MISSING LINK……切れたチェーンをつなぐ為に必要な、失われた最後の輪の事。そして、夢を叶える為に必要な人物、物。

横浜、元町から谷戸坂を駆け上がると、左手に港の見える丘公園、右折すると突き当たりが外人墓地である。
この外人墓地から、夕日に染まる富士山が美しく見える事を知ったのは、もう遠い日になってしまった。
外人墓地の突き当たりを道なりに、左へステアリングを切る。
この道を幾度走った事だろう。免許をとりたての学生の頃から、今隣に座る友人とよく走ったものだった。
山手の尾根を走るこの道は、気持ち良く緩やかに屈曲し始め、リズムの良いワインディング・ロードになる。洒落た住宅や、喫茶店の間から、遠く横浜の街が見え隠れしていた。
「この車でここに来るのは、何度目だ?」友人が聞いた。
「始めて……かな。」
赤信号でブレーキを踏むと、急に陽が傾いた様だった。オレンジ色の陽光と、信号のランプの思いがけない明るさで、夕暮れに気付いたのだった。

僕はあの学生時代の夢の様な日々を取り戻す為に、車を選んで来た。切ない位に楽しく、運転する事の楽しさを味わえ、フロント・ウインドウを流れる景色が、カーステレオからの音楽とシンクロする様な車を……。
信号が青に変わると同時に、僕はスモール・ランプを点けた。
メーターの目盛が赤く浮かび上がった。
そう・・・この車に替えてから、この場所へ来るのは初めてだった。
僕は車が替わる度、一度は必ずこの場所へ愛車となった車を持って来る。それは自分の想い出のつまった場所を車に教える作業でもあったし、又同時にその時その時の車で、必ずこの場所の想い出を作る為でもあった。
尾根の住宅街をリズミカルに曲がり、うねる道路の彼方に時折ちらちらと夜景が見え隠れしている。
「どうだい、この車は?」と彼は言った。
「そりゃ良いさ。惚れ込んで買ったんだ。」と僕は応える。
僕らは以前から車が好きで、色々な車雑誌を見ながら特有の「こだわり」を語り合った。
中でも、車の外観が気に入るかどうかは当たり前の話だが、重要な事の一つはインテリア、特にインパネ・デザインだ、というのは僕達の口癖でもあった。
インパネというのは乗っている間中顔を突き合わせていなければならない部分だからだ。それは決して機能性という面では無い。あくまで、心情的に気に入るかどうか-なのである。
そしてこの車は僕にとっては、その点からも最高の部類に入るものだった。

夕暮れの迫る山手を走りながら僕は、ある女性の事を考えていた。
彼女は僕の事をまるで意識していないが、僕は彼女に魅かれていた。
ここへきて、その想いはますます強くなっていた。
気持ちを伝える事で、彼女が目の前から消えてしまう事に恐れを感じながらも僕は、どうしようもなく愛し始めていた。
気に入ったインパネ、インテリアは「彼女を乗せたい」という事に帰結しているのかもしれなかった。
尾根の終わりで、シフト・ダウンすると、タコ・メーターの針が跳ね上がった。
ブレーキ・ランプを一瞬チョンと点けて、左へステアリングを切り、坂を下る。
坂の手前で、建物の隙間から、一瞬だけ幻の様に美しいコンビナートの夜景が見える。
「この車がお前にとってのミッシング・リンクなんだな・・・。」と黙ったままの僕に友人が言う。
「ああ、そうかも知れないね。」
そう応えながら、僕は気付いていた。
僕にとってのミッシング・リンクは車でも、この場所でもなく、彼女・・・。

You are the missing link that makes my dreams come true.

彼女なんだ。