岡田龍之介先生門下生の発表会


2月下旬(本番1ヶ月前)

そろそろ、毎年3月に開かれる岡田龍之介先生の門下生の、 チェンバロ発表会がせまってきました。夫が、レッスンの予約を いれるために先生にお電話をしたときに、ついでに「妻が ヴァイオリンの先生を紹介していただきたいといっている」と 先生に伝えてくれました(以前からヴァイオリンの先生を探すと いいながら、わたしがなかなか行動に移さず、煮え切らなかったため)。 すると先生が、わたしにもヴァイオリンで発表会に出ないかと お声をかけてくださいました。嬉しい気持ちと、自信のなさが 入り交じった気持ちでしたが、ちょっと勇気をだして、参加させて いただくことにしました。

リコーダーとのトリオ・ソナタを演奏させていただけるという ことで、ヘンデルかテレマンあたりから選んではどうかという 先生からのご提案。二人とも、バロック音楽華やかなりし頃の 作曲家で、明るく美しく、誰にでも親しみやすい曲をたくさん 書いています。けれども、典型的には3つの楽章で構成される 後期バロックのソナタは演奏時間が比較的長くて、1ヶ月間の 練習期間では仕上がりそうにもなく、技術的にも自信が ありませんでした。ヘンデルの緩徐楽章などはたいへん美しい のですが、わたしの演奏では聴けたものではないということが、 過去の経験からわかっていました。う〜、どうしようかなぁ。

信頼できる情報筋(?)によると「リコーダーはとても 実力のある人が吹いてくれるそうだから、君が弾きやすい曲を えらんじゃえば、きっとあわせてくれるよ」とのこと。 楽譜を入手する手段が限られていることも考えあわせて、 以前にやったことのある曲のなかから選ぶことにしました。 『モンテヴェルディとその時代』(*1)というCDを 聴いていて「初期もの(*2)、やっぱかっこいいねぇ」 なんて夫婦で話すうちに、発表会で初期ものをやりたいという気に なりました。学生の頃に見つけた楽譜で、印象的なものが あったのを思い出し、本棚をほじくりました。あった、あった。 チーマGiovanni Paolo Cimaという、17世紀のはじめのイタリア の作曲家のトリオ・ソナタです。この曲、ばしっときまれば、 きっとかっこいいに違いありません!

3月24日(本番3日前)

一週間前に予定していた、リコーダーのHさんとの練習は、 Hさんの体調不良のために見送っていたので、この日が 初顔合わせでした。わ〜ん、わたし、まだ弾けてないよ〜。 相手はプロだし、こわいよ〜。

わざわざチェンバロのある我が家まで足を運んでくださった Hさんは、明朗快活な、とってもすてきな方でした。 たいすけが大暴れして練習にならないかも知れないと 心配したのですが、別室で『だんご3兄弟』が鳴り響く中、 Hさんは寛大に、練習につきあってくださいました。

ひさびさのアンサンブル。わたしはコチコチに緊張していました。 弾けてないところつっこまれたらどうしよう、なんて不安で いっぱいでしたが、Hさんの口からどんどん出てくる音楽的な 議論にわたしはすっかり呑まれてしまいました。「ここは、 その前までの緊張が開放されるような感じで」とか、「ここは たたみかけるように」だとか…。はは、なるほど、とわたしは うなずくばかり。曲ってこんなふうに作っていくのかぁ、と とても勉強になりました。

昼食をはさんで、また少し練習したあと、今度は保谷へ移動 して岡田先生のお宅でレッスンを受けました。Hさんは他の ご予定があったので、夫と二人で、夫の通奏低音を中心に みていただきました。以前にモダン・ヴァイオリンでの アンサンブルを岡田先生に聴いていただいたことはありま したが、バロック・ヴァイオリンは今回がはじめて。 「弘子さん、バロック・ヴァイオリンらしくていいですね」 と、わたしにとっては最高のお褒めの言葉をいただくことが できました。

3月25日(本番2日前)

本当は練習すべきなのに、前夜帰宅が遅かったための 睡眠不足で、つかれて何もできませんでした。 発表会の直前だというのに、不届きだなぁ。 夕方、夫に留守と子守りを任せて、ヴァイオリンの演奏会へ 行きました。今はドイツで活躍されているわたしの以前の ヴァイオリンの先生が、一時帰国されて開かれたリサイタルでした。 先生のお姿を拝見するのは10年振りでした。

先生の演奏は、それはそれはすばらしいものでした。 楽しいと思っている演奏会でも、途中で気が散って いろいろなことを考えてしまったりすることがよく ありますが、この日はそのようなことはありませんでした。 まさに「うっとりと聴き惚れる」という体験でした。 先生ご自身がお好きな曲を選んで組まれたプログラムという こともあったからでしょうか、演奏者が音楽と一体に なっているといった感じでした。ピアノ伴奏の方とも、 コンビを組まれて7年以上になるとのこと。合わせようと して合うのではなくて、ただ、自然に一つになっていました。 音楽をするために生きてきた人たちが、音楽的にむすばれた ときの迫力といったらありませんでした。パワーというよりは オーラというべきものに呑込まれるような、そんな感覚でした。

ことさらに言及するのは失礼かと思いますが、先生は小柄な 方でいらっしゃるのです。わたしが教えを乞うていた頃から、 全身を使って堂々と表現されていましたが、ドイツで さらに磨きをかけられて、より大きくなられたように感じました。 腕の長さという点で日本人女性は体格的に不利であるように 思えます。それでいてヨーロッパで第一線でご活躍される ことを考えますと、先生が生まれ持った才能や相当のご努力と ともに、音楽に対する強い意志をお持ちであることが 偲ばれます。

それまで、「音程をはずしたらどうしよう」「ちゃんとあわせなくては」 と小さく縮みこんでいた自分がはずかしくなりました。 ああ、ヴァイオリンってこんな風に弾くんだっけ! 細かいことを気にするのはやめよう、弾きたいように弾いていいんだと 決意しました。演奏会のあとの独特の高揚感も手伝って、 なぜか”わたしにはできる”という自信までついてしまいました。 10年振りに師匠から教えていただいたものは、大変大きな ものでした。

3月26日(本番前日)

(つづく)






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