耳鼻咽喉科外来日帰り手術について 笠井耳鼻咽喉科クリニック

耳鼻咽喉科で行う日帰り手術の普及
 近年、医療技術の進歩や新しい医療機器の開発によって、多くの分野で低侵襲の日帰り手術が可能になっている。耳鼻咽喉科領域においても例外ではなく、これまで長期の入院を必要としていた疾患に対し、日帰り手術や外来手術で適応できる症例が大きく広がりつつある。
 耳鼻咽喉科が担当する領域は、耳・鼻・咽喉・口腔・甲状腺にまで及び、視覚を除く他の特殊感覚(聴覚・平衡覚・嗅覚・味覚)と密接にかかわっている。これらの器官は私たちのQOL(生活の質)に直接的な影響を与えるため、短時間で症状の改善を期待できる日帰り手術の普及は意義が大きい。耳鼻咽喉科領域では、その日のうちに退院し、翌日には通常の生活に戻れる日帰り手術がすでに身近なものとなっている。
中耳炎に対する耳の日帰り手術
 耳に関する疾患でよく知られている中耳炎は、鼻や喉から入り込んだ細菌によって、中耳が炎症を起こす病気である。おもに風邪が原因になる急性中耳炎を放置すると、慢性中耳炎や滲出性中耳炎になりやすい。
 慢性中耳炎は、急性中耳炎や滲出性中耳炎が治りきらず、外耳と内耳を隔てる鼓膜に穿孔(穴)を残した状態で、ここから細菌が入りやすくなり、耳から膿が流れ出る耳漏(耳だれ)を繰り返す。また、鼓膜に穿孔があるため、音の振動が十分に伝わらず、難聴が徐々に進行していく。細菌感染による炎症は、内服薬や点耳薬の抗生物質で抑えられるが、完治のためには手術が必要となる。
 鼓膜形成術(接着法)は、局所麻酔で耳の後ろを切開し、患者自身の皮下組織あるいは軟骨膜を取り出し、これを利用して穿孔を閉鎖する。手術用の生体接着剤によって、わずかに採取した組織で閉鎖させることが可能になり、ほとんどの医療機関で日帰り手術として行われている。
 慢性中耳炎で、内耳に音を伝える耳小骨にも障害が及んでいる場合には、鼓室形成術によって、セラミック製の人工耳小骨に交換するなど、耳小骨の再建を行う。真珠腫性中耳炎は、鼓膜や外耳道の角化した表皮が中耳に堆積し、耳小骨を溶かしていく慢性中耳炎の一種だが、鼓室形成術はこの治療に対しても用いられる。通常は1週間前後の入院が必要とされるが、一部の専門施設では、日帰りから34日まで、短期間での治療を可能にしている。
 中耳に無菌性の液体が溜まる滲出性中耳炎は、小児と高齢者に多く、急性中耳炎の後に引き続いて発症しやすい。特に痛みがなく、小児の場合は難聴や耳閉感といった症状を訴えられないため見逃されることが多い。自然治癒することも多いが、慢性的な滲出性中耳炎は言語発達に影響するので注意が必要である。
 この治療には薬物や耳管通気による保存的治療、鼓膜切開により滲出液を除去する方法があるが、難治性の滲出性中耳炎には鼓膜チューブ留置術(挿入術)が行われる。鼓膜切開で滲出液を除去し、中耳を換気するためのチューブを鼓膜に留置する。成人では局所麻酔による外来、小児では全身麻酔による日帰り手術で行われることも多い。
鼻科日帰り手術の普及
 日帰り手術(デイ・サージエリー)は、1970年頃から特に医療費の軽減を目的として米国で本格的に運用が開始された。この治療システムが注目された根幹的な理由は・全身麻酔を用いた手術が入院せずに行える″といった時代を画する手術治療が可能になったからである。以後、欧米を中心に、院内感染防止や母子分離のストレスの回避などの目的から、特に小児外科領域で急速に普及してきた。従って、日帰り手術とは、病院やサージセンター(日帰り手術専門の医療施設)で行われる全身麻酔を用いた手術のことをいい主に一般の診療所において局所麻酔で行われる外来手術(オフィスサージエリー)とは厳密には区別される。近年耳鼻科領域においても、さまざまな手術が全身麻酔を用いた日帰り手術として行われており、外来手術と共に入院不要の手術治療が増加している。
