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走り書き「新刊」読書メモ(60)


ここでは、比較的最近出版された本についての短い感想を載せています。
(例外のやや古い本には☆印をつけました)。
時々、追加してゆく予定です。


index・更新順(2014.2.1~2014.5.10)

湯浅学「ボブ・ディラン」北川智子「異国のヴィジョン」山田昌弘「なぜ日本は若者に冷酷なのか」
やなせたかし「わたしが正義について語るなら」岡田尊司「回避性愛着障害」岡田温司「黙示録」
トニ・モリスン「ホーム」上野千鶴子「ニッポンが変わる、女が変える」諸星大二郎「夢見村にて」
岩淵潤子「ヴァチカンの正体」鈴木謙介「ウェブ社会のゆくえ」諸星大二郎「遠い世界」
小川洋子+クラフト・エヴィング商會「注文の多い注文書」山口博「大麻と古代日本の神々」内田樹+中田考「一神教と国家」
里見桂「ゼロ ゴッホの解放」元木幸一「笑うフェルメールと微笑むモナ・リザ」木下長宏「ミケランジェロ」
三浦篤「名画に隠された「二重の謎」」尾崎彰宏「ゴッホが挑んだ「魂の描き方」」四方田犬彦「日本の漫画への感謝」
小原慎司「地球戦争 3」張真晟「金王朝「御用詩人」の告白──わが謀略の日々」花森安治「花森安治 灯をともす言葉」
西村賢太「一私小説書きの日乗 憤怒の章」小林よしのり「女性天皇の時代」上野千鶴子「〈おんな〉の思想」
高麗寛紀「よくわかる微生物学の基本としくみ」ベアルト・ブルンナー「水族館の歴史」福島聡「星屑ニーナ 4」




湯浅学「ボブ・ディラン」(2013年11月20日発行・岩波新書 760)は評伝。アメリカのミュージシャン、ボブ・ディランの半世紀以上にわたる音楽活動の足跡を丁寧に辿った評伝。1970年代前後の記述は良く聴いたアルバムやミュージシャンやバンドの名前が登場してなつかしく読んだ。その後も一貫して持続され、21世紀に入ってから再び「黄金時代」を迎えているという旺盛な音楽活動についてははほとんど知らなかったので、「この年(1988年)から現在に至るまで、ボブは年に80〜120回のステージを毎年欠かさずつづけている。」という記載には驚いた。



北川智子「異国のヴィジョン」(2013年6月30日発行・新潮社 1300)はエッセイ。体裁は著者がアムステルダム、ボン、ウィーン、パリ、ミラノ、といったヨーロッパの諸都市をめぐったときの見聞体験を綴った旅行エッセイだが、そのおりおりにカナダのコロンビア大学での留学体験や、ハーバード大学で「日本史」の教鞭をとった時の追想が綴られていて、本書の特色はむしろその追想にこめられた「世界史としての日本史」の可能性についての考察にある。グローバルな環境で生きざるを得ない次世代の人々の歴史認識はこんなふうにかわっていくのかもしれない。



山田昌弘「なぜ日本は若者に冷酷なのか」(2013年12月5日発行・東洋経済新聞社 1500)は社会批評集。「週刊東京経済」に2009年から2012年にかけて連載された評論ほかを収録した評論集。家族の変容、格差社会、経済停滞の原因、といった様々な側面から現代の日本社会の問題点が指摘されている。著者は「家族社会学」が専門で、「パラサイト・シングル」や「婚活」という言葉を造語したことでも知られる。未婚化・老人虐待・社会保障など様々な問題が「戦後から高度成長期に日本に普及した家族モデルが、限界を迎えている」ことから生じているという分析は、とても説得力があって刺激的だ。30代前半の未婚率は男性47.3%、女性34.5%(2010年国勢調査) 離婚確率は、36%という。



やなせたかし「わたしが正義について語るなら」(2013年11月5日発行・ポプラ新書 780)はエッセイ。児童向けに刊行された『未来のおとなへ語る わたしが正義について語るなら』(ポプラ社)を内容を変えないまま編集しなおして新書化したという本。著者(1919-2013)は漫画家、放送作家で「詩とメルヘン」の創刊者、責任編集者としても活躍された人。とくに幼児向け絵本から始まって大ヒットした「アンパンマン」の作者として有名。本書はインタヴューに応える談話という形式で、「正義」についての著者の考えや、そういう考え方をするに至った自らの戦争体験をふくむ半生が平易に語られている。「逆転しない正義は献身と愛です。」



