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 10月の14、15日、kokoさんの運転する車で一泊二日で乗鞍高原に遊んだ。なんとなく高原に行きたいと思い、そう口にだしたのが8月頃で、それからなぜか乗鞍高原にきまった。なぜだかというのは、たぶんネットで検索していて、なんとなくきまったという感じだからだ。私は乗鞍(岳)という言葉から、子供の頃見た「鉄人28号」という漫画を思い出したので、懐かしいのでそこでももいいね、などと口にしたのだと思う。kokoさんは、乗鞍エコーラインという道路を通って乗鞍岳の山頂付近まで行けるということと、そこで撮影されたとおぼしきすばらしい眺望の風景写真が気に入ったらしい。ネットで調べているうちに「ウィンズ」というペンションのサイトに行き当たり、そこが充実していていろんな関連情報がわかった。

 その後kokoさんは自宅で幾つもの宿泊施設の情報を比較検討したらしいが、最終的にその「ウィンズ」がよさそうというのでそうしようということになった。私もざっと見たが、夜に天体望遠鏡で星空を見せて貰えるというサービスが面白そうだ。そこでドライブウェイの見晴らしと、高原の星空がそれぞれ頭にあったので、願わくば旅行に行くのは紅葉シーズンのうちでも晴れた日が望ましいということが条件になった。11月はじめ頃に雪が降るとエコーラインは通行止めになってしまうのだ。旅行には都合で日曜日と月曜日を使うので、出かけられる日は限られている。予定していた一週目は悪天候で見送り、次週がだめなら諦めようということにしていたが、10月の半ば、たぶんその日が晴れそうだ、という時点でペンションに予約を入れたのだった。



 東京多摩地方からだと八王子インターから中央高速に入り松本インターで降りる。そこから国道158をひたすら50分ほどいくつかのトンネルを抜けながら走ると乗鞍高原につくが、その間ずっとゆるやかな登りの坂道だ。それもそのはず乗鞍高原は標高1000メートルを越える地域。周囲の山々の紅葉を見ながら乗鞍高原に到着、サイトでおすすめの蕎麦屋「おくどはん」が街道沿いあったので、そこでもりそばを食べてからこれもサイトに掲載してあった地図のコピーをみつつペンション「ウィンズ」に到着した。

 チェックインまで時間があるので宿に荷物だけ置かせて貰い、再度車で乗鞍エコーラインに向かう。天気予報では晴マークなのに実際は薄曇りというよくある日だったのだが、明日の天候はさらにわからない、ということで時間もあるし今日中に行くことにした。


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 乗鞍高原から曲がりくねったドライブウェイの坂道をどんどん登って行くと、周囲の紅葉はすでに終わっていて、ダケカンバの裸木がちょっと荒んだ枝振りを晒しているのが目につく。

 さらに登ると、植物層はほぼハイマツだけになる。そうこうみとれているうちについに畳平というところについた。駐車場横の食堂で休憩してコーヒーを飲む。さらにここから徒歩で10分くらい登ると標高2749メートルという「魔王岳」の山頂に行けることを、駐車場の標示で初めて知ったというていたらくだが、みると大勢の観光客がぞろぞろ山に向かう階段を登っていくのでそれにならった。


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 「魔王岳」とはなんとも雰囲気のある名前だが、山頂は瓦礫とハイマツに被われた荒涼としたはげ山という感じだ。


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さすがに周囲の眺望はすばらしい。日も照ってきて山の稜線沿いに雲がたなびくのもいい感じだ。槍ヶ岳なども見えるが、私はブリューゲルの絵みたいなゆるやかな起伏の一帯の風景がことに気に入った。


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ハイマツが風に震えている。そのむきだしの根っこのような幹がにぶい銀色にひかっている。

 畳平からは一時間半ほどで標高3026メートルという剣ガ峰山頂にも行けるらしいが、もちろんそれはパスして下山したのだった。

 エコーラインを下って乗鞍高原まで帰り着いたが、まだチェックインまで時間があるので地図でみつけた「善五郎の滝」というのに行ってみることにした。街道沿いの駐車場に車をとめて、白樺中心の雑木林の中へと続く小径にわけいる。ちょうど紅葉のさかりで落ち葉を踏みながら散歩。すこし歩くと程なく滝にでた。小滝にしてはかなり幅があって味のある景観だ。


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 興味をひかれて立て札の由来を読むと、魚釣りをしていた善五郎というひとが滝壺に落ちて溺れかけたのでその名前がついたとあった。ううむ。


 滝から戻ると、まだ時間があったので街道沿いにある観光センター横の温泉「湯けむり館」に入った。


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 ここは宿ではなくて、ただ入浴するだけの施設だが、乗鞍高原では一番有名な感じ。硫黄泉で最初は鼻をつく臭いに戸惑うほどだがすぐ慣れてしまう。露天風呂もあるので紅葉の山々を見ながら気持ちよく汗を流す。湯上がりに休憩室でアルトという地ビールを飲んだがこれが美味い。もうここからは宿まで至近。


 ペンションについてチエックインをすませると、さすがにほどなく夕食の時間になった。夕食メニューは食前酒(安曇野産ワイン)、コンソメスープ、自家製サーモンと野菜のオードブル、魚のグリル、ステーキなど。別に赤のグラスワインを飲んで、いい気持ちになりリビングルームのほうに移動する。そこにはなんとインターネットに常時接続されたiMacが置いてあって、泊まり客が自由に使えるようになっている。また、その付近の壁にはカメラが設置してあって、これに映った映像が一分単位で切り替わって、このペンションのホームページ上に表示される、という趣向なのだった。


