国立マンション裁判判決書(抄)【阿部成治・福島大学教授作成】
(3)信用毀損行為
判決p.49〜51
前記(1)ヌに認定した事実によれば、被告国立市長は、東京都多摩西部建築指導事務所長に対して、東京高裁決定の判断を尊重した指導をするよう要請しているが、この点は、本件建物が違法な築か否かについての被告ら自身の認識を直接に伝えたものではなく、東京高裁決定における裁判所の判断を尊重するように求めたものであり、しかも、その相手方である東京都多摩西部建築指導事務所長は、後記のとおり東京高裁決定とは異なる認識を有していて、被告国立市長の上記要請には応じていないのであるから、被告国立市長の上記要請の事実をもって原告の社会的信用が毀損されたものとは認められない。
しかしながら、被告国立市長は、国立市議会での一般質問に対する答弁において、被告国立市長の認識として原告の建設している本件建物が違法建築である旨を発言し、さらに、東京都知事等に対して、本件建物のうち高さが20メートルを超える部分について電気・ガス・水道の供給の承諾が留保されるように働きかけ、これが報道されたことにより、原告違法建築をしたとの認識を広く第三者に知らしめたのであるから、これらの発言等により、原告の社会的評価が低下し、その社会的信用が毀損されたことは明らかである。
被告国立市長は、東京高裁決定を引用するなどしてこれを根拠として前記発言をしているが、その引用に係る部分は単なる理由中の判断であって何ら法的拘束力を有するものではない。したがつて、この段階では原告の行為が違法建築に当たるとの公権的な判断がされたわけではないのであるから、公的地位にある者が、あたかもそれがされたかのような言動を行うことは、広く第三者に誤った認識を与える点において違法な行為といわざるを得ない。しかも、東京高裁決定に係る事件は、仮処分申請事件における判断である上、本件建物の建築が違反建築であるか否かにつき判断権限を有する東京都多摩西部建築指導事務所長を当事者とする事件についてのものではないから、当事者による適切な主張立証活動を経たものか否かも不確実といわざるを得ないし、東京高裁決定においては、抗告人らに受忍限度を超える損害が生じているとは認められないことを理由として仮処分申請を認めなかつたのであるから、同被告の引用に係る都分は、同事件において判断を下す上で必ずしも必要のなかった点について一応の判断を示した、いわゆる傍論にすぎない。また、東京都の特定行政庁はもとより、行政実務は一般に建築基準法3条2項の「現に建築工事中の建築物」には根切り工事が始まった段階を含むとの解訳をとっており、建築基準法3条2項が本件建物に適用される結果、本件建物は建築基準法令に適合した適法なものであると解し、別件訴訟においてもその旨の主張をしており、同事件においてこれと異なる判断を含む判決が言い渡されたことを不服として控訴の上これを争っていること(当裁判所に顕著である。)からすれば、東京高裁決定において上記判断が示されたからといって、公的地位にある者としては、これを無条件で引用することを差し控え、いまだ法的拘束力がないものであることや、これまでの行政案例とは異なる判断であることなどを指摘するなどした上で引用すべきであって、これに全面的に依拠した言動を行うことは著しく慎重さを欠くものであり、上記の言動を正当化することはできない。
そして、被告国立市長の国立市議会での前記発言は、これが公開の審議においてされた発言であることから、同発言が不特定多数の者の知り得るものであること認識していたということができる。また、東京都知事等に対する前記電気・ガス・水道の供給の承諾留保の要請については、当時本件建物の建築に関する被告らの言動が逐一報道されていたのであるから、同要請についても、これが報道され、広く不特定多数の者の知るところとなることは認識していたか又は容易に認識し得たものということができるから、被告国立市長は、これらの言動により原告の社会的個用を毀損することにつき、少なくとも過失があったものと認められる。