岡田尊司「回避性愛着障害」(2013年12月20日発行・光文社新書 840)は回避型の性格類型についての本。他人との親密な関係を避けたり、結婚や子育てを回避しようとする傾向は、いわゆる回避性パーソナリティ(消極的な性格)という枠を越えて、社会に広がっている。その背景には、根底に、愛着が希薄な「回避型愛着スタイル」の浸透がある、と著者は言う。「われわれの身には、かって存在した人類から、別の”種”へと分枝していると言えるほどの、生物学的変化が生じているのである。」(「はじめに」より)



岡田温司「黙示録」(2014年2月20日発行・岩波新書 840)は黙示録の解説書。西欧文化に多大な影響を与えてきた新約聖書の「ヨハネの黙示録」について、多面的に考察、解説した本。3章までの前半では、旧約聖書や外典・偽典などとのテキストの比較や、黙示録的文献の歴史の考察が、また6章までの後半では、黙示録に登場する「太陽を身にまとう女」や「バビロンの大淫婦」といった女性像、アンチキリスト、カタストロフの様相などを、各時代に描かれた図像を参照しつつ、それらのイメージが、どのように解釈、受容されてきたのかが紹介されている。黙示録的なテーマをとりあげた数多くの映画作品にも触れられているのが楽しい。



トニ・モリスン「ホーム」(2014年1月25日発行・早川書房 2400)は小説。朝鮮戦争に従軍したフランクは、戦地で同郷の親友二人を失い、深いトラウマをかかえた退役軍人として虚ろな日々を送っていた。そんな彼のもとに故郷の町ジョージア州ロータスから便りが届く。幼い頃から面倒をみてきた4歳年下の最愛の妹が病の床にあるというのだ。グレイトハウンドバスや長距離列車をのりついで、フランクは故郷への長い旅路をたどるのだが。著者はピューリッツァー賞(1987)、ノーベル文学賞(1993)の受賞作家。2012年に発表された本書は10作目の長編小説という。



上野千鶴子「ニッポンが変わる、女が変える」(2013年10月10日発行・中央公論新社 1500)は対談集。初出は「婦人公論」(2012年5月号から2013年5月号にかけて断続連載)。著者が3,11の後、日本の進路について意見を聞いてみたいと思ったという、12名の女性との対話が収録されている。対談相手は、高村薫(作家)、瀬戸内寂聴(作家)、永井愛(劇作家)、国谷裕子(キャスター)、田中眞紀子(政治家)、辛淑玉(コンサルタント)、浜矩子(経済学者)、加藤陽子(歴史学者)、中西準子(環境リスク学者)、林文子(横浜市長)、澤地久枝(作家)、石牟礼道子(作家)。



諸星大二郎「夢見村にて」(2014年2月24日発行・集英社 800)はコミック。「妖怪ハンター 稗田のの生徒たち(1)」と副題があり、この巻は考古学者で「妖怪ハンター」のニックネームでしられる稗田礼二郎の生徒、天木薫と妹美加や、大島潮、小島渚、といった学生たちの活躍する「夢見村にて」「悪魚の海」の二作品が収録されている。二作品とも「ウルトラジャンプ」2010年12月号から2013年3月号にかけて連載されたもので、収録にあたって加筆修正されたとある。夢を売り買いする風習のある山村や、海女で生計をたてている入り江の漁村、といった僻地の集落を舞台に民俗学のフィールドワークに訪れた学生達が奇想天外な体験をする。いずれも連載をまとめた中編作品を、一挙によめるのが嬉しい。



岩淵潤子「ヴァチカンの正体」(2014年1月24日発行・KADOKAWA 650)はヴァチカンについての解説書。ローマ教皇庁の統治する、カトリック教会、東方典礼カトリック教会の総本山ヴァチカンの歴史や、その内部機構を解説し、とくに、グローバルなメディアとしての知の戦略という側面に光を当てながら多面的に考察した本。ヴァチカンが宗教改革という時代の転換期をどう乗り越えたか、という分析を通じて「日本人が少しでも前向きに未来を切り開いていくための参考にできれば」というのが、本書の意図である、と終章にある。



鈴木謙介「ウェブ社会のゆくえ」(2013年8月30日発行・NHKブックス 1000)は社会評論。物理空間にソーシャルメディアなどを介して情報空間の関係性が入り込んでくること、そうした現実空間に情報の出入りする穴が幾つも開いている状態を、著者は「現実の多孔化」と呼ぶ。本書は、「第一部」で、このようなウェブ社会特有の「多孔化した空間」における他者とのパーソナルな関係の変容を、「第二部」では、公共性、共同性、といった社会的な関係の変化の様相を、それぞれさまざまな角度から社会学的に考察した本。



