上咽頭炎、鼻咽腔炎、上咽頭がん 笠井耳鼻咽喉科クリニック

 上咽頭(あるいは鼻咽腔)というのは、鼻腔後方の突き当たりで口蓋垂(のどちんこ)の裏側にあたる領域です。上咽頭の天井部分には咽頭扁桃というリンパ組織が存在し、その上方で頭蓋底に接しています。上咽頭の両側には耳管咽頭口が開いており、中耳とは耳管でつながっています(「のど」のしくみとはたらき)。幼小児で咽頭扁桃が肥大して鼻づまりの原因になったり、鼻や耳に悪影響を及ぼして鼻副鼻腔炎や滲出性中耳炎などの原因になっている場合に、アデノイド増殖症(咽頭扁桃肥大症、あるいは単にアデノイド)と診断されます。大人では咽頭扁桃は退縮して目立たないのが通常ですが、稀に小児期からの肥大が持続したり、鼻咽腔炎や上咽頭腫瘍などを発症して、鼻閉や中耳炎の原因となることがあります。
 口蓋垂〜軟口蓋の裏側の上咽頭を診るには、耳鼻咽喉科での基本的診察器具である後鼻鏡を使って口の中から比較的簡単に見ることが出来ます。しかし、微細な病変が狭い上咽頭の中に存在するケースも多く、見落としの無いように診断するには鼻から内視鏡をを挿入して観察する鼻咽腔の内視鏡検査(鼻咽腔ファイバースコピー)がより確実な手段です。

上咽頭、鼻咽腔、咽頭扁桃、耳管咽頭口

上咽頭炎、鼻咽腔炎
 上咽頭(鼻咽腔)に対して局所療法としてルゴール液や粘膜収斂剤などの処置薬剤を塗布すると、見た目には炎症所見が無いような場合でも、局所の疼痛や出血が見られることで上咽頭炎あるいは鼻咽腔炎と診断することが出来ます。急性鼻咽腔炎は一般的には風邪(急性上気道炎)によって引き起こされるものです。慢性鼻咽腔炎は上咽頭粘膜の慢性持続性炎症であり、上咽頭局所の症状は明瞭でないことが多く、鼻の奥の乾燥感、頭痛、後頭部痛などの症状や咽喉頭異常感症、あるいは自律神経失調症や不定愁訴的な症状が続くことがあります。上咽頭炎(鼻咽腔炎)の症状としては、『鼻とのどの間(上咽頭)が痛い。のどが痛い、焼けるような感じ。痛い場所の特定しにくい、のどの痛み。のどがイガイガする感じ。後頭部を冷やすとのどが痛い。鼻ののどの間に違和感がある、何か詰まった感じで、引っかかっている。のどが乾燥する。のどに痰がへばり付く感じ。咳が出る。咳払いをする。痰に血が混じる。鼻が詰まる。後鼻漏。鼻水がのどに廻って落ちる感覚がある。鼻水が口に溜まる。鼻をかみたいが、鼻水が上手く出てこない。鼻水に血が混じる。鼻の奥で変な臭いがする。口臭がする。朝起きた時、口が渇いている。耳の詰まる感じ。耳の奥が痛い。耳鳴り。めまい。微熱が続く。全身倦怠感。頭痛。肩こり。風邪をひきやすい。』など様々です。
上咽頭炎があると、上咽頭を咽頭巻綿子で擦る(上咽頭の擦過診)ことにより容易に出血し、強い痛みを感じますが、それによって炎症が起きているという診断の一つの根拠となり、また治療にもなります。「鼻咽腔炎」堀口伸作、「咽喉頭異常感症の治療法の一工夫」牛嶋申太郎「つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい」堀田修著「慢性上咽頭炎を治せば不調が消える」堀田修監修慢性上咽頭炎に対する上咽頭擦過療法の作用機序は?「堀口伸作のBスポット療法」堀口伸作「しつこい不調の原因は『慢性上咽頭炎』だった」堀田修著

