卒業式でしたね。
僕達卒業生は、演出された通り、
式の終わった体育館から列になって出て行きました。
外にはあなた達、見送りの下級生達が並んでいました。
その中からあなたが、独り走り出て来て、
僕に、数本の小さな赤い薔薇の花束をくれたのでした。

なんのことはない、
僕の所属していた美術部の後輩達が、
部の卒業生それぞれに、花束を用意してくれていたのです。
でも、その瞬間、僕は急にあなたがとても愛しくなりました。
「部活をやっていた特権だね。」僕はつい、そう言ったけど、
ほとんどの卒業生が唯、歩いて行くだけなのに、
花束をもらったのはちょっとした優越感にも似た所があって、
微笑が止まりませんでした。
そういえば、部活の最後の日、ジュースで乾杯しながら
やはり三年生それぞれに贈り物をくれた時、
僕に贈り物を手渡してくれたのは、やっぱりあなたでした。
あなたは、油絵の塾にも通っていて、
僕なんかよりもずっと油絵具に手慣れた感じだったのに、
僕の指摘する事にもいちいち真剣にうなづいて、
だからと言って媚びる訳でもなく、
本当に絵画についての話が出来るのはあなただけかもしれないと、
そんな風に思ったのでした。
だから数年後、
何気なく見た新聞の美大の合格者欄にあなたの名前を見つけた時、
僕は、自分の夢をあなたが叶えてくれた様な、
そんな錯覚迄起こしてしまったのでした。

あの卒業式の後、僕達は長い時間……、
本当に長い時間、喫茶店で話し込みましたっけ。
懐かしさと淋しさ、離れて行く事の惜しみが重なって、
いつまでも話がつきませんでした。
だから夜の駅であなたと別れた時、
僕がどれだけ淋しかったか。

あなたの薔薇が枯れずにいたのは、
ほんの短い日数でした。
でも、あなたが最後の部活でくれたポプリは、
今でも微かに香ります。
それは枯れる事の無い想い出なのでしょうか。
そんな香りに、ふと切ない気持ちになる癖がついたのは、
あなたのせいなのかもしれません。