諸星大二郎「遠い世界」(2014年1月1日発行・小学館 1429)はSFコミック。諸星大二郎特選集として刊行されている著者自選の短編集(全三巻)の第三巻。1977年から1980年にかけて雑誌に掲載された11編の作品と書き下ろしの短編2作品が収録されている。なかでは、荒れ地の続く奇妙な惑星を舞台に、点在する村落を辿って旅する男を旅行記風に描いた表題作「遠い世界」が、5編からなる連作形式で、これは長編作品のように味わえる。また、ブッシュマンと異星生物との交流を描いて、なんともいえない余韻を残す「ダオナン」は傑作。



小川洋子+クラフト・エヴィング商會「注文の多い注文書」(2014年1月25日発行・筑摩書房 1600)は小説。初出は3編が「webちくま」、2編が書き下ろし。5作の短編小説が収録されているが、いずれも様々な人物がクラフト・エヴィング商會に捜し物を依頼するというストーリーで、それぞれが「注文書」「納品書」「受領書」という章分けになっていて、その「注文書」「受領書」の部分を小川が、「納品書」の部分をクラフト・エヴィング商會(吉田浩美、吉田篤弘による制作ユニット)が、執筆したことが記されている。商會が探し当てた物品の画像も収録されている、という面白い趣向の作品集。



山口博「大麻と古代日本の神々」(2014年3月24日発行・宝島社新書 762)は日本古代史についての論考。記紀の天岩屋戸の段に幣を作った神として登場する忌部氏の先祖の神「天日鷲神(あめのひわしのかみ)」。著者はこの神の名がなぜ木綿、織布、麻作りなのに鳥(鷲)なのかに注目し、様々な文献の探索や日本やアジアの関連地域の調査から、当時古代祭祀を司った忌部氏こそ、薬物性大麻を栽培使用していた北方ユーラシアのシャーマンの流れをくむ人々ではなかったかと推理していく。鷲の名はアルタイ系シャーマンの鳥スタイルからきているというのだ。



里見桂「ゼロ ゴッホの解放」(2005年8月9日発行・集英社 590)はコミック。原作は愛英史。「スーパージャンプ」誌に1990年から2011年にかけて連載された全78巻に及ぶシリーズ漫画で、本書は、そのうち傑作選「ゼロ Masterpiece Collection」として単行本化された5巻のうちの一冊。主人公は超人的な創作技術をもつゼロと呼ばれる贋作師。高額の報酬と引き替えに美術品や工芸品などの贋作の依頼を引き受けるのを仕事としている。このコミック、主人公ゼロが世界をまたにかけて活躍するので「美術界のゴルゴ13」と呼ばれているという(^^)。毎回趣向をこらした多彩なテーマを楽しめて、一話完結のストーリーなので短時間で読みきれるのも嬉しい。



元木幸一「笑うフェルメールと微笑むモナ・リザ」(2012年1 0月6日発行・小学館101ビジュアル新書 1100)は美術批評。「笑顔」や「笑い」をテーマにした西欧美術史。初期の肖像画には笑顔が描かれていなかったが、ルネッサンスに至って微笑が「「高貴」な女性の付加価値となった」から、「モナ・リザ」のような肖像画が描かれるようになった、というのは面白い。フェルメールをはじめとする17世紀オランダの風俗画にみられる多彩な笑いの解説のほか、グロテスクなな笑いや、笑いを誘うだまし絵などの紹介も。このシリーズ、やはりカラー図版が美しいのが印象的。



木下長宏「ミケランジェロ」(2013年9月25日発行・中公新書 880)は美術批評。ルネサンスの巨匠ミケランジェロの生涯をたどりながら、「ピエタ」「ダヴィデ」「天地創造」「最後の審判」など数々の彫刻や絵画作品を精緻に読み解いた熱のこもった美術批評。彫刻家や画家としての業績だけでなく、詩人や建築家としての側面も紹介されていて、興味深く読んだ。著者のミケランジェロ像は「「混沌(カオス)」を生きようとした芸術家」というもの。「世界や宇宙の秩序」(コスモス)を探求したレオナルドとの対比から本書ははじまっている。



