銘柄とりっぷ

《 夕葉川 (ゆうばがわ)


やっぱりあった 
 
球磨焼酎「夕葉川」についての掲示版の書き込み(2001年1月11日)があり、読むほどに妙に引っかかるものがあった。それが下の文である(抜粋)。
 
 
  
‘夕葉川という銘柄で峰の露酒造で造っていることまでは分かったのですが、それ以上の事はわかりませんでした’

 夕葉川とは球磨川の由緒ある別名(雅称)なので、必ずどこかの蔵が商標を握ってると考えていたが販売の実績を知らずにいため、読んだとき、「やっぱりあったか」と九州脊梁産地にツキノワグマを見つけたような感慨が走った。今のところ峰の露さんのパンフレットには「夕葉川」は載ってないので、よっぽど特別な限定品なのかもしれない(??)。


木綿の葉は流れ寄りたり
 夕葉川なる美しい別名は、昔、球磨川下流に木綿(ゆう)の葉がたくさん流れついたので誰言うとなくつけられたようである。木綿葉川から夕葉川へと転化した。当時ワタはまだなく、木綿とは「もめん」ではなく麻のことで、上流部の球磨地方は麻栽培と縁が深く、熊襲の中でも麻栽培が上手な麻剥(あさはぎ)と名付けられた人たちがいた。その人たちが川にさらした麻の一部が流れ出したのであろう。
人吉市内を貫流する球磨川


万葉秀歌
 万葉集4500余首の中には肥後を題材にしたものが14首ほど収められている。なかでも秀逸の誉れ高いのが次の読人知らずの一首。
  
  肥人(くまひと)の額髪(ぬかがみ)結へる染木綿(しめゆう)のしめにしこころ我忘れめや
(歌意:熊襲たちが色染めした麻布で額をかたく結ぶように、あなたへのかたく深い恋心は忘れることはできません)

 森羅万象これ皆すべて恋に托す癖のある万葉人たちが、染木綿まで恋心にこじつけてくれたお陰で貴重な習俗の記録が残りり、肥後の人、とくに熊襲は染めた木綿を頭に巻く習慣があったことがわかった。また、「木綿」とはコウゾのこととも言われ、やはり皮を剥いで衣服や紙にしたようである。コウゾによる和紙づくりは今なお球磨村に伝えられており、石野公園には「紙づくり体験コーナー」が設置されている。
コウゾの原木。石野公園における展示。



天然繊維嗜好民族
 どうも球磨盆地人は昔から繊維と織布が好きなようである。植物性センイといってもファイブミニを飲むのが好きなのではなくて、植物から繊維を集め、織ることが。40年くらい前まで、農家の庭には麻を煮る大きなクドがかまえてあった。当方が子供の頃は庭のクドがなんのためにあるのかわからなかったのだが、どうも古くは麻、それからラミーを煮るためだったようである。それら「木綿以前」の繊維植物の経歴を簡単にまとめると下表のようになる。
我が国の伝統的繊維植物とその来歴
アサ(麻)Cannabis sativa  8世紀に渡来の記録あり。16世紀から本格的に栽培。
ワタ(綿)Gossipium spp.  朝鮮半島を経て1世紀頃渡来。
コウゾ(楮)Broussonetia kajinoki  日本自生種。栽培型はヒメコウゾとカジノキの雑種。
カラムシ(苧麻=チョマ、ラミー)Boehmeria nivea  日本自生種。

麻の痕跡
 
法治国家日本では麻を植えたり「賞味」したりするのはきつい御法度。産業的にも消滅しているにもかかわらず麻栽培の痕跡は北海道の大麻(おおあさ)、神奈川県の原当麻(はらたいま)、長野県の麻績(おみ)などの地名に残っている。麻は皮を剥いだあとも茎が萱葺き屋根の基礎に使われるなど、日常の各方面に深く浸透していた生活材であった。
長野県白馬村の保存民家の萱葺き屋根を下から見る。
上から大萱、小萱、麻殻(色が薄い層)の順に重なっている。麻殻の供給が不可能な現在、萱葺き屋根の維持は深刻な問題である。
その反面、西日本の萱葺き屋根は大萱の一層だけで成るシンプルな構造。


タパと太布
 
伝統的繊維植物に言及した以上、樹皮布の一種であるタパに触れないわけにはいかない。樹皮布とは樹皮を丁寧に叩いて繊維を広げ延ばした布で、有史以前に熱帯地方を中心に広く発達し、衣の原型と考えられている。現在もなお太平洋の島じまで独創的な模様を施したタパづくりが盛んである。
 SASANABAがフィジー観光うきうき旅行で手にしたタパは、げんじゅーみんの木の皮細工(親切にしてくれたフィジーの皆さん、失礼!)どころか強靭かつ柔軟なみごとな布であった。このタパ、原木はいろいろで、クワ科植物、とくにカジノキが多く使用される。カジノキはコウゾとともに我が国でも古来より衣服原料として利用され、それでつくった布を「太布(たふ)」と呼んでいた。タパと太布、このことばの共通性に、赤道部から樹皮布の製法が北上してきたことがわかる。南九州が南方文化と深くかかわっているひとつの例である。


最後に一句
 
万葉集に対抗して、ローカル俳人の句で締めてみよう。

  球磨も奥に生れ利薄き楮伐る

 作者は上村占魚氏。占魚先生は、球磨川の「鮎」の字をバラして俳号にしたほどの徹底した「夕葉川文化人」でした。


§5 Index

04. Jan. 2001