マリーナの駐車場の防波堤から身を乗り出して、君は海の底を見つめていた。
「危ないよ。」
「綺麗だね。」
防波堤に打ち寄せる波の音は、砂浜に寄せる波の音よりも、少し唐突で、間が抜けている気がしていた。
「見てごらんよ。」
君の声に僕も身を乗り出すと、浅い海の底は、不思議な程軟らかく、セルリアン・ブルーに陽の光を変えて揺れていた。
少しづつ眼を上げて行くと、海の底はいつしか、薄れ、白い陽光を反射して波うつ水面に変わってゆく。どこからが海の底で、どこからが水面なのか、区別がつかない。

そう言えば、いつだったか、海の中を自由に泳ぎ回っている夢を見た事があった。海の中では苦しい筈なのに、いつまで潜っていても、苦しい感じがしなかった。
やはり比較的浅い場所で、陽の光が海の底迄、明るく届いていた。
僕がその海の中で見ていたのは、魚や海の生物ではなく、今日のこの海の底の様なセルリアン・ブルーと、海草だけだった。
不思議と海は自分の周囲だけで、遠い海底が広がっていた記憶は無く、まるで大きな潮溜りの中の様な雰囲気だったが、それはまぎれも無く、陸近い海の底だった。顔を水面に出すと、沖迄遠く、波が連なっていた。
暑くも無く、寒くも無く、唯々無性に心地良かった。

気が付くと君が微笑っていた。
君は波の彼方に視線を移すと、遠い水平線を見極めようとするかに見えた。
眼下の海の底には、もう興味を失ってしまった様だった。
僕はもう一度海の底から、波の彼方へ視線を動かして、もしかしたらあの日見た夢は、今日の事だったかと、考えていた。
君の傍らで、今の僕はこんなに心地よい。
海の底と波の彼方・・・遥かに遠い様だけれども、それは確かにつながっていて、境目なんて、きっと無い。
君と共有する視界の中なんだ。