いびきと睡眠時無呼吸症候群について 笠井耳鼻咽喉科クリニック

生活習慣病の発症・増悪を促し、事故を誘発する睡眠時無呼吸症候群の最新治療
 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea SyndromeSAS)は、睡眠中に激しいいびきと呼吸停止を繰り返す現代病だ。日中の眠気によって交通事故を誘発したり、重症患者を無治療で放置した場合、寿命が縮まることが知られる。
中高年男性に多く見過ごすケースも
 睡眠時無呼吸症候群(以下SAS)は、『10秒以上続く無呼吸が一晩(7時間以上の睡眠中)に30回以上または睡眠1時間に平均5回以上起きること』と、1976年に米スタンフォード大学精神科ギルミノー教授によって定義・命名された現代病だ。
 SASの種類は、睡眠中に気道(のどの空気の通り道)が閉じて呼吸が止まる「閉塞型」と、気道は閉じずに呼吸中枢の障害によって正常な呼吸指令ができずに、呼吸と無呼吸を一定の周期で繰り返す「中枢型」に区分されるが、症例の90%は閉塞型だといわれている。中高年の男性に多い病気で、女性は閉経を迎えたころから増加する。
 気道が閉じる原因は、肥満(首周りの脂肪の沈着によって気道が挟まる)のほか、・口蓋扁桃肥大・鼻の奥のアデノイド(増殖性咽頭扁桃肥大症)、・気道へ落ち込む舌、・大きい舌(巨舌症)、・曲がっている鼻(鼻中隔彎曲症、下鼻甲介肥大:肥厚性鼻炎)などが挙げられる。また、日本人は欧米人に比べてあごが小さくて気道が塞がれやすく、SASにかかりやすいため、日本人では非肥満者も多い。しかし、この病気は睡眠中に起きるため、本人が異常な呼吸状態と気付かないまま□見過ごされるケースが多い。
無治療の重症患者では8年後に40%死亡とも
 主な自覚症状は、日中の眠気や起床時の頭痛、熟睡感の欠如、口の渇き、夜間頻尿・覚醒、記憶・集中力の低下、また勃起不全(ED)など多岐にわたる。これを因果的にみれば、SASでは睡眠中に本人が気付かない脳の覚醒が頻繁に起こって睡眠が中断されるため、日中に急激な眠気や疲労感が生じ、これが交通事故や労働災害、仕事の能率低下の原因にもつながり、社会問題となっている。
 この状態が慢性化すると、動脈血中の酸素不足によって血液が酸性に傾くことから心臓や全身の血管に負担がかかり、高血圧症や糖尿病、また心筋梗塞、狭心症、脳梗塞などを発症する確率が健常人に比べて23倍も高くなる。さらに厚生労働省研究班の調査によると、睡眠1時間当たりの無呼吸数や低呼吸数が20回以上の重症SAS患者を無治療のまま放置すると5年後には約15%が、8年後には約40%が死亡するというデータもある。
確定診断は入院検査で、チェックリストで自己診断
 SASの代表的な診断には、専門の医療施設に1泊入院して行う「睡眠ポリグラフ(PSG)」検査がある。この検査で、睡眠中の心電図や脳波、眼球運動、動脈血酸素飽和度、下あごの機能などを調べて、SASの重症度を確定診断する。
 ただし、前述したようにSASの自覚症状に気付かず見過ごすケースが多い。気になる人は、自分が十分な睡眠を取れているかどうかをチェックしてみるのも1つの方法だろう。表1は、SAS診療の専門家の間でよく利用されている「昼間の眠度の自己チェックリスト」(Epworth Sleepiness Scale: ESS)だ。
 8項目の設問に対して、それぞれ0点から3点までの4段階で回答する。その合計点が5点以下なら正常、69点は治療した方がよいグループ、10点以上はすぐに治療する必要があると判定される。
1  昼間の眠度チェックリスト
Q1
座って読書をしている時
Q2
テレビを見ている時
Q3
大勢の中で、やることがなくじっとしている時
Q4
午後、横こなることができる時
Q5
座って人と話をしている時
Q6
昼食後、静かに座っている時
Q7 1
時間程度、車の助手席に座っている時
Q8
車を運転していて1分か2分停車するような時
※上記の8項目に関して
  決して眠くならない 0
  ときどき眠くなることがある 1
  2回に1回は眠くなる 2
  たいてい眠くなる 3
として、採点する
内科的治療法の代表格:保険適用のCPAP療法
