街で見かけたおしゃれさん

モードdeどーも

流行とは移ろいやすいものである。去年のトレンドが今や笑いのネタになることもしばしば。別れ話の場で「あのとき愛してるっていったじゃない!」と、逆上する時間軸のズレた困ったちゃんもいるが、確かにその瞬間は、みんな愛しきモノたちであったことは真実だ。
また、作務衣のように、一時のブームに終わらず、ピンポイントながら静かに息づいている恒常的、しかし、どっか笑えるモードもある。ここでは、店主が気になる街のファッションを集め、おせっかいにもさまざまな角度から検証してみた。


●マオ・カラー
マオのそもそもの語源は毛沢東の「毛(マオ)」。人民服をモチーフとした、いわゆるガクラン風の詰め襟である。20年近く前、三宅一生がコレクションで発表して話題を呼ぶ。洗練されたオリエンタル・テイストは、YMOの台頭とともに、イケてる業界人を誇示するのに大いに貢献。しかしながら、ディマジオが結果的に侠気のある層に支持されてしまったように、あくまで想像ではあるが、デザイナーが目論んだ本来のターゲットとは、ちょっと異なる帰結をしたように思われる。「小金が溜まったから、人とは違ったカッコをしてみたい」という上昇志向タイプ。あるいは「ネクタイはしたくない、しかしポロシャツ&ジャケットじゃ没個性」という消去法タイプ。「球界の紳士たれ!」と中華思想はなはだしい球団のように、「業界人らしくあらねばならぬ」という勘違いタイプなどを包括したマオのすそ野は広い。しかし、登山口は違えども、またその道程がどんなに険しくとも、その頂にあるのは『大衆とは違うオレ』。人はなぜマオを着るのか? それはそこに山があるから……ってホントか?
★マオの主張「グローバルスタンダード」

●作務衣
作務衣はもともと修行僧の作業着で、禅宗での修行のひとつである「作務」と呼ばれる日常の労働作業を勤める時に着る「衣」だから「作務衣」。通販などでは、よく大正琴と並んで「今、静かなブーム」というコピーがつけられている。イーデス・ハンソンもご愛用。村田英雄が大病を克服し退院して以降、作務衣を着用していることからもうかがえるように、これを好む人は、悟りをひらいた、解脱した、ふっ切れた、あるいは世を捨てた、といったように、己の人生に何らか答えを見出した傾向が高い。しかし、あくまで傾向であって、現実はこればかりでなく、アートやクリエイティブ、こだわりの記号として用いられるケースもままある。
★作務衣の主張「一期一会」

●アロハ・シャツ
ポリネシア諸島の民族衣装のひとつで、開襟、半袖、スクエアー・カットの裾を特徴とする派手なプリント柄のシャツ。ハワイでは昼夜の別なく着られる一種の万能ウエア。ジーンズや綿パンなどと相性がよく、比較的コーディネートは楽なのだが、これほど着る人を選ぶシャツもない。中高年でこれをカッコよく着こなすには、若い頃から累々と堆積したやんちゃやごんたくれの層が不可欠。まかりまちがうと、故マルコス大統領、日系三世、あるいは健康ランドの従業員風になる。
★アロハの主張「生涯一不良少年。永遠に少年の心を持ち続けたい」

●サファリ・ジャケット
1960年代末から70年代初めにかけて流行。羽田氏が推奨した省エネルックもこれがベースになっている(はず)。故アキノ大統領やムツゴロウ氏、報道系マスコミの人もご愛用。かつて白サファリ+白のエナメルの靴は、やくざの夏服としても好まれた。半袖スタイルが大半で、肩章がついている。会社の慰安旅行などで、オヤジが「ポロシャツだけでは、何だしな〜」と、準正装っぽく着たりもする。が、しかし、ライオンもトラもいない日本で、なぜにサファリ? 伸縮性もないし、特に機能性にすぐれているわけでもない。サバイバルな場所で、それほど役に立つとも考えにくい。ということは、サファリジャケットの『サファリ』は、その語源であるスワヒリ語の「旅、旅行」はもちろん、ハンティングや動物観察という意味も薄れ、どちらかというと、教養の高さとカジュアルさを兼ね備えた『オレ』の主張。
★サファリの主張「常識をわきまえつつ、心は自由人。フットワークの軽ささがウリです」

●パイロット・シャツ
パイロットが着ているユニフォーム風デザインシャツのこと。肩章と、両胸の蓋付きポケットを特徴とする。これを好む人は、常にきちっと整髪し、ハキハキと歯切れがよく、澄んだ目を持つ好青年がそのまま中年になったようなタイプが多い。しかし、蓋付きポケットは、そこにモノを入れる際、いちいちボタンを外さなくてはならないので、けっこう面倒だ。だけど、そんなことは、パイロット・シャツマンには大きなお世話。几帳面で常に計画性のある彼らには、面倒くさいという単語は存在しない。また、おっさんはよく、胸ポケットにタバコとライターを常備しているが、嫌煙家が多いパイロット・シャツマンにはノープロブレム!
★パイロットの主張「努力」

●フィッシャーマンズ・ベスト
機能性あふれたポケットが至るところについたベスト。背中には、ランディング・ネットをかけるDカンも! 本来の目的に着用するには、異論はないが、なぜにタウンユース? 「毎日釣り!」な人には、カメラマン(特にアマチュア)、編集者、新聞記者などが多い。ポケットがたくさんあるので、こりゃ便利とばかりに旅行に着ていく人もいるが、「盗ってください」といわんばかりの全身是貴重品! で、狙われることこの上なし。
★釣りベストの主張「オレは社会派! ジャーナリスト!」 

