鄙に花あり〈春 2〉

オオイヌノフグリ(Veronica percica)

春を一番乗りで告げてくれます。草の背丈が低く花も小さいので一見地味ですが、飾り気のない青く澄みきった花弁はうららかな春の空を映しているかのようで聖者Veronicaの衣鉢をつぐに足る清楚さです。種小名が示すとおりイランを中心とする西アジア原産ですが、今では野原、畑のすみ、市街地の空き地などどこにでも進出しているなじみ深い草になっており、大成功した帰化植物の手本になっています。渡来して大繁殖した、野草界のマクドナルドここにあり。在来種のイヌノフグリは花が小型で目立ちません。
ただ、よく指摘されることとして、和名は考えようによってはかわいくもありますが、清楚さからはかけ離れているようで、も少しどうにかならなかったものかいな。

俳人も透きとおるような青を賛えています
 高浜虚子

 犬ふぐり星のまたたく如くなり

虚子がイヌフグリを星に見たてた1944年のその空は絶望的に重苦しく広がっていました。




オキナグサPulsatilla cernua) 

深い赤紫色の花には、キンポウゲ科らしく凛とした美しさがあります。花が終わったあとの白く長い毛に包まれた果実には、一転して老人(翁)を想わせるほのぼのとした優しさがあり、このように仲睦まじい老夫婦になりたいものです。もともと野草愛好家のあいだで幅広い人気を集めていましたが、めったに出会えなくなったためにいよいよ人気が高まっています。球磨郡では「おにゃこ」と呼ばれて親しまれ、ひと昔前までは球磨川の河原にたくさん自生していましたが河川改修工事によってあっけなく消滅しました。
この「おにゃこ」の呼び方がどのような意味なのかよくわかりませんが、18世紀に京都で「うないこ」とも呼ばれていた(物類呼称 1775)そうで、なにやら奥床しそうです。
ヨーロッパアルプスや北アメリカの高山のオキナグサの仲間は、お花畑を飾る重要な構成メンバーです。

 斎藤茂吉
 
白頭翁(オキナグサ)ここにひともとあな哀し蕾ぞ見ゆる山のべ にして



アマナAmana edulis

ユリ科。甘菜。春先の土手や畔にいくらでも咲くありふれた野草だったのですが、気が付いたら希少種になっていました。もともとチューリップ属に含まれており、広い意味での国産野生チューリップでしたが、最近では独立したアマナ属として取り扱われています。葉もチューリップに似たところがあり、画像ではうしろに細長く湾曲して伸びています。


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