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リビングルームの一隅。このペンションにはきれいなキルトのクッションや壁掛けが沢山。隅にあるのはオーナー自作の真空管のアンプという。夜は女性ジャズボーカルのBGMが静かに流れていた。

 カメラが向いているのは、ちょうどiMacの前あたりの室内で、マックで遊んでいるとその姿が映し出されるという仕組み。私はここで若井弾丸さんのホームページ「悔い悔い」の掲示板「ネグレクトクラブ」に書き込んだり、kokoさんはアップル社のサイトのiToolsというサービスを使って共通の友人にメールを出したりしたのだが、そんなことをごちゃごちゃやっている小一時間ほどの間、私たちの画像が全世界にむけて(^^;、映し出されていたのだった。なおこのことは面白いが恥ずかしくもあるので掲示板には書かなかったのだった。

 しばらく遊んで落ち着いたころ、宿のオーナーが庭で火を焚きますかと声をかけてくれた。庭には小さな東屋のような建物があって、その中央に炉がつくってある。その周囲の椅子に腰掛けて太い桜材の薪を燃やして立ち上る焔を眺める、という趣向なのだった。私はきわめていい加減にしかこのペンションのホームページをみてなかったので、なにも知らず最初驚いたが、面白そうなので火を焚いてもらうことにした。夜も更けて夜気は肌寒いが、皮ジャンを着こんで暗闇のなかでゆらゆら燃える焔を見ているとなんだかユングやバシュラールを思い出してしまいそうな瞑想的な気分だ。


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水割りを一杯つくってもらって、なんとも幻想に誘われそうな一時をうたうたと過ごす(写真はフラッシュを焚いているので明るいが、実際は周囲は闇)。


 リビングルームに戻り、コーヒーを注文。サイフォンでいれてくれたオーナーこだわりのモカを楽しむ。またしばらくして、宿のオーナーが天体望遠鏡で星を見せてくれるという。このことは前述したようにホームページで知っていてひそかに楽しみにしてはいたのだが、天候しだいのことなのでやはり実現して嬉しい。私たちの他に同宿の女性の方がこのスターウォッチングに参加。オーナーはライトで夜空を照らしながら夏の大三角形や天の川や星座の位置などを示し解説してくれる。また20センチシュミットカセグレンという本格的天体望遠鏡をセットして丸みのある赤らんだ火星の姿や白鳥座のくちばしの部分に輝くアルビレオ(オレンジ色と青色の二重星)などを見せてくれた。あのあたりの星が見えないところにブラックホールがあるなどと教えてもらったのは楽しかった。じっと空を見ていたら星が流れた。十分に一度くらい肉眼で見られるという。




 翌朝、リビングルームのガラス戸ごしに見える庭の草むらに一面の霜がおりていた。今朝は零下2度だと教えられ、さすが高地だなと思う。自家製ジャム、自家製ソーセージとサラダつきのトースト、コーヒーの朝食がおいしい。チェックアウトをすませペンション「ウィンズ」に別れを告げ、また街道沿いの駐車場に車をとめて、紅葉の森の中の散歩道、その名も「白樺の小径」を散歩する。


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 快晴なので、紅葉がとくに美しい。


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 白樺の梢に残る枯葉は見上げると青空に金箔を散らしたように輝いている。それにひっそりとした森の静けさが気持ちがいい。


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音といえば落ち葉を踏む靴音ばかりがいつまでも響く。


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 起伏にとんだ散歩道を辿り一ノ瀬牧場にでて、今度は整備されたサイクリング道路を通って駐車場にもどり、車を移動して次は番所大滝というのを見る。この滝への道は急な階段を谷底に下りてゆくような感じ。


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番所大滝は、名前どおり、かなりスケールが大きく見応えがある。


 崖にきざまれた階段を登るのにややくたびれて車まで戻り、昼近くなったので昨日行った「おくどはん」を再訪。そこで「おくどはん御膳」というのを食べる。これはもりそばと、にじますの唐揚げやきのこのあえものなど前菜のセット。温泉前の駐車場に戻って、今日は別の無料温泉「やすらぎの湯」に入りたいというkokoさんと別行動。街道沿いをぶらぶらして喫茶店「ひこーき雲」でコーヒーを飲み、kokoさんと駐車場でおちあって乗鞍高原をあとにしたのだった。(おしまい)



(こぼればなし)。乗鞍岳という地名を覚えたのは小学生の頃に読んだ横山光輝の「鉄人28号」という漫画。たしか乗鞍岳山中の地下秘密基地に格納されているロボット鉄人28号をめぐって、村雨兄弟率いるギャング団と正太郎少年や警部たちとの争奪戦があって、おりしも基地に落雷が落ちて目覚めてしまった鉄人が暴れ出すというようなストーリーではなかったか(いいかげん)。乗鞍岳ってすごそうなところだなあ、とそれ以来地名だけをしっかと覚えてしまったのだった。


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 kokoさんの愛車。この車ではじめて遠出してみるという目的もあった。



○文中登場する関連サイト

ウィンズ お世話になったペンションのホームページ。すごく充実しているので、私たちがどんな環境で旅行を楽しんだか一目瞭然。
アップルのiTools このiCardsというサービスをつかうとどこからでも簡単に写真入りメールがだせるので便利。
悔い悔い 若井弾丸さんの詩のホームページ。


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