アレルギー性鼻炎と慢性副鼻腔炎の手術
 鼻に関する疾患で、専門施設での日帰り手術が可能なものとして、アレルギー性鼻炎と慢性副鼻腔炎(蓄膿症)がある。いずれも鼻づまりに悩まされる病気で前出の滲出性中耳炎を引き起こしやすい。
 アレルギー性鼻炎は、鼻から吸い込んだ異物に抵抗する免疫反応が過剰に現れ発作性のくしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状が出る。スギやヒノキの花粉が原因となる季節性(花粉症)のものと、ハウスダストやダニなどが原因となる通年性のものに分けられる。体質的な病気であるため、自然治癒することもある反面、薬物療法や手術で完治することは難しい。根治的な治療法として、抗原エキスを注射し、アレルギーに体を慣らしていく減感作療法があるが、約2年間の通院を続ける必要がある。
 鼻粘膜焼灼術は、アレルギー性鼻炎の特に鼻づまりに対して有効な日帰り手術として行われ、腫れて肥大した下鼻甲介の粘膜を焼いて凝固させる。炭酸ガスなどを利用したレーザー治療、特殊なガスを高周波電流とともに流すアルゴンプラズマ凝固法などの種類がある。最近では、低温での電気凝固により、粘膜表面を傷めないラジオ波凝固治療も行われている。
 慢性副鼻腔炎は、感染による副鼻腔の粘膜炎症によって鼻水や鼻づまりなどの症状が起こる。抗生物質の内服薬や霧状の薬を鼻から吸い込むネブライザー療法によって改善していくが、治りにくい場合には手術が適応される。ESS(内視鏡下副鼻腔手術)は、内視鏡下で観察しながら、特殊な器具を使って粘膜の病変を切除していく。副鼻腔の通気性を高めるために行われるが、従来法よりも侵襲が少なく、副鼻腔の生理機能が比較的保たれる。1週間前後の入院で行われることが多いが、一部には日帰り手術として実施している専門施設もある。
 また、左右の鼻腔を隔てる鼻中隔が湾曲または変形し、鼻づまりの原因となっている場合には、鼻中隔矯正術が行われる。一部に日帰りを可能とする施設もあるが、アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎の手術と併せて行われることが多い。
耳鼻咽喉科で治療する睡眠時無呼吸症候群
 耳鼻咽喉科では、いびき症や閉塞型の睡眠時無呼吸症候群に対して、日帰り手術を適応できる場合がある。口蓋垂(のどちんこ) の一部をレーザーで切除して気道を広げるLAUP(口蓋垂軟口蓋形成術)は、単純性いびき症や軽度から中度の睡眠時無呼吸症候群に有効とされるが、睡眠時無呼吸症候群に対しては、一時的に症状が改善されても長期的には元に戻ってしまうこともある。
 中等度から重症の睡眠時無呼吸症候群には、口蓋扁桃と口蓋垂を電気メスで切除するUPPP(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)が適応されるが、通常は数日間の入院が必要で、日帰り手術は行われない。UPPPも長期的には無呼吸を再発させる可能性がある。高度の睡眠時無呼吸症候群には、内科的な治療だが、CPAP(経鼻陽圧気道換気療法)が効果的だといわれている。
 このほか口腔咽頭領域においては、アデノイド(上咽頭にあるリンパ組織)増殖症に対するアデノイド切除術、扁桃肥大に対する口蓋扁桃摘出術なども日帰り手術が可能になっている。これらの手術は、アデノイド増殖症や扁桃肥大が、いびき症や睡眠時無呼吸症候群、滲出性中耳炎、慢性副鼻腔炎などの原因となっている場合に手術が適応される。
総合的判断による適正な治療の選択
 耳鼻咽喉科では、以上の手術以外にも日帰り手術による治療の短期化が進んでいる。耳・鼻・咽喉・口腔は構造的につながっており、いくつかの病気が合併して起こる場合も多い。従って、疾患の重症度や合併症の程度など、総合的な判断によって適正な治療法が選択されることが重要だ。日帰り手術が可能とされる病気でも数日の入院を必要とする症例もある。また、手術は日帰りで完了しても、術後に長い通院期間を必要とするなど、根気よく治療を続けなければならない疾患も多い。医師に指示された内容を順守することが、病気を完治させる近道である。