咽頭扁桃の膿栓
 咽頭扁桃膿栓が貯留することはそれほど多いことではありませんが、小児期の咽頭扁桃肥大症(アデノイド)が大人になっても残っているような場合などでは、咽頭扁桃の陰窩(上咽頭窩)が深くなっており、膿栓が付着することがあります。鼻の奥で何かつまった感じ、上咽頭の違和感、頭重感や頭痛、後鼻漏の原因となっていることがあり、上咽頭処置や経鼻的に膿栓を吸引除去することで症状の改善が得られます。ソーンワルト病(Thornwaldt's disease、鼻咽頭嚢炎:頭蓋咽頭管が嚢状に遺残したものに感染が加わった病状)も同じような症状と所見が認められ、上咽頭処置あるいは手術的治療が行われます。
 上咽頭を擦過する治療法は「Bスポット療法」(Bは鼻咽腔Biinkuu)あるいは最近ではEAT「イート」(Epipharingeal Abrasive Therapy:上咽頭擦過治療)とも呼ばれ、堀口原法では0.1%塩化亜鉛溶液(クロールチンク)】を用いた鼻咽腔の処置治療です。特に塩化亜鉛溶液ではなく、ルゴールなどの一般的に認められている処置薬剤を用いることで、上咽頭の擦過治療は行うことが出来ます。この上咽頭擦過治療に関しては、多くの病状に効果があるという過大な評価が喧伝される一方、その過剰評価故に却って疑問視されてしまったり、過小評価に貶められている一面もあります。しかし実際に継続治療してみることで長引く慢性炎症症状に効果が得られることもあり、特に重大な副作用なども起こらないことから、試みても良い治療法と考えられます。上咽頭粘膜表面をきれいにするには、家庭でも出来る「鼻うがい」も有効です。ハナクリーンサイナスケアニールメッド等の鼻うがい専用器具や洗浄用薬剤が市販されていますので、上手に出来る方は試してみると良いでしょう。
上咽頭炎
上咽頭後上壁(咽頭扁桃の陰窩に膿栓貯留)⇒上咽頭炎の膿栓上咽頭擦過により咽頭扁桃の膿栓流出⇒上咽頭炎の処置後経鼻的に膿栓を吸引⇒上咽頭炎の処置後膿栓の吸引除去後⇒ 上咽頭炎処置後上咽頭処置終了後の所見、膿栓の消失と軽度の出血を認める
【※】0.5〜1%塩化亜鉛溶液は検査・研究用の特殊調製試薬であり、院内製剤クラス分類でクラスT(薬事法で承認された医薬品またはこれらを原料として調製した製剤を、治療・診断目的で、薬事法の承認範囲(効能・効果、用法・用量)外で使用する場合であって人体への侵襲性が大きいと考えられるもの)であり、倫理性及び科学的妥当性を審査委員会で承認し、文書による患者への説明と同意を得て使用する必要があるとされています。当院では安全性・低侵襲性を考慮し、まず鼻咽腔ファイバースコープにより上咽頭を観察したのち、経鼻的に鼻用綿棒によりキシロカイン(局所麻酔作用)とアドレナリン(粘膜収縮作用)を用いて鼻腔〜上咽頭(鼻咽腔)の処置を行い、次いで経口的に咽頭捲綿子によりルゴール液+グリセリンを用いての鼻咽腔擦過治療(EAT)を原則とし、特に希望される場合に塩化亜鉛溶液を使ったEAT治療を行うこととしています。
1%塩化亜鉛溶液

上咽頭癌、上咽頭悪性リンパ腫
 上咽頭癌は、その解剖学的特徴から、隣接する耳や鼻の症状が初期に出ることが多く、頭蓋底に浸潤すると様々な脳神経症状(初期には三叉神経領域の痛み、外転神経麻痺による複視など)も出現します。鼻症状としては鼻閉・膿血性の鼻漏・後鼻漏鼻出血・咽頭出血・頭痛、耳の症状として片側性の耳管狭窄症滲出性中耳炎耳閉感・難聴耳鳴りなどが起こります。上咽頭癌は頚部リンパ節に転移することが多く、最初は頚部腫瘤という症状だけで受診されて、上咽頭を検査して初めて上咽頭癌が見つかることもあります。上咽頭癌は多彩な症状が現れることもあって、初期に発見することが難しいことがあり、また見つかった時点ではかなり進行していることも多く、耳鼻咽喉科領域に発生する癌の中でも特に厄介な癌と言えます。
また、上咽頭はワルダイエル輪を構成するリンパ組織群の中でも口蓋扁桃に次いで、悪性リンパ腫の好発部位になっています。ワルダイエル輪に発生した悪性リンパ腫は表面が平滑で一見すると正常のリンパ組織が肥大している程度にしか見えないこともあり、局所の痛みなどの症状も無く、頸部のリンパ節の腫脹だけしか所見が無いというような場合も多く、潰瘍を形成するような上咽頭の癌よりも診断が難しいことがあります。
(右)(左) 上咽頭がん:右耳管咽頭口周囲〜耳管隆起に潰瘍形成
(左) 上咽頭がん:鼻咽腔後上壁に易出血性の腫瘤を形成

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