「健康酒」はあるのか?
焼酎人気は健康酒意識に支えられている面があり、「酔い覚めすっきり」、「不純物が少ないのでからだに良い」とは、焼酎びいきが強調するところです。たしかに「飲み方」の翌日はさわやかな朝にグッドモーニングでき、清酒を飲んだときの不快感とは明らかに別物、との主張があります。
ほんとに焼酎は二日酔いしにくいのか、その理由は何か、ちゃんと調べて根拠が見つかるなら他の酒に差をつけるチャンスです。
フーゼル油
二日酔いや悪酔いの原因としてフーゼル油の混入がよく指摘されます。フーゼル油とはエタノール発酵にごく微量混入する、n(ノルマル)プロパノールなどのやや分子量の大きいアルコール類で、酒に複雑で奥深い香りをもたらす有用な成分でもあります。フーゼル油はほんとうに二日酔いの原因でしょうか。焼酎はピュアなイメージがあるのですが、下の表のとおり、意外にも清酒やワインなどと比較して格段にフーゼル油成分が多いのです。
だから、二日酔いの原因はこれらフーゼル油成分ではないと思われます。それでは真の原因は何なのでしょうか。SASANABAは、焼酎、清酒、ワイン、ビールを問わず酒類に共通して圧倒的にメジャーに含まれる成分つまりエチルアルコール(エタノール)そのものである、と思っています。正確には、エチルアルコールが分解してできる毒物であるアセトアルデヒドを速やかに処理できる体質であるか否か、が最大の理由と考えています。だから、焼酎といえど万人にとって必ずしも「酔い覚めすっきり」にはなりません。
アセトアルデヒド
二日酔いとは、飲酒の翌日に体調が悪かったり気分がすぐれなかったりして日常の作業に集中できない状態を指します。アルコールがアセトアルデヒドから酢酸へと分解・解毒されていくあいだに体内の水や塩類のバランスが失調することによって起こるといわれ、焼酎でもワインでも清酒でもアルコール飲料を飲めばだれにでも起きる可能性のある現象です。もっとも、二日酔いはアセトアルデヒドの体内量が低下してから起こるので、アセトアルデヒド以外にも多くの原因物質の絡み合っていることが予想されます。
悪酔いにも二日酔いにも個人差があります。アセトアルデヒドが分解されずに蓄積すると顔の紅潮(フラッシング)が起こるので、酒を飲むとすぐに赤くなるのは酒が体質に合わない危険な目印です。
有毒物質であるアセトアルデヒドを分解する酵素アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(アセトアルデヒド脱水素酵素、「ALDH」と略されます)には2種類(ALDH1とALDH2)あり、ALDH2のたんぱく質のアミノ酸がたった1個違っている(グルタミンがリジンに変化)だけで酵素活性に雲泥の差が生じ、酒が天使からのプレゼントになるか悪魔の置き土産になるかの命運を分けます。
逆転の発想
酒に弱い体質の人は「訓練」しだいでアルコールとアセトアルデヒドの分解効率が高まり、酒量が上がることがわかっていますので、楽しむ程度にお付き合いできるのではないでしょうか。もっとも、酒に強いのは