アレルギー性鼻炎の手術
 近年、先進国においては、ぜんそくを合併する通年性のアレルギー性鼻炎患者数が急速に増加しており、患者の生活の質の低下、社会生産性の低下、医療費の増加などの点から間題祝されている。アレルギー性鼻炎患者がぜんそくとなるリスクは通常の3倍だといわれている。また鼻呼吸の改善がぜんそく発作を抑制することが証明されており、特に鼻閉に対する治療の重要性が指摘されている。これまで花粉症の外来手術としては、レーザーやアルゴンプラズマ凝固(ぎょうこ)装置を用いた鼻の粘膜焼灼(しょうしゃく)手術が知られているが、最近では、粘膜表面を傷めずに高い効果が得られる温度飼節高周波凝固装置なるものも開発されている。また通年性アレルギー性鼻炎の重症例に対しては、より効果の続く鼻の副交感神経切断術といった方法がある。口呼吸のため集中力が低下している小児や重症の鼻アレルギー患者などを対象に、専門施設において日帰り手術として行われている。
蓄膿症(慢性副鼻腔炎)の手術
 蓄腹症(慢性副鼻腔炎)の手術は、内視鏡が導入されてから劇的にその手術法が進歩した。これまでも鼻のポリープだけを切除する手術は外来手術として行われてきたが、最近では、従来24週間の入院で行われていた蓄膿症の手術を数日以内の入院で実施している施設が増加している。また一部の施設では、欧米の専門施設と同様、全身麻酔を用いた日帰り手術として実施している。
患者の肉体的・精神的負担を軽減
 手術に伴う入院期間の短縮は、患者の利点だけでなく医療費削減といった社会的な観点からも重要なテーマである。しかし例え日帰りで手術が行われても、術後に苦痛が統いたり、仕事に復帰するまでに時間がかかっては意味がない。日帰り手術の理想的な姿は、痛みとストレスから解放された完全無痛手術として行われ、その日のうちに退院、翌日には通常の生活に復帰できるような治療である。患者の肉体的・精神的負担だけでなく経済的負担の軽減にもつながる近年の日帰り手術は、まさに画期的な医療費対策ともいえるだろう。
日帰り手術の注意点
 日帰り手術だからといって、すべてが簡単な手術というわけではない。また簡単な手術であっても、手術である以上、思わぬ問題が生じる危険性は常に存在する。特に全身麻酔を用いた日帰り手術の場合は、手術前後の患者の状態を十分に把握できるような治療システムが存在すること、日帰り手術の経験が豊富な専門医療スタッフによるシステムの運用、そして医療側と患者側の信頼関係の確立が重要である。患者側は、手術内容と手術に伴う危険性だけでなく、手術前後に生じる変化や注意点についても十分に説明を受け、指示された内容を遵守(じゅんしゅ)することが大切である。もし治療法に少しでも疑問があるような場合は、セカンドオピニオンを活用してみるのもひとつの方法である。
日帰り手術の適応
 現在のところ日帰り手術の実施が可能なケースは、耳と鼻の手術のほか、口腔咽頭(こうくういんとう)領域においては、レーザーや温度調節高周波治療装置などを用いた、いびきの手術、アデノイド手術、また口蓋(こうがい)へんとうの手術などがある。
 新しい手術機器の開発、また手術方法や麻酔法などの改良に伴い、今後耳鼻科の手術治療の多くは日帰り手術へと向かうであろう。
 手術が医師の頭脳と手によってなされるものである限り、入院期間が短縮するほどハイレベルの医療技術が要求されることになる。優れた術者の育成こそが、負担の少ない、患者にやさしい日帰り手術を拡大させてゆく鍵だ。
(週刊朝日、特集広告記事より)

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