朝、代々木の、会場についたら、カメラとガンマイクが、最初に目に付いた。
「何かの撮影をしているのか」と思ったらもう、そこには岩井さんもいて映画の撮影
をしていたことにまずびっくり。なぜびっくりかって?当たり前なんだけど監督が普通に近づける距離にいたこと。
私は高校からずっと憧れの監督だったから、それをみて、一人ハイテンションになっ
た。
どんなシーンを撮ったとかはあえてあまり言わないけど、初日の代々木は晴れててよ
かった。暖かかったし。
班に分かれて班長などをきめたり、役の紙を配られたり、監督はエキストラにも気
を使うマメな人だと感心した。
いざ撮影が始って思ったことは、監督はとてもよく動く人だってこと。
モニターを見た後スススっと役者の近くに寄ってきて、的確な指示をだして、またス
ススっと戻る。
イメージ的に岩井監督くらい売れてる方だと、私達が見えないようなところから指
示を出して終わりだと思ってた。
今思うと、そんなことありえないんだけど、最初はそうだろうと思い込んでた。
だから余計に監督を凄く近くに感じて、撮影を近くに感じた。
エキストラを一般募集をするくらいだから人の列とかのシーンを撮ったんだけど、人って動くと難しいね。
撮影するのに動いてる列を撮るのって難しいんだと、ほんっとうに感心した。流動的
な絵を撮ることがいかに難しいか、角度を変えて撮ってるとしても、テイク30ぐらいの番号を聞いたらその難しさは伝わると思う。
エキストラって私等の普通の人じゃ、なかなかする機会は滅多にないんだけど、やっぱりエキストラも一人の演技をする人なんだよね。
監督がどのような絵がとりたいのか、皆がすぐに読取ったり会話から想像したりして、なんとか要望に答えられるように、いかに行動できるか、本当はそんなことを考えながらしなきゃいけなかったんじゃないかって思うようになった。
初日とかはカメラに写った?とか、きゃー岩井さんが横を通ったよー。とかそんなことしか考えてなかったけど、でも二日めの最後に撮ったシーンとか、そのときには皆がそういう意識は凄くあったと思う。
雨の中だったけど、ちっとも寒くなかったし、反対になんかその逆境というか、雨がテンションをあげてくれたって感じで、その日の撮影が終わって「では今回の撮影はこれで終わりです」って岩井さんが言った時のみんなの拍手がすっげー感動的だった。
今ふと思ったんだけど、こんなシーンを撮るんだとか、こういう話だとか、ネット
で小説を見て知ることができたから、一般の人をエキストラで応募しても、話についていけた人が多かったんじゃないかって思った。
だってもし、ネットで小説を公開してなかったら、最初にこのようなシーンを撮り
ますっていくら言ったところで、どんな話かもわからないし、何をしてるかも判らなければ、個人で動くにも動けないって状態だったんじゃないかって思った。
もちろん小説を見てない人も話の内容も全然知らない人たちはいっぱいいたと思うけど、少なからず10人以上のエキストラの人たちは小説を読んでたと思う。それだけでも、意識が全然違ってたんじゃないかなって。何の意識かはうまく説明できないし、そんなエキストラに何ができるんだって感じだけど、やっぱり脚本を知ってると知らないとじゃ、何か違うよね。きっと。
そんなことを考えると、リリイのインターネットノベルと、リリイの映画のエキストラ一般募集って、すっごい繋がりがあったんじゃないかって、思った。
何かに真剣に取り組んでいる監督は凄いカッコよかった。もちろん、監督だけでなく
スタッフ一丸となってたのもステキだった。
そんな姿をみて最近ここまでマジに何かをすることが無くなった腐った自分の心が、
嫌になって眠ってた熱い感情が心の奥から出てきた気がした。
エキストラ・・・。こんなに自分にとっていい経験になるとは思わなかった。
岩井監督やスタッフの方々、心から感謝しています。ありがとうございました。
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■la_qu
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会社の仕事を終えて、急いで代々木の第一体育館に向かう。午後6時・・・。もともと今回のエキストラの日程は抜ける事の出来ない仕事が入っていて、参加は諦めていた。しかし、夕方からの参加もOKという事で、急遽参加する事にしたのだった。
原宿の改札を出ながら、もう大半は撮り終えてしまっただろうかと不安な気持ちになる。
第一体育館に着くと、ちょうどこれからクライマックスシーンを撮る所だった。ほっとする。
リリイベリイのメンバーが僕の姿を見付けてくれて、同じグループを探してくれた。
エキストラ参加はなんだか夢の様な作業だった。映画の撮影現場を覗き見るという側面と物語の中の世界に入り込むという側面と・・・。日常の生活が遥か彼方に遠くなった。さっき迄の仕事の事等すっかり忘れていた。
気付くと、あのBBSで語られた世界の中で、「リリイ?何処だ?本当に居るのか!!?」等と叫んで居る自分がいた。
幸運だったのは、殺人事件が起こる小さな輪の中に、入っていた事だ。
物語の主人公が僕の斜前と斜後にいた。岩井監督がその場で役者に演技をつける所や、カメラの動き等を身近で見る事が出来た。
あの映像世界、岩井俊二ワールドがうまれる瞬間を目の当たりにして、僕はすごくワクワクしていた。
夜の空気も、光も、熱気、飛び交う言葉も、映像として切り取られる。
キーボードから生み出された言葉の羅列だった世界が、実像としてそこに生まれていた。
二日目は生憎の雨模様・・・。それでもテンションは変わらない。前日撮影分もあるから、整合性という面からも傘はさせない。小雨の中、テストを繰り返し、本番の時に雨が上がったのは、偶然でない様な気がしていた。
そんな状況だったから、撮影が総べて終了した時の歓喜の拍手がしばらく鳴り止まなかった。
4月1日、リリイホリックが始まった頃は、映画のエキストラに参加するなんて考えてもみなかった。あの頃リリイホリックで想像していた世界が目の前にある・・・。リリフィリア閉鎖の原因になった事件が目の前で起こる・・・。不思議な気分だった。
考えてみればリリイホリックでの僕は、この事件の後に入り込んだ新しいファンだった。だからリリフィリアが閉鎖されたこの日、僕はここに居なかった筈である。
僕はla_quであって、la_quではなかった。