屠蘇?Why?
正月の屠蘇は〈屠蘇散の袋を井戸に吊し、それを元旦の朝に引き上げて酒で振り出し、一家で健康のために飲んで祝う〉伝統行事である。時代が下って井戸が減少するにつれて、直接酒に浸すように変化してきた。そして今では屠蘇散じたいが年末年始の家庭から消えかけている事実がある。由々しきことだ。この伝統行事を守らねばならない。とくに邪心だらけのSASANABAにとっては。
その理由は:
「屠蘇」とは第52代嵯峨天皇の御代に唐の国から朝廷にもたらされた、ほとんど1200年の歴史をもつ習慣なのである。嵯峨天皇は、28人の妃妾(正室+側室)をキープし、50人もの子供をつくったそうである。後継天皇選びにまったく苦労がいらない素敵な朝廷ライフであった(そのかわり養育費が国家予算を圧迫した)。このうらやましい元気が屠蘇=ミラクルドリンクから生まれるのなら、試してみたいハヤる気持ちはもう誰にも止められない。ワラにも屠蘇にもすがりたいSASANABAの屠蘇レポート、どうなりますことか。
薩摩の地酒
薩摩は我が国焼酎界の総本山である。そんな土地にも異端はあるもので、清酒製造は30年前に消滅したのに、同じく醸造酒(のうち灰持酒)である「地酒(じしゅう)」がしぶとく土地に根付いている。独特の枯れた甘い味がする赤い色の灰持酒は、ほんとうは異端ではなくて、歴史も由緒もある「先住酒」なのである。しかし、ネイティブの宿命として全国的にも隅っこに追いやられ、鹿児島、熊本、石川、島根にさびしく残るのみである。
屠蘇酒
熊本県の「赤酒」(熊本市、東肥酒造)は、正月の屠蘇酒としてなくてはならない。同様に鹿児島の「地酒」(加世田市、本坊酒造)も屠蘇酒として供されるようで、屠蘇散のエプロンを着せて売られていた。
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画像左:「地酒」の立ち姿。屠蘇散が入った袋が首にかけてある。
右:このビニル袋の中に布で封じた屠蘇散が入っている。松竹梅のおめでたい化粧に、縁起の良さそうなタカラボシのマークが、今年の幸運を約束してくれているようである。 |
配合の妙
屠蘇散とはつまり5種類の生薬の配合で、右画像のような外見である。
5種類の生薬とは、防風(ボウフウ)、山椒(サンショウ) 、 桔梗(キキョウ)、 肉桂(ニッケイ)、白朮(ビャクジュツ)のことで、それぞれ名前はカタいが、(本物の)肉桂を除いてわりと普通にはえているものが多い。それぞれの効果を全部つなぎ合わせると、頭痛、寒気、風邪を去り、痛みを鎮め、熱を解き、胃腸を守り、利尿と発汗を促すことになり、最強の薬になる。まさに「一人コレヲ飲メバ一家に疾(クルシミ)ナク、一家コレヲ飲メバ一里病ナシ」である。ほんとかどーかは知らない。
なお、飲みやすくするために陳皮(チンピ=ミカンの皮)を混ぜてあるのが普通で、画像の屠蘇散が黄色味を帯びているのも陳皮のせいである。
配合の過剰
だが、である。SASANABAの要求方面の効能が含まれてないぞ。寒気はちょっぴりあってもいいから、胃は少し弱ってもいいから、汗はあんまり出なくていいから、ね、ね、神農様。
屠蘇は、壮大な漢方の体系がバックグラウンドになっており、そんな個人的直接的快楽的さーどうだ的これでもか的効果を求めるスケールの矮小な輩を相手にしてくれない。体系が壮大なだけに、キワめる人にとってはとことんキワめ尽くせそうで、そのような達人は屠蘇散の基本組成に大黄(ダイオウ)、虎杖(コジョウ)、烏頭(ウズ)を追加する。大黄と烏頭(ウズ)=トリカブトは素人にはコントールできない生薬なので、屠蘇もその気になったらけっこうアブナい系ドリンクなのである。過去にはばたばた斃れる事故が後を絶たなかったそうである。

宮の鶴
さーて、屠蘇散を何に浸そう。やっぱり「地酒」が無難か。無難ではあるが、酒本体が、あらら、もう、ない。あまりの口あたりの良さに負けて元旦を待たずして飲みきってしまったのである。それじゃサイトの本義に忠実に球磨焼酎を対象として、中国の蒸留酒を意識している「球磨火酎」(人吉市、渕田酒造場)を一旦は選んだのだが、酒質が中国酒と別物であり、合わない。無理が生じる。
中国酒となくもない縁を伝って泡盛ではどうだろう。おお、「宮之鶴」(石垣島、仲間酒造所)がぴったりだ。ラベルの夫婦鶴もめでたいぞ。実際に御夫婦ふたりだけで丁寧につくられているそうで、うん、うまそうだ。この酒で振り出した屠蘇酒は、健康と長生きを保証してくれそうだぞ。おまえ百までわしゃ九十九まで。

結論
浸して振り出しますこと24時間、冒頭の画像のようになった。左のグラスが屠蘇酒で、艶やかではないがなんともいえない深みのある色に仕上がっている。右はベースのオリジナルの「宮之鶴」のグラスである。
シナモンのフレーバーが全体を覆い、キキョウの苦味が快いぴりっとした硬派のリキュールになっている。高貴な香がグラスからこぼれ、アロマテラピー的にも心地よい酒である。「地酒」で振り出してもうまかっただろうが、泡盛スパイスリキュールもまたよきかな、というところか。
で、当初の課題はどうなったかというと、うーん、どうかな。おろ、おろろ、へえぇーーっ。ちょっと待ってね。うひひひひ。
01. Jan. 2002
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