 SASは、症状に応じて内科的治療法や外科的治療法を利用しながら、きちんと治療すれば無呼吸、眠気などの症状はコントロールでき、合併症も改善が望めて支障のない日常生活を送ることができる。専門的に診療してくれる科としては内科(系)、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、精神科および歯科などである。
 現在、最も有効な内科的治療法として第一選択されているのが、自宅で行う「CPAP(シーパップ)」療法だ。睡眠時に鼻マスクを装着し、小型の装置から圧力(陽庄)をかけた空気を送って気道を広げ、無呼吸を防ぐ治療法で。患者ごとに睡眠ポリグラフ検査の結果に基づき、有効な適正圧を設定して治療する。
 鼻マスクは、最初は違和感があってもほとんどの患者はすぐに慣れる。CPAPを装着することで、SASの症状から解放され熟睡してすっきり目覚め、日中の眠気もなくなって快適に過ごせる。継続して治療すれば、睡眠の質の向上や血圧の低位安定などの効果が期待できる。ただし、鼻づまりや鼻中隔攣曲症などの鼻閉疾患がある場合には、鼻の疾患治療を並行させながらCPAPを使用することが重要である。CPAP治療は、無呼吸・低呼吸の頻度が高い重症患者には保険が適用される。3割負担の健康保険の場合、1ヵ月5000円程度だ(機器貸出料含む)。
手軽・便利・保険適用のスリープスプリント療法
 閉塞型SASの患者では、上気道の形態が健常人に比べて狭くなっていることがある。その対症療法として、透明の薄いプラスチック製のマウスピースを、寝ている間に口の中に装着する「スリープスプリント」治療が効果を上げている。
 スリープスプリントを装着し下あごを少し前方に突き出させることによって、睡眠中に落ち込んだ舌を持ち上げて気道を広げ、いびきや無呼吸を防ぐ治療法で、高血圧症などの合併症を起こしていない軽度〜中等度のSAS症状に有効だ。
 この治療法の一番のメリットは、マウスピースを装着するだけという手軽さにある。副作用も体の負担もなく長期間使い続けることができる上、旅行や出張の際にも気軽に持っていけるので便利だ。外科的治療法を避けたい人にとっても受け入れやすい。
 治療は、専門の医療機関でSASと診断された後、経験を積んだ専門の歯科医の診察を受け、問題がなければ歯形を取り、上下のかみ合わせを調整して製作してもらう。スリープスプリント治療は20044月から健康保険の適用となり、標準タイプなら12万円の自己負担で済むようになった。
重症患者にはUPPP術、中等症まではLAUP
 さらに気道が狭くなっている場合は外科的治療法が有効だ。狭くなっている部位に応じてそれぞれ有効な手術法が選択される。
 鼻の通りが悪い場合は、鼻中隔攣曲矯正術や下鼻甲介切除術、レーザーによる鼻粘膜焼灼術を行う。また、上咽頭が狭くなっている場合はアデノイド切除術が適応となる。中咽頭が狭くなっている場合は、扁桃摘出術のほかに、いくつか主だった手術がある。
 口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)は、口蓋扁桃を摘出して咽頭・口蓋垂を切除することで咽頭腔を広げて呼吸しやすい状態を形成する。日本で開発された術式で重症患者に効果が認められるが、全身麻酔するため入院が必要となる手術だ。
 レーザー口蓋垂軟口蓋形成術(LAUP)は、単純いびきや中等度SASまでが適応となる。レーザーで咽頭を広げることで、いびきや無呼吸の改善が期待でき、またメスを用いた手術に伴う出血や痛みを抑えることができる。切除範囲によって全身麻酔の場合と、局所麻酔で行う場合がある。
 ラジオ波(電波)手術は、軽症の症状に効果があるといわれている。局所麻酔後にラジオ波を発生する針を病変部に刺す低侵襲(体に負担の少ない)冶療で、熱変性により針周辺の組織が減量・収縮する仕組みだ。
快適な睡眠のために生活習慣の改善と減量
 SAS患者の7080%は肥満だ。ダイエットをするだけで無呼吸症状が改善したり、中には症状そのものが消えてしまう人もいる。つまり、SAS対策の基本はダイエットなのだ。肥満の原因のほとんどは、食生活の偏りと運動不足など、長年の生活習慣にある。従って、・食生活の見直し″と・体を動かす生活の導入″という「生活習慣の改善」が必要となる。
