鑑評会概観 
 熊本国税局が主催する2008年度酒類鑑評会の表彰式が4月18日に熊本市国際交流会館で開催された.
 同局管内の4 県(熊本・大分・宮崎・鹿児島)から集まった2007年度産の焼酎と清酒が厳正な予審と最終審査を経て選考され, 入賞製造場が晴れて表彰を受けた.

 酒類鑑評会の趣旨は以下のように定められている.
 
〈酒類の製造技術の向上を図り, 酒類製造業界の発展および消費者の利便に供することを目的とし, 酒造年度に管内で製造された清酒およびしょうちゅう(単式蒸留)(ただし, 黒糖を原料にしたしょうちゅう(単式蒸留)は,  各年の1月から6月に製造したものも含める)の品質の調査研究をおこない, 今後の製造技術の参考とするとともに, 審査成績が優秀であった製造場および杜氏等その製造責任者に対して表彰状を授与し、その事績を顕彰する〉.

 4県の261場から出品された513点の焼酎のうち, 優秀な酒質と判定されたのは113製造場の124点であった(製造場数と銘柄数が一致しないのは同一製造場からの複数受賞があるため).入賞製造場数, 入賞点数とも昨年とほぼ同水準である.
 清酒は28製造場から131点の出品があり, 11点が入賞した.
 焼酎の出品製造場数が昨年と比較して熊本, 大分, 宮崎および鹿児島でそれぞれ17, 5, 25, 32も大幅に増加した(計79場).その結果200場の大台を越え, 261場にも達した.
 1990年中葉より加熱してきた焼酎人気が製造量を急速に押し上げているにもかかわらず鑑評会に出品する製造場数が必ずしも増加しているわけではなかったので, 焼酎人気と製造量の実勢に応じた底ざらえ的な出品要請が熊本国税局からそれとなくなされたのではなかろうか.酒類鑑評会は実勢に見合う酒質と出品点数を確保できなければその趣旨(品質の調査研究と今後の製造技術への波及)を貫けない.
 清酒の世界では, 1919(大正8)年に灘五郷の酒造メーカーが全国品評会から脱退して自分たちだけのの品評会組織にこもってしまった事例がある.広島など酒質の向上がめざましい産地の酒に品評会で勝てなくなった灘が「看板」を守るための分離行動であった.そして現在.南九州4県の鑑評会に出品しても入賞できない焼酎蔵に灘五郷の場合に似た失望感が流れ、これまで出品を見合わせていた例が多かったのではなかろうか.また, 鑑評会とは一線を画した品質訴求路線をとる蔵の存在も否めない.それぞれの路線は路線として尊重しながらもどの蔵も同じ土俵で「ちからだめし」をしてみるのはわるいことではないだろう.

表1 2008年度酒類鑑評会の出品点数など



入賞銘柄のハイライト
 
熊本県全体では45場から81銘柄が出品され, 14製造場の17銘柄が栄冠に輝いた.そのうち球磨・人吉勢(人吉税務署管内)が11製造場・13銘柄と圧倒した.県内の他の4税務署管内(山鹿, 熊本, 宇土, 八代)からは1昨年は2場2点, 昨年1場2点にまで減勢していたが, 今年は3場4点に復勢している.
 1場で2点の入賞を果たした恒松酒造本店と福田酒造本店はこれまで派手な仕掛けが苦手な堅実すぎるほど堅実な蔵であった.この数年活発な動きに転じ, その真価をみせた果実が今回の「球磨拳」であり「花」である.前者は黄麹の濃厚使用に, 後者はサントリーとの技術連携にそれぞれ新味がある.
 常連の「球磨の泉」は, 減圧製品に甘い入賞傾向のなかで, 常圧の本領を発揮している無視できない焼酎として光を放ち続けている.一途の熱意が伝わる良品である.

 球磨にも「芋嗜好」の波が押し寄せ, 芋に手を染める球磨焼酎の蔵からぽつぽつと芋焼酎が出品されるようになり, 今年は全81点のうち10点を占めるまでになった.昨年は75点中の7点であった.しかし入賞はない(昨年は1点入賞).つくろうと思えば高レベルの芋焼酎をつくれるのだろうが, 球磨の芋焼酎ははたして経営的には成功できるのだろうか?
表2 入賞製造場および銘柄
 管轄署名  入賞銘柄 区分 製造場 杜氏等製造責任者
熊本西  太鼓判 瑞鷹(東肥蔵)  濱田康太郎
 蕎麦 そば
八代  白水 メルシャン(八代工場)  藤田康範
人吉  球磨焼酎 球磨焼酎  前田 豊
 天の雫 常楽酒造  蔵座幸一
 繊月 繊月酒造  越富 茂
 白岳 高橋酒造(多良木工場)  藤本一見
 米 

恒松酒造本店  前田勝國
 球磨拳 
 球磨の泉 那須酒造場  那須富雄
 白岳 白岳酒造研究所  高橋信行
 山河 福田酒造本店  今村洋助
 
 房の露 房の露  松本勝博
 旅愁 渕田酒造場  渕田 稔
 最古蔵 松下醸造場  信国満昭
 山鹿    田苑 田苑酒造(熊本工場)  上田勝則



総括
 
熊本国税局鑑定室長による講評を要約する.

・減圧蒸留区分には華やかな香りときれいな味が調和した飲みやすいすっきりとしたものが多い.
・常圧蒸留区分には重厚な香味を特徴とする原料特性がとくに強いものがあり, 酒質の多様化が進んでいることがうかがえた.
・レベルの高い地域のブランドとして, 日本はもとより世界の本格焼酎として高い評価を得られるものと確信している.

 講評は例年ならば全体を俯瞰してカドが立たぬように丸くおさめたものになるが, 今年は減圧と常圧を分けてそれぞれに言及がされたこと, 地域ブランドを意識したことにおいて画期的であった.芋焼酎についてもコガネセンガンとその他の甘藷品種をグループ分けして品質評価する試みがあり, 鑑別法をいろいろ工夫しているようである.
 昨年度の鑑評会について当サイトでは「焼酎の技術は歴史の淘汰に耐えてほぼ完成に近くなっており, 技術的プラトーをとらえて講評したくなるのは納得できるとしても, 焼酎界を取り巻く状況はとにかく変化が大きなっているのだから, 嗜好の多様化に対応した大技小技が醸し出す味づくりの妙に言及する配慮があってもよいのではないだろうか」とコメントしたが, その提起を満たす講評がついにあらわれたと考えてよいだろう.

§7 Index

05. May 2008