2002年8月18日(日曜日)

退院前日。なぐさめのトレーニングにいそしむ

毎日、食べて寝てばかりいるせいか、なんだか、体が重い。ナニゲに廊下に備えられている体重計に乗ってみた。げげげっ! まじでスカ! なんと4キロ増! 人生最重量の数字に、クラクラと目まいをおぼえる。小錦や馬体重なら、誤差の範囲かもしれないが、身長151センチの私には、深刻な数字だ。右腕に埋め込まれたチタンと左腕のギプスを合わせて、4キロ(なはずねーじゃん)なのよ、きっと……。と自分に言い聞かせるが、丸々とした顔とドンと充実した下腹部が、それはまやかしだとささやいている。
落ち着かないので、談話コーナーでストレッチとキックの練習を始める。ナースステーションにいる看護婦さんたちが不審な顔で、こっちを見ているが、かまっちゃらんない。ひたすら蹴るべし、蹴るべし!
昼食の時間ドンピシャに、日本で一番有名なロボットアニメのクリエーターであるみざきが、「ベルサイユのばら」のフィギアとレディコミを携えて、徹夜明けの帰りに遠路わざわざやってきてくれた。食事はまだというみざきに、昼食のバナナを贈呈。聞けば、ほとんど会社に泊まり込みで、やっとオーラスを迎え、家に帰れるとのこと。ゆっくり寝てくれ、みざき。みざきが帰った後、レディコミを熟読。すげーエロいでやんの。しかし、わかりやすい男性のエロマンガに比べると、主人公が淫乱な自分をいちいち正当化するいいわけがましさが笑える。

明日はいよいよ退院だ。夕方もみが来てくれて、病室の掃除&整理をしてくれる。ありがたいことだ。滋賀から戻ってきたいのうえ画伯も来てくれた。彼女の実家(豪農)手作りの鮒ずしの土産を心待ちにしていたのだが、「電車の中に忘れた」と一言。それって、むちゃくちゃ迷惑な話やん! 熟成しまくったブルーチーズのような濃厚な香りただよう、車内。それって嫌いな人には拷問だ。
夜、このベッドで眠るのも最後かと思うと、隣の轟音いびきも愛おしくなってくる。社会復帰のために、まゆ毛のお手入れなどをして、すやすやと眠る。

左・キックの練習するナガハマ。バカです。右・会うたびに一回り人間が大きくなっているみざき、バナナを食う。あまり太らないでくれ。

2002年8月19日(月曜日)

祝! 退院。

朝から退院の事務手続でバタバタ走り回る。ふと、談話コーナーを見やると、そこには同室の患者さんがいた。この人は、私と同じくらいに入院した人(以下おば)で、私が手術直後、傷の痛みでギャーギャー騒いでいたときに、隣で


おば「先生、お世話になります。これは、ほんの気持ちですので、受け取ってください」
Dr.「いや、それは困ります」
おば「すぐに渡さなかったので気を悪くなさったんでしょう」
Dr.「いや、そんなことないです。とにかく困ります」
おば「すぐに渡すべきだったのに、遅くなってすみません」
Dr.「いや、規則でそういうものはいただけないことになっていますので」
おば「いえいえ、そうおっしゃらずに」
Dr.「いや、とにかく規則ですので」
おば「いいじゃありませんか、気持ちですので」
Dr.「いえ、ほんとに……」
おば「まあまあまあまあ、ねっ!
Dr.「……」


というような会話をしていた人だ。あんまりおもしろかったので、耳と目を思いっきり見開いて、意識を集中して聞いていたので、傷の痛みを忘れたほどだ。
で、ちょいいじわるな気持ちになった私は、

私「私、今日、退院するんですけど、やっぱ、先生にお礼とか、そういうのしたほうがいいでしょかね?」と聞いてみた。
おば「そうですね、前に入院していたときは、いくらか包んだんですけど、ここは都立なので、別にいいんじゃないですかね」
私「そういうのって最初に渡すべきものなんですか?私、入院って初めてでよくわからなくって」
おば「そうですね、入院してすぐ渡すみたいですね」
私「そおなんですかぁ」

などと、うわっすべりな会話をしてみた。うーん、大人って難しい。10日ぶりに化粧をしたはいいが、かなり太ったので、めちゃブサイク! 午後にはカメラマンの浜村嬢が、迎えに来てくれたので、彼女の車で一路、取材先の川越へと向かう。病院を後にするとき、ちょっぴり名残惜しい気持ちになる。道中、コンビニに寄り、簡単な食事を買ったが、なぜか普段は食べないジャンクなお菓子が無性に食べたくなり、じゃがりことかスナック菓子を買い求めむさぼり食う。あー生きててよかった。とちょこっと思った。続く

左・救急車の内部。けっこう居心地よし。右・520病棟の尿瓶の山。特に意味なし。