 食生活では、脂質や糖質(炭水化物)を控えて摂取カロリーを減らす。また間食をやめ、規則的な食事を心掛ける。ダイエットは食事療法が中心となるが、同時に日常生活の中で『運動量を今より増やそう』と意識するだけでも効果的。その結果、たとえダイエットがうまくいって、いびきや無呼吸症状が消えたとしても、油断すれば体重はリバウンドして症状も再発してしまう。ダイエットは、落とすことよりも落とした水準をキープし続けることの方が、より重要で難しい。
飲酒・精神安定剤の制限、あせらず気長に治療する
 また生活習慣の改善では、飲酒量を減らすことも大切だ。ナイトキャップと呼ばれる就寝前の少量の酒は、ときに心地よい眠りに誘ってくれる。しかし、SAS患者の場合、少量の酒でも気道の筋力を低下させる作用があるために、いびきや呼吸障害の原因になることがある。少なくとも就寝前4時間以内の飲酒は控えたいものだ。
 一方、眠れないのだから睡眠導入剤や抗不安薬、筋弛緩剤などの精神安定剤を処方してもらえば熟睡できると考えがちだが、SAS患者の場合は、咽頭の筋肉が弛緩して気道が閉塞しやすくなるため、むしろ逆効果ともいえる。薬物療法については、まずSAS治療を受けている担当医に相談することをお勧めする。
 SASを根冶させることは容易ではない。しかし、生活習慣を改善して減量する中で、CPAP療法やスリープスプリント療法などの内科的治療法、またはUPPP術やLAUP術などの外科的治療法を、例えば降圧薬を利用するのと同じような意識を持って、あせらず気長に取り組んで治療することが、結局はSASの治癒への近道といえる。
耳鼻科日帰り手術の普及
 近年医療技術、機器の目覚しい進歩を背景に患者にとってより低侵襲な日帰り手術が可能となっている。日帰り手術の領域は徐々に広がっており、耳鼻科領域においても鼓膜形成術や鼻炎のレーザー治療のほか、これまで長期の入院が必要とされていた手術にも拡大しつつある。早期の社会復帰や患者への身体的、精神的、また経済的負担の軽減などさまざまなメリットがあるため、患者だけでなく社会的貢献度も高く、各方面から注目されている。
耳鼻咽喉科で治療する睡眠時無呼吸症候群について
 耳鼻咽喉科では、いびき症や閉塞型の睡眠時無呼吸症候群に対して、日帰り手術を適応できる場合がある。口蓋垂(のどちんこ)の一部をレーザーで切除して気道を広げるLAUP(口蓋垂軟口蓋形成術)は、単純性いびき症や軽度から中度の睡眠時無呼吸症候群に有効とされるが、睡眠時無呼吸症候群に対しては、一時的に症状が改善されても長期的には元に戻ってしまうこともある。
 中等度から重症の睡眠時無呼吸症候群には、口蓋扁桃と口蓋垂を電気メスで切除するUPPP(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)が適応されるが、通常は数日間の入院が必要で、日帰り手術は行われない。UPPPも長期的には無呼吸を再発させる可能性がある。高度の睡眠時無呼吸症候群には、内科的な治療だが、CPAP(経鼻陽圧気道換気療法)が効果的だといわれている。
 このほか口腔咽頭領域においては、アデノイド(上咽頭にあるリンパ組織)増殖症に対するアデノイド切除術、扁桃肥大に対する口蓋扁桃摘出術なども日帰り手術が可能になっている。これらの手術は、アデノイド増殖症や扁桃肥大が、いびき症や睡眠時無呼吸症候群、滲出性中耳炎、慢性副鼻腔炎などの原因となっている場合に手術が適応される。
総合的判断による適正な治療の選択
 耳鼻咽喉科では、以上の手術以外にも日帰り手術による治療の短期化が進んでいる。耳・鼻・咽喉・口腔は構造的につながっており、いくつかの病気が合併して起こる場合も多い。従って、疾患の重症度や合併症の程度など、総合的な判断によって適正な治療法が選択されることが重要だ。日帰り手術が可能とされる病気でも数日の入院を必要とする症例もある。また、手術は日帰りで完了しても、術後に長い通院期間を必要とするなど、根気よく治療を続けなければならない疾患も多い。医師に指示された内容を順守することが、病気を完治させる近道である。
(週刊朝日、特集広告記事より)

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