小児アレルギー性鼻炎の診断と治療 笠井耳鼻咽喉科クリニック・自由が丘診療室

小児アレルギー性鼻炎の病態、診断、生活指導(ArcAzwell提供)
【病態】
 アレルギー性鼻炎の原因抗原の大部分が吸入性抗原である。抗原に対するIgE抗体が産生され、その抗体が鼻粘膜に分布する好塩基性細胞に固着することで感作が成立する。同一抗原が再び鼻粘膜に負荷されると、主として、粘膜型肥満細胞表面で起こる抗原特異的免疫反応によって、ケミカルメディエータが遊離される。このケミカルメディエータ(主としてヒスタミン)が標的組織を刺激して起きる局所アナフィラキシー反応がアレルギー性鼻炎の発症をきたす。粘膜腺組織の受容体に働くと鼻汁過多が生じ、血管系の受容体に働くと鼻閉が起こる。この場合はロイコトリエンの影響も大きい。くしゃみはヒスタミンが三叉神経知覚枝終末を刺激しくしゃみ中枢を介して生じる。この即時型反応に続いて、数時間後に起こる遅延型反応は、鼻アレルギーにおいては鼻閉として30〜50%の患者に発現すると考えられる。また、鼻閉は可逆的反応にとどまらず慢性の粘膜肥厚をもたらし、加えてアレルギー反応の結果として、非特異的過敏性亢進をも獲得していく。時間差攻撃ともいえる連続的抗原刺激の結果、病態は慢性化していく。
【小児アレルギー性鼻炎の傾向】
 小児アレルギー性鼻炎のほとんどはハウスダスト、ダニを抗原とする。年齢が増すにつれスギ花粉合併例も増加するが、ハウスダストのないスギ単独花粉症は少ない。最近スギ花粉症が低年齢化し、今後患児数が増加すると予想される。
 小児アレルギー性鼻炎はアトピー性皮膚炎、喘息を合併する率が高く、逆に喘息児では高率にアレルギー性鼻炎を合併する。乳幼児期にはアレルギー性鼻炎はあまり見られず、年長児になるにつれ喘息に通年性のアレルギー性鼻炎を合併する例が目立つようになる。
 鼻閉が主訴であることが多く、長時間症状が継続し、半数が口呼吸になり口腔・咽頭の乾燥を招き、さらに不機嫌、睡眠障害、集中力の低下、頭痛などの症状を引き起こす。また、鼻汁は水性が特徴であるが、症状が継続したり副鼻腔炎を合併したりすると粘性の成分も加わる。そう痒感が強いため、鼻いじり運動がみられる。目がかゆい症状も多い。
〈小児のアレルギー性鼻炎の症状〉
くしゃみ、鼻みず、鼻づまりの3大症状は成人と同じである。ただ通年性鼻炎の小児は自覚症状が少なく、本人も周囲も気づいていないことが多い。鼻をさわったり、表情をゆがめたり、いびきをかいたりすることに周囲が注意をはらって、アレルギー性鼻炎をみつける必要がある。
〈学童のアレルギー性鼻炎症状〉
成人と同じ様に、くしゃみ、鼻みず、鼻づまりが三大症状であるが、その他にも、鼻出血、鼻ほじり、鼻こすり、鼻すすり(かゆかったり、鼻みずが出たりすると指を入れたり、こすったり、すすり上げたりして、鼻粘膜をキズつけて鼻血を出したりする)、いびき、口呼吸(鼻づまりが就寝時のいびきや起きているときの口呼吸につながっている。本人はこれを鼻づまりとは気づいていない)が起こりやすい。
〈小児アレルギー性鼻炎のしぐさの特徴4つ〉
allergic salute:かゆいため手のひらで鼻を上下にこする(鼻こすり)
mouth giggling, rabbit nose:口や鼻を上下左右にのばす
allergic shiner:目の下にクマができる
nasal skin crease:鼻をこするために鼻の先にできる横じわ
【診断】
 アレルギー性鼻炎の症状は、発作性反復性のくしゃみ、水性鼻漏、鼻閉である。診断に必要な検査として、問診、視診、鼻汁および血液好酸球検査、副鼻腔X線検査、皮膚反応テスト、鼻粘膜誘発テスト、血清IgEおよび抗原特異的IgE抗体定量(RASTなど)が行われる。アレルギー疾患ガイドラインでは、鼻汁好酸球、皮膚反応テスト(またはRAST)、鼻粘膜誘発テストいずれか2項目以上陽性であることがアレルギー性鼻炎の確診に必要とされている。
【生活指導】
室内ハウスダストの除去
・室内清掃はフィルター付きクリーナーを使う
・織物ソファー、カーペット、畳はできるだけやめる。
・寝具に掃除機をかけ、ダニを通さないカバーをかける。
・ぬいぐるみの寝室への持ち込み、カーテン、織物の壁掛けをやめる。
・部屋の湿度を約50〜60%、温度を暖房時20℃、冷房時25℃前後とする。
・空気清浄機を使う。
スギ花粉の回避
・花粉情報に気をつける
・花粉飛散の多い日は外出を控える。窓や戸を閉めておく。マスク、眼鏡を使う。
・外出から帰宅したら洗眼、うがいをし、鼻をかむ。
文献)
臨床と薬物治療21(7):654,2002、小児内科31(3):371,1999、小児科診療61(4):809,1998、小児科診療65(S):218,2002、臨床と薬物治療20(5):528,2001、小児科40(7):848,1999

