小児のいびきと睡眠時無呼吸症 笠井耳鼻咽喉科クリニック・自由が丘診療室
 
小児の問題行動に睡眠時無呼吸症候群が関与しているという以下のような報告が出ています。
 小児も成人と同様に眠れなくなるときがあるが、一部の小児では毎晩睡眠障害に見舞われており、それに気づいていない場合が少なくない。小児の夜間睡眠時に断続的な呼吸障害をもたらす小児睡眠時無呼吸症候群は見過ごされがちなため未治療であることが多い。そのため、日中は集中力を欠き、逆にに活発な行動に出る小児もいる。著しい睡眠障害を呈し、注意欠陥多動性障害(ADHD)と似たような症状を示す小児が多数いるという証拠が多く挙げられている。小児の1〜3%が睡眠時無呼吸症候群を発症している。症状としては、睡眠時に呼吸が短時間(約10秒〜1分強)停止する呼吸が何度も訪れるため、そのつど脳が正常な呼吸をさせようと覚醒し、その結果、断片的で質の低い睡眠となってしまう。良く眠れなかった翌朝は成人の場合は眠気を感じるが、小児の場合は眠気の代わりに集中力低下、活動的あるいは過動的になることが多い。その結果、ADHD患児と似たような注意力散漫や学習能力低下が認められるようになる。
 睡眠時無呼吸症候群は男性や肥満者で発症するリスクが高いが、小児では肥大した扁桃やアデノイドにより発症する。睡眠中、小児の肥大した組織が落ち込み、喉の奥を狭窄するため、部分的に閉じられた気道で呼吸をしなければならなくなる。小児はなんとか呼吸は出来るにしても、夜間の睡眠全体の質を著しく低下させてしまう。
 小児の重度のいびきは睡眠時無呼吸症候群の徴候かも知れない。注意力欠陥患児の3分の1は夜中にいびきをかき、正常児の3倍である。いびきが睡眠障害を意味しても、いびきと睡眠時無呼吸症候群との関係は複雑である。小児の10〜12%は習慣的にいびきをかくが、1〜3%しか睡眠時無呼吸症候群を発症していないため、いびきをかいているからといって必ずしも同症候群と決めつけるわけにはゆかない。夜間睡眠時のいびき以外に、落ち着きのなさ、睡眠時の口呼吸、極度の寝汗といった症状との関連も調査を要する。その他の睡眠に関連する呼吸障害の徴候として、睡眠時の苦しそうな呼吸やあえぎ、不自然な体勢や顔色の変化も含まれる。
 小児睡眠時無呼吸症候群の一般的な治療法として、夜間に快適な呼吸が出来るように、扁桃やアデノイドの摘出が勧められ、その方法によって大多数の患児の症状を解決できる。低年齢児の方が睡眠時無呼吸症候群に陥るリスクが高い。2〜6歳の小児は、気道の大きさに比べ扁桃やアデノイドが大きい傾向にあるが、成長すればだいたい解決する。

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睡眠時の行動と睡眠呼吸障害に関する様々な症状(表1、2)

