暑い夏の日でしたね。
あの手この手を使って、ようやく可愛いあなたを誘い出したのは、
8月も半ばを過ぎた頃でした。
なのに、
それなのに、僕の野暮なイタリア製のマッキナ(車)は
エアコンが殆ど効かない上に、
暑さにめっぽう弱くて、とてもあなたを乗せる事等出来なかったのです。
嘘をついて、親父の車を借り出しました。

横浜へ向かう首都高速の車中で、
渋滞に巻き込まれ、話題が尽きてしまった時の焦りといったら……。
だから僕は、あなたの好きだと言った曲を、黙ってかけました。
そんな具合でしたから、山下公園から乗った
90分間の港湾内観光船のデッキでは、カセットテープも無くて、
話が途切れると、彼方に浮かぶ雲を見つめていました。
夕方、夏の長い日に助けられて、僕達は明るいうちに
山手のドルフィンへ辿り尽きました。
思いのほか会話がはずんだのは、
店の雰囲気に助けられたのでしょう。
帰り道、港の見える丘公園で、あなたは2度つぶやきました。
「カップルばっかりだね。」
そして、そばにいた誰かの声を、僕が何かつぶやいたのと勘違いして、
「え?」と突然聞きかえしたりしたのでした。
僕があなたに合わせて「なんでもない。」と言い返したのを
あなたはとても聞きたがりましたね。
僕は心の中で「好きだ」と言っていたのです。

あなたに見せたい場所がいっぱいあって、
帰り道はますます遠く、遅くなっていきました。
そして最後に埠頭へ渡る橋の上に車を止めたのです。
丁度その頃開催されていた、博覧会の夜景が、夢の様に広がっていましたね。
そして隣に立つあなたの髪が揺れたのに気付いて、あなたを見た時でした。
「あっ、流れ星。」
あなたが空を見上げたのでした。
僕は、野暮なイタリア車等捨て去って、
夏でもあなたを乗せて走る事の出来る車にしよう、と考えていました。

あなたが消えたのは、夏でも走れる車に換えてしばらくしてからでした。
僕は今、あの日とは違うマッキナに乗っています。
でも、今度は夏でも走れて、エアコンも効く車です。
あの流れ星を見た日に、あなたの「え?」という問いかけや
「カップルばっかりだね。」という言葉に応えられなかったのは、
あなたが、あの1日をしぶしぶ承諾してくれた様に見えたからでしたが、
それはいつまでも後悔の源泉です。

夏の終わらないうちに「今度こそ」の車に乗って
あなたが好きだと言った彩恵津子の「Reach Out」を聞きながら
あの埠頭へ渡る橋へ、流れ星を見に行こうと思っています。
あなたの居た遠い日の様に、夜景は綺麗な筈は無いけれど、
流れ星もきっと流れないけれど、
きっとそこから、何かが見つかる様な気がするのです。