小児アレルギー性鼻炎の治療(ArcAzwell提供)
 小児アレルギー性鼻炎の治療は、抗原の回避、環境整備を基本に、薬物治療、特異的免疫療法が行われる。
【薬物療法】
 小児のアレルギー性鼻炎では、ハウスダスト、ダニが原因のことが多く、ほとんどの症例で通年的に症状を示す。薬物治療は、長期間にわたることが多いことから副作用の少ない局所療法が第1選択である。
 中でも抗アレルギー薬の点鼻はほとんどの年齢で使用可能と考えられるが、
インタール点鼻液は、粘膜などからの吸収がほとんどなく、乳幼児によい。この他、抗アレルギー(抗ヒスタミン)薬の点鼻としてザジテン点鼻液リボスチン点鼻液があるが、小児に適応のあるのは前2者で、乳幼児まで適応のあるのはインタール点鼻液のみである。
抗アレルギー薬の点鼻で効果がない場合、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服が併用される。
 小児では、抗ヒスタミン薬の眠気の副作用が少ないため、従来の古典的な抗ヒスタミン薬(
ポララミンペリアクチンなど)やヒスタミンH1拮抗薬(ザジテンアゼプチンセルテクトなど)の使用が多い。しかし、アゼプチンは幼児以下の適応がなく、セルテクトは小児にはアレルギー性鼻炎の適応がない。現在、眠気の少ないヒスタミンH1拮抗薬(アレジオンエバステルアレグラクラリチン)などが成人に対しては使用されるようになってきた。しかし、エバステルが学童以上に投与可能であるが、この種類の他の薬剤は小児に対する適応が認められていない。
ロイコトリエン拮抗薬である
オノンが最近アレルギー性鼻炎に使用できるようになった。鼻閉の強い症例に効果が期待できるが、ドライシロップにはまだアレルギー性鼻炎の適応がない。また、Th2サイトカイン阻害薬のアイピーディのドライシロップもアレルギー性鼻炎への適応がない。トロンボキサンA2拮抗薬のバイナスは小児への適応がない。
注:適応がないということと、効果がないということとは別である。
【小児のアレルギー性鼻炎に適応のある抗アレルギー薬】
メディエータ遊離抑制薬
 
インタール 点鼻 吸入カプセル 5歳以下未確立
 
リザベン カプセル 細粒 ドライシロップ
 
アレギサール、ペミラストン ドライシロップ 低出生体重児、新生児未確立
ヒスタミンH1拮抗薬(古典的な抗ヒスタミン薬を除く)
 
ザジテン カプセル シロップ ドライシロップ 点鼻液 乳児、幼児には慎重(痙攣、興奮等の中枢神経症状が現れることがある) 低出生体重児、新生児、乳児、幼児未確立
 
アゼプチン 錠 顆粒 低出生体重児、新生児、乳児、幼児未確立
 
ニポラジン、ゼスラン、メキタジン シロップ 小児用細粒 低出生体重児、新生児、乳児未確立
 
エバステル 錠 低出生体重児、新生児、乳児、幼児未確立
以上のような治療でも効果が少なく症状が高度の場合、ステロイド薬の点鼻薬を用いる。
ベコナーゼアルデシンシナクリンフルナーゼがあるが、小児への検討は少ない。
 成人では鼻閉が強い場合には
血管収縮薬の点鼻薬も用いられるが、過量投与で発汗、徐脈、昏睡などの全身症状が現れやすく2歳未満の乳幼児では禁忌であり、小児でもできるだけ避ける。また頻回の使用により、反応性の鼻粘膜充血を起こし、逆に強い鼻閉をもたらすことがある。したがって、鼻閉が非常に強いときに、倍量に希釈して使用し、必要最小限とする。
 気管支喘息を合併している場合には、患児が抗アレルギー薬をすでに内服していることが多い。このようなときには抗ヒスタミン薬の内服薬を適時追加するか、または抗アレルギー薬やステロイド薬の点鼻薬を使用する。
【特異的免疫療法(減感作療法)】
 抗原除去困難で、各種薬物療法に抵抗する症例では、特異的免疫療法が行われている。本療法は長期間にわたり、原因抗原を希釈した液から次第に濃度を増しながら漸増し、その抗原の基本的維持量で継続的に皮下注射する。長期寛解や治癒が期待できる唯一の治療法ではあるが、長期の定期的注射が必要なことから、症例の選択が難しい。喘息合併児の場合、注射による発作の誘発にも注意する必要がある。
【手術的治療】
 レーザーやラジオ波凝固治療など適応が限られる。
文献)
アレルギーの臨床20(14):1092,2000、小児内科31(3):371,1999、小児科診療61(4):809,1998、小児科診療65(S):218,2002、臨床と薬物治療20(5):528,2001、小児科40(7):848,1999、各社添付文書

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