「Ripple」7月号 P14  





Lily Chou-Chou
リリイ・シュシュに仕掛けられたワナ

インターネット上で語られる、物語。リリイ・シュシュという名の不思議な歌手をとりまくファンとエーテルと呼ばれる精神世界観。
リリイとは一体誰なのか。



 リリイ・シュシュという名前の歌手を御存じだろうか?彼女は、一部に熱狂的なファンを持つ、カリスマ的な歌手である。彼女は今日迄に、既に3枚のアルバムと、3枚のシングルをリリースしている。しかし、現在たった1枚、今年の4月19日に発売された「グライド」というMaxi Singleを除いて、それらのディスクを目にすることは無い。それは何故か・・・。彼女はインターネットの世界にのみ存在する歌手だったからだ・・・。少なくとも今迄は・・・。

 映像作家岩井俊二が新たに仕掛けた企画がインターネット小説「リリイ・シュシュのすべて」だ。しかもこれは単なるインターネット小説ではない。BBS小説。つまりインターネット上の掲示板で語られる小説なのだ。
 岩井俊二がシナリオに沿って、BBS上で登場人物の会話を始める・・・。そこへ本来は傍観者である筈の一般の読み手もエキストラとして書き込む・・・。物語は架空と現実を彷徨いながら進んで行く(註: 一般の書き込みは5月で終了した)・・・。
 前述の「グライド」以外のディスクが店頭に並んでいないのは、そこ迄は物語上の架空の設定だからである。
 「グライド」リリイ・シュシュという架空の歌手を現実世界へ引っ張り出した第一弾なのである。プロデュースは小林武史。リリイとなるのは、Salyuという歌手である。そしてその第二段が6月21日にリリースされる「共鳴」だ。
 「グライド」にしろ、「共鳴」にしろ、その楽曲は今迄の何にも似ていない。リリイが物語上で語る精神世界観、"エーテル"を正に実感しているかのような気になって来る。物語上の存在であった筈のリリイに引き込まれてしまう。
 これは、リリイ・シュシュという名前を持ったワナである。我々がリリイを現実世界に引きずり出したのか、それとも我々の方が引き込まれているのか・・・。
 僕にはどうしても、後者に思えてならない。しかし、それがこれ程心地よいものなら、そのワナにじっとはまってやろう。そう思うのである。

(川山康志)


「リリイ・シュシュのすべて」
http://www.lily-chou-chou.com