹「MASTERキートン Reマスター」(2014年12月3日発行・小学館 1300)はコミック。初出は「ビッグコミックオリジナル」で、全18巻刊行されているシリーズの続編にあたる。日英のハーフである主人公、平賀=キートン・太一が、毎回、探偵として世界各地におもむいて事件を解決するという一話完結のシリーズもの。キートンは、オックスフォード大学卒で、ロイズ保険組合の調査員をしていた過去があり、英国陸軍に入隊し、SASでサバイバル教官を務めたり、考古学の素養があるなど、博識で文武両道に通じたインテリという設定。原案は長崎尚志で、実際に起きた世界の紛争などに題材がとられていることが多い。



布施英利「「進撃の巨人」と解剖学」(2014年11月20日発行・講談社ブルーバックス 900)は美術解剖学の解説書。コミック「進撃の巨人」に登場する「筋肉の巨人」の描写を例示しながら、人体の筋肉や骨格の基本的な部位の名称や機能と構造を美術解剖学の視点から解説した本。あるいみコミックの人気にあやかった一種の便乗本といえるのかもしれないが、迫力ある巨人の形姿が描かれたコミックのコマの転載が多数挿入されていて、楽しく学べる、という感じの本。ブルーバックスのシリーズ本としてはちょっと異色かもしれない。



堺屋太一「団塊の秋」(2013年11月20日発行・祥伝社 1700)は小説。著者は「団塊の世代」という言葉を造語したことで有名。かって学生時代に同じ海外旅行ツアーに参加したことがきっかけで知り合い、以後数年ごとに同窓会をひらくようになった団塊の世代の男女9人。彼らのその後の消息を2028年の近未来に至るまで描くことで、日本経済や社会の未来予測を含めたこの世代の人々の人生のさまざまな軌跡を綴った社会・経済小説。全六話のそれぞれの冒頭にはその時点で発行された新聞記事が新聞紙面からの転載の体裁で掲載されている。たとえば六話ではその日付は2028年7月30日になっていて一瞬ぎょっとさせられるのだった。



飯野亮一「居酒屋の誕生」(2014年8月10日発行・ちくま学芸文庫 1200)は江戸期の居酒屋の文化誌。なんとかの誕生、という書籍のタイトルがいっとき流行したことがあったが、本書は江戸時代の寛政年間に生まれたという居酒屋の歴史を、日記、川柳、随筆、書簡など各種資料を駆使して掘り起こした本。居酒屋という言葉は、酒屋が店頭でだしていた酒をのむことを意味する「居酒」という言葉に由来するというのを初めて知った。物流や法律、営業時間や客層からメニューに至るまで江戸時代の居酒屋情報が満載で図版も多く楽しめる一冊。本書は文庫本ながら書き下ろしで、単行本だけを注意していると見過ごしてしまう類の本なのだった。



ヤマザキマリ「スティーブ・ジョブズ 1」(2013年8月12日発行・講談社 619)はコミック。原作はウォルター・アイザックソンの評伝で、初出は雑誌「Kiss」(連載中)。アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズ(1955-2011)の伝記(公式自伝)を、「テルマエロマエ」の作者がコミック化したシリーズの第一巻。原作の伝記はジョブスの依頼を受けて書かれ、100人以上の関係者へのインタヴューに基づいているというが、そうした証言場面がそのまま生かされている。それにしてもジョブス氏はききしにまさる唯我独尊の人だったようだ。



白井明大「日本の七十二候を楽しむ」(2012年3月2日発行・東邦出版 1600)は七十二候の解説書。旧暦で使われていた季節区分の言葉、二十四節気と、七十二候のそれぞれを解説し、その時節に関連した旬の食材や年中行事などを、カラーイラスト入りで紹介した豆知識の集成という感じの本。有賀一広氏の淡彩のイラストがどの頁にも満載で、読みやすく、目にも優しい解説書となっている。現代のカレンダーにも二十四節気の記載のあるものはあるが、七十二候となると目に触れる機会さえあまりない。こういう解説書は嬉しい。



椎名誠「埠頭三角暗闇市場」(2014年5月20日発行・河出書房新社 1600)は長編SF小説。初出は「小説現代」に2010年3月号から2012年7月号にかけて連載。舞台は近未来の日本。「大破壊」を経て中国の属国と化した日本のトーキョーの湾岸地区で、生体融合手術を行う「あぶない開業医」の北山のもとに、頭皮にメデューサのようにミドリヘビを移植して欲しいという謎めいた美女が訪れる。奇想満載の軽快なサイバーパンク風SFだが、「中国によって「宗教と崇拝の権利」を取り上げられてしまったので、日本は日本人としての誇りを完全に崩壊させてしまった」というフレーズが、この著者の言葉として妙に新鮮。