三浦篤「名画に隠された「二重の謎」」(2012年1 2月8日発行・小学館101ビジュアル新書 1100)は美術批評。最近の一般向け美術書は刺激的な本が少なくなった。それなら自分で読みたくなるような本を書いてみようと思いたったのが、本書の成立のきっかけである、と美術史家である著者のあとがきにある。本書は絵画を詳細に観察してその絵に隠されている謎をとく、という推理小説仕立ての趣向で、マネやアングル、クールベ、ドガ、ボナール、マティスなど9人の西欧近代の画家の絵画について問題の発見とその解釈が試みられている。この新書シリーズ、なんといっても多数の収録カラー図版が美しいので、ミニサイズながら絵をみる楽しみがみたされて嬉しい。



尾崎彰宏「ゴッホが挑んだ「魂の描き方」」(2013年4月6日発行・小学館101ビジュアル新書 1100)は美術批評。ゴッホに彼が敬愛していたという17世紀の画家レンブラントが与えた影響というテーマを中心に、それぞれの画家の絵画やその生涯を解説した美術批評。ゴッホの日本趣味や、レンブラントの自画像の系譜など、美しいカラー図版を対照しながら読み進められるのが嬉しい。著者はネーデルラント美術をを中心とした西欧美術史の専門家と略歴欄あり、とくにレンブラントの作品についての詳細な解説は読み応えがあった。



四方田犬彦「日本の漫画への感謝」(2013年11月20日発行・潮出版社 2200)は漫画家とその作品についての評論文集。1953年生まれの著者が「小学生、中学生時代に愛読した日本の漫画への情熱を綴ったもの」と後書きにある。初出は「潮」や「朝日ジャーナル」「ユリイカ」などの雑誌。収録されている作家は、手塚治虫、石森正太郎、横山光輝、水木しげる、など著名作家のほか、杉浦茂、上田としこ、わちさんぺい、前谷惟光、益子かつみ、伊東あきお、大友朗、平田弘史など総勢26人に及ぶ。著者の年齢はほぼ私に重なるので、前谷惟光の「ロボット三等兵」や、関谷ひさしの「ストップ!にいちゃん」など、懐かしいタイトルに出会って記憶が蘇り、楽しく読んだ。ちばてつや氏との対談も収録されている。



小原慎司「地球戦争 3」(2014年2月4日発行・小学館 552)はコミック。19世紀のおわり頃、火星から来たといわれる巨大な機械が、世界各地で人類を襲った。英国の孤児院で育った少年オリバーは仲間たちや知り合った貴族の娘アリスとともに逃避行を重ねるが、混乱に乗じて大英帝国乗っ取りを企む大商人グレイグと出会い、反発しながらも彼の指導者としての魅力にひかれていく。地球が火星人に襲われたという混乱した状況のなかで、たくましく生きぬこうとするオリバーを中心にした孤児たちからなる少年少女グループ。登場人物たちの関係心理や葛藤の描写に重点がおかれているのが特徴というかんじのシリーズものSFコミックの第三巻(「月刊スピリッツ」連載中)。



張真晟「金王朝「御用詩人」の告白──わが謀略の日々」(2013年10月10日発行・角川書店 1500)は手記。著者は北朝鮮の対南政策を主導する謀略機関、統一戦線事業部に勤務し、「金朝実録」の編纂や、金正日を称える叙事詩を書いて評価され「将軍様の接見者」となったという経歴をもつ人で、2004年に脱北し、現在は韓国在住という。北朝鮮の政治中枢にいた人物の語る金正日統治時代の政治組織の内情も興味深いが、窮乏にあえぐ一般庶民の実状や緊迫した脱北時の状況描写のほか、日本人拉致問題に関する情報など盛り沢山な内容になっている。



花森安治「花森安治 灯をともす言葉」(2013年7月30日発行・河出書房新社 1300)は発言集。戦後「暮らしの手帖」を創刊し、執筆取材、誌面構成から装幀まで手がけ、生涯にわたって編集長を務めた花森安治(1911-1978)の言葉を、「新聞、雑誌、書籍に掲載された執筆文、対談記事より編集・抜粋したもの」、と巻末に記されている。「美について」「この国について」「私たちの暮らしについて」などテーマ別にまとめられ、どの文も行分け詩のように分かち書きで編集されているのが新鮮だ。暮らしと美、消費社会批判、右傾化批判など内容は多彩。「暮らしと結びついた美しさが、/ ほんとうの美しさだ。」「物を売りながら/それを捨てて/新しく 買わせることばかりを/考えているのは/たれなのか」