表1 小児のいびきに関する親の訴え
【乳児】(生後3〜12か月)
号泣を繰り返す
夜間睡眠障害
昼夜サイクルが末確立
騒々しい呼吸またはいびき
寝汗
弱い吸啜力
正常成長パターンの喪失または発育不全
無呼吸イベントの観察
生命を脅かす明瞭なイベントの報告
反復する耳痛または上気道感染(URI)
【幼児】(1〜3歳)
騒々しい呼吸またはいびき
落ち着きのない睡眠または夜間睡眠障害
号泣発作または夜驚
不機嫌または攻撃的な日中行動
日中疲労感
寝汗
口呼吸
摂食不良または発育不全
反復する上気道感染(URI)
無呼吸エピソードの目撃
【学齢前児】
日常的な激しいいびき
口呼吸
睡眠時の流涎
落ち着きのない睡眠
夜間覚醒
錯乱性覚醒
睡眠時遊行
夜驚
寝汗
異常な睡眠体位
夜尿持続
日中の異常な行動
 攻撃性、多動、無関心、日中疲労感
朝の起床困難
朝の頭痛
同年齢の児に比べて昼寝の必要性が増大
摂食不良
成長障害
頻発する上気道感染(URI)
【学齢児】
日常的な激しいいびき
落ち着きのない睡眠
異常な睡眠体位
不眠
睡眠相後退症候群
錯乱性覚醒
睡眠時遊行
寝言
夜尿持続
寝汗
朝の起床困難
口呼吸
流涎
朝の頭痛
日中疲労感
日常的な昼寝を伴う日中の眠気
異常な日中行動
 注意欠陥・多動性障害のパターン 攻撃性 過度な内気、引っ込み思案と抑うつの傾向
学習困難
異常な成長パターン
思春期遅延
反復する上気道感染(URI)
歯科医師の評価による歯科的問題
 交差咬合 不正咬合(クラスII またはクラスIII) 歯の過密状態を伴う小顎

表2 睡眠時の異常呼吸に関連する症候
慢性的ないびき
日中疲労感
日中の眠気
睡眠持続障害型の不眠症
睡眠相後退
錯乱性覚醒
寝言
夜驚
睡眠時遊行
遺尿(一次性または二次性)
朝の頭痛
夜間片頭痛
周期性四肢運動
学習または記憶障害
注意欠陥・多動性障害
異常な社会的接触(心理的に引っ込み思案)
抑うつ情動
起立性低血圧
失神(まれ)
高血圧(まれ)
肺性心(まれ)
夜間喘息または夜間喘鳴
交差咬合
病的な上歯突出
歯の過密状態
埋伏智歯

スタンフォード大学・睡眠障害クリニックのChristian Guilleminault博士らによる
出展:Archives of Pediatrics and Adolescent Medicine(2005; 59: 775−785)

 診察は鼻から開始し、鼻孔が非対称ではないか、鼻中隔基部が肥大していないか、吸気時に鼻弁が虚脱していないか、鼻中隔彎曲はないか、下鼻甲介の肥厚はないか等を調べる。次に口腔咽頭においては、口蓋垂と舌との位置関係を調べる。さらに、扁桃の大きさを気道の大きさと比較する必要がある。高くて狭い硬口蓋、重なり合う切歯、交差咬合と重大な(2mmを超える)上歯突出(上下歯間の水平距離)は小顎や上下顎骨の発達異常を示唆している。
 患児が過体重かどうかも重要で、頚部周囲径と脂肪浸潤が関与している可能性がある。また、腹部肥満のある患児では肺胸郭系の機能が障害されている場合があり、そのために肺のガス交換低下が増悪している可能性がある点も重要である。
 患児で睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われる場合、「睡眠時検査が睡眠呼吸障害(SDB)を確認する唯一の手段である」と同博士らは述べている。親に対する質問票は、感度と特異度に関して不十分であるという。自宅モニタリングは,ビデオ撮影の有無にかかわらず、決定的とは言えないが、陽性所見が早期治療に結び付く可能性はある。
 小児のSDBの評価は、手術が必要となる可能性があるので、耳鼻科医が担当すべきであると指摘。「アウトカム研究により、単独の扁桃切除術またはアデノイド切除術は、扁桃アデノイド切除術ほど効果的ではないことが明らかとなった。また、下鼻甲介に肥厚が見られる場合、全身麻酔下で同時に下鼻甲介のラジオ波治療を実施すべきである」としている。
 臨床医は加湿を促し、積極的にアレルギーや鼻炎を治療し、鼻腔の開通性を検査すべきである。歯列矯正や抗アレルギー治療の有無にかかわらず、小児の手術に対する反応が良好という点から考えると、持続陽圧呼吸(CPAP)は第二選択としてのみ検討すべきである」と述べている。