石平+加瀬英明「ここまで違う日本と中国」(2010年7月10日発行・自由社 1500)は対談集。中国四川省生まれの評論家の石平氏と、「ブリタニカ国際大百科事典」初代編集長で著述家の加瀬氏の日中文化の比較談義。食文化の違いからはじまり、漢字と大和言葉、和歌と漢詩、公私についての考え方の差異など、さまざまな視点から日中文化の差異が話題にされている。むしろ欧米に近いとされる中国人の個人主義についての指摘が興味深い。「何々と思われるというような、表現はぜったいに使いません。中国では、かならず、「私が」そう思う、と言わなければなりません。」(石平)。



宮田珠己「いい感じの石ころを拾いに」(2014年5月20日発行・河出書房新社 1600)は紀行エッセイ集。初出は角川のウェブマガジンに連載されたもので、書き下ろし一編が加えられている。日本のあちこちの海辺に旅して、「なんてことのない石ころ」をひろう。そういう「石拾い紀行」エッセイや同好の士との対談が収録されている。石のコレクターは多いらしく、「東京ミネラルショー」という展示即売会も紹介されていた。石のカラー図版も多数挿入されていて目にも楽しい一冊。



椎名誠「酔うために地球はぐるぐるまわってる」(2014年5月22日発行・講談社 1400)はエッセイ集。週刊誌や月刊誌に連載された酒をテーマにしたエッセイの集成。著作が240冊に及ぶという著者の初めての酒をテーマにしたエッセイ集。世界各地の辺境地域を旅行したおりの飲酒体験記、英国のシングルモルトウィスキーの蒸留所をめぐったシリーズエッセイ、著者自筆のイラスト入りのビールをテーマにした1頁コラムシリーズなど、面白酒談義づくしの一冊で、とくに1頁コラムは著者の文章術のエッセンスが詰まっている感じだ。



ニール・シュービン「あなたのなかの宇宙」(2014年7月20日発行・早川書房 2400)は科学の啓蒙書。宇宙の進化や太陽系の形成、地球上での生物の発生と進化などに関するさまざまな科学トピックが、項目別にわかりやすく解説されている本で、異なる専門分野を自在に横断するこなれた文章は、ちょっとカール・せーガンの世界に似ている。水のもつ特殊な性質と人体との関わりを説いた第三章「幸福な星たち」では、人類の祖先が水中生活をしていた27億年の歴史の痕跡が、体の様々な器官に残されていることに触れられていて、そこでは三木成夫を思い出した。



坂本龍一+鈴木邦男「愛国者の憂鬱」(2014年2月10日発行・金曜日 1400)は対談集。「週刊金曜日」誌に初出。対談のきっかけは官邸前の脱原発デモで、編集者がその場で初対面だったお二人をひきあわせた、ということのようだ。坂本氏は原子力政策の非倫理性という一点だけでも共有できればいいと、対談を引き受けたという(はじめにより)。冒頭の脱原発、日の丸や君が代についての話題の他、坂本氏の出演映画やテレビドラマ「八重の桜」のことなど、うち解けた雰囲気で話が弾んでいる。



佐々木マキ「ノー・シューズ」(2014年5月26日発行・亜紀書房 1700)は一コママンガ入りの自伝的エッセイ集。1989年に筑摩書房から刊行された著者のエッセイ集「僕のスクラップ・スクリーン」の再録(第三章)に、書き下ろしエッセイ集や、一コママンガシリーズを加えた、増補版的エッセイ集。やはり子供時代の追憶が中心に綴られた第三章が秀逸で、復刻版のかたちで読めたのは嬉しい。青年期以降の思い出を綴った書き下ろしの第一章では、「ガロ」の青林堂社主の長井勝一氏をはじめ、勝又進、楠勝平氏などとの交流が描かれていて、名前や絵柄が思い出されて懐かしく読んだ。



ポプラ社編集部「シルバー川柳4 あの世より近い気がする宇宙行き」(2014年9月10日発行・ポプラ社 1000)は川柳のアンソロジー。公益社団法人全国有料老人ホーム協会が主催、毎年公募している「シルバー川柳」の、第14回(2014年度)応募作品1万1370句の中から入選作を含め88句を収録した川柳アンソロジーで、シリーズ第四弾。図書館の新刊コーナーでみかけると大抵借りるので、このシリーズ本は以前もとりあげたことがある。「遺産分け位牌受け取る人はなし」「補聴器をはめた途端に嫁、無口」など、なんとも痛切だなあと。