●ケミカルウォッシュ・ジーンズ
強力な酸化剤を生地に反応させて色ムラを演出させたジーンズ。 ’80年代半ば頃大流行。しかし、今やアニオタの象徴。コミュケや秋葉原・日本橋、まんだらけなどに大量発生。2〜3980円あたりがボリューム・ゾーン。デブ用にツー・タック仕様もあり。これを好むと好まざるにかかわらず愛用しているのは、おかんがジャスコやダイエーで、グンゼのパンツと一緒に買ってきたケミGをそのまま着用している自己主張できないタイプが多い。ケミGを脱ぐとき、それは母子カプセルからの脱却、自我の芽生えといっていい。また、色落ちさせる手間を省くために、これを選択する貧乏臭い思考もあるが、ヴィンティージ・ジーンズとは、似て非なるシロモノであること甚だしい。ジーンズを買うだけの経済的余裕のある社会人で、これを着用している場合、いじめの対象となってもいたしかたないであろう。
★ケミGの主張「ヒッキー(引きこもり)じゃないよ」

●クレリック・シャツ 
身頃が柄か色無地で、衿とカフスを白無地にしたシャツ。正しくは「カラーセパレーテッドシャツ」または「ホワイトカラードシャツ」。よく社会人1年生が張りきって着込んでいるが、いかんせんペンギンのようである。
★クレリックの主張「がんばりまっす! 超オッケーっす」

●ルパシカ
ロシア男子のブラウス風の上衣。立襟左脇をボタンなどで留め、身頃はゆったりし、ウェストで紐結びにする。1920年代半ばには、日本でも流行し、若者にも好んで着る者が多かった。のちにグループサウンズの衣装でも、ルパシカがベースになっていたものが少なからず見られた。が、なぜか、いつしかルパシカ+ベレー帽が画家の記号となり、コントに登場する画家は、常にこの組みあわせだ。しかし、おそらく本物の画家で、ルパシカ+ベレー帽スタイルの人は、限りなくゼロに近いと推測される。戦後、ルパシカの似合う男ナンバーワンは、大久保清をおいてほかにない。
★ルパシカの主張「二科展」

●ちびT 
体にピタッと張り付くタイトなTシャツ。エリートモデルズのバッタもんなどがよく見受けられたが、すげえデブが着ててロゴに平体がかかっているのを見るのはしのびない。
★ちびTの主張「イケてるって感じ?」

●オニキス・リング
アゲート(瑪瑙)の仲間。ブラックオニキスはその名の通り黒いオニキス。キリスト教では信仰心を高める力がある石とされており、司教のロザリオなどに使われているそうだが、日本ではやくざ、あるいはこれに準ずる職業、街金、建設業、イベント&興業などに従事する人々の指を飾る。もちろん地金は、18金! オニキスは富の象徴であり、男前を主張する大切な小物。デザインは、一文字が主流だが、これはスジと義理と見栄を重んじる一徹な心意気の象徴といえるだろう。喜平ネックレス、トロイのタートルネック、アイスバーグやディマジオ、ブラック&ホワイトのニットとあわせてコーディネートする人が多い。ジュリアーノ・フジワラのスーツも好む。車はメルセデス、セルシオ、プレジデントが好き。
★オニキスの主張「男を磨く。侠気!」

●ライマ・ブレスレット
何でも肩こりや腰痛に効くとかというふれこみで、プロゴルファーが火付け役となり、中高年層を中心にブームを呼んだブレスレット。ブレスの両端に付いている球がツボを刺激するらしいが、刺激する場所を間違えるとけっこう痛い。しかし、スポーツマンから発祥したものの、いつしか喜平ブレスと同じポジションに着地したことで、おしゃれ度は加速度付きで急降下。余談ではあるが、店主はクライアントである某広告代理店の営業のねーちゃんの勧誘を断りきれず、泣く泣く購入したという悲しい過去がある。
★ライマの主張「イワシの頭も信心から」

●ループ・タイ
輪島塗り、七宝焼、真鍮、木彫、べっ甲など、さまざまな素材が用いられる。ベレー帽やハンチング帽とあわせたコーディネートが多い。これを好む人種には、元教師、元記者、元医者など、現役をリタイアしながらも「先生」と呼ばれるタイプが多い。しかしながら血気盛んに「まだまだ現役!」と鼻息荒くはない。枯れつつも己の存在価値をどこかで主張したい、それもほどほどに、且つ文化的に……。この微妙なスタンスがネクタイではなく、ループタイを選ばせるモチベーションである。俳句や詩吟、名所旧跡・古寺探訪、司馬遼太郎が好き。
★ループの主張「日々是好日」

●ウエスタン・シャツ
アメリカ西部でカーボーイたちによく着られたシャツ。別名「カーボーイシャツ」とも呼ばれる。山型のヨーク、切り替えを変えたカフス、W型のポケット・フラップ、フリンジなどが特徴。アウトドア好きの記号であるが、彼らはなぜか海ではなく、皆、山を好む。パーコレーターでコーヒーをわかし、ポークビーンズの缶詰とビーフジャーキーがあれば、そこが六甲山系でも心はナッシュビル。バンジョーとフラットマンドリン、フィドルもひと通り。しかしアウトドアと同時に、ゲイの記号でもあるので、見分けがちと難しい。
★ウエスタンの主張「ブレイクダウン」

●アポロ・キャップ
フェルトで出来たひさしの長いキャップ。主として赤を用い、ひさしに黄色いレタリングがほどこされる。アポロ宇宙船基地の従業員たちが用いたことから流行したもの。70年代のおしゃれさん生の必須アイテムであったが、今は見る影なし。たまに、公園などで生活するアウトドアなおっちゃんが被っているのを見かけるが、なんとなく悲しい。
★アポロの主張「コーラとアメリカ大好き」