西村賢太「一私小説書きの日乗 憤怒の章」(2013年12月31日発行・角川書店 1600)は日記。初出は「本の話WEB」「小説野生時代」(連載中)で、2012年5月28日から、2013年5月20日までの記録が収録されている。毎日何時に起床し、入浴し、どこに外出して誰それに会い、何を飲食して就寝したか、ということが淡々と綴られている。「苦役列車」が映画化されていたこと、この時期、著者が週に一度テレビ番組にレギュラー出演していたことなど、はじめてしった。食事に関する記述が詳細で、健啖家ぶりにおどろかされる。



小林よしのり「女性天皇の時代」(2013年8月20日発行・ベスト新書 762)は女性天皇の時代の解説書。推古天皇、皇極天皇、斉明天皇、持統天皇、元明天皇、元正天皇、孝謙天皇、称徳天皇、明正天皇、後桜町天皇と、8代10人の女性天皇の時代をふりかえり、その業績や時代背景を解説した本。現在の皇室典範では皇太子が不在になる、という皇室存続への危機意識があり、法改正の動きがあった。その際の、皇位継承は男系男子のみ、という主張への反駁と歴史を通してみた女帝擁護が本書の大きなテーマとなっている。



上野千鶴子「〈おんな〉の思想」(2013年6月30日発行・集英社 1500)は書評集。著者がこれまでの読書体験から、「力を得た本、それからわたしの血となり肉となった本を選び抜いて論じた」という本で、とりあげられているのは、森崎和恵「第三の性」、石牟礼道子「苦界浄土」、田中美津「いのちの女たちへ」、富岡多恵子「藤の衣に麻の衾」、水田宗子「物語と反物語の風景」、ミッシェル・フーコー「性の歴史1 知への意志」、エドワード・サイード「オリエンタリズム」、イヴ・セジウィック「男同士の絆」、ジョーン・スコット「ジェンダーと歴史学」、ガヤトリ・スピヴァク「サバルタンは語ることができるか」、ジュディス・バトラー「ジェンダー・トラブル」。初出は「すばる」と「集英社インターーナショナルのWebサイトで、熱のこもった知と書物への誘いとなっている。



高麗寛紀「よくわかる微生物学の基本としくみ」(2013年11月6日発行・秀和システム 1600)は微生物学の解説書。秀和システムの「図解入門メディカルサイエンスシリーズ」の一冊で、横書き、多数の図版入りで微生物学の基礎知識が解説されている。内容は「最新の微生物の分類、同定方法、生態学、微生物感染症、耐性菌の発生メカニズム、微生物制御、微生物利用に加えてウィルス学までの入門書としてやさしく解説しました」(はじめにより)と多岐にわたる。微生物への漠たる関心があって、図書館で借りてみた本。32億年前に光合成細菌(シアノバクテリア)が誕生し、その働きで大気中の酸素濃度が現在と同じになり、地上に降り注ぐ紫外線を激減させるオゾン層が形成されたのが20億年前という。いってみれば「自然」と呼んでいる地球環境は生物の業がうみだしたのだった。本書は授業や試験向けという体裁のシリーズ本で、そういうロマンとはあまり関係ないのだったが。



ベアルト・ブルンナー「水族館の歴史」(2013年9月10日発行・白水社 2200)は水族館、アクアリウムの文化史。タイトルには「水族館の歴史」とあるが、ドイツ語の原題は「海はどのように家へやってきたか」で、19世紀に誕生した公開型のアクアリウムである水族館が登場するのは本書後半から。前半は、その前史にあたるアクアリウムの発展史が解説されていて、これが面白い。熱帯魚マニアやミニチュア、ジオラマ好きの人だったら、こうした人類の趣味の文化史に親近感を覚えると思う。欧米の歴史だけでなく、日本の江戸期の金魚の飼育文化などにもふれられている。



福島聡「星屑ニーナ 4」(2014年1月24日発行・KADOKAWA 650)はSFコミック。捨てられていたロボットが、女子高生ニーナに拾われ、星屑と名前をつけられて育てられる。最初はこの二人の冒険物語かと思いきや、ニーナは伴侶を得て結婚し天寿を全うして亡くなってしまう。一人残された星屑は新しい主人ルイと出会い、このルイとポポの夫婦も、一人娘ピッピを残して死んでしまい、というように中盤からまったく先の読めない展開で大いに楽しませてくれたこのシリーズコミックも本巻が完結編。次々と主要人物が死んでしまう、という世代をこえた構想力に驚かされていたが、「次回どうなるか全然わからない」で書き継がれていた(「あとがきにかえて」)とあって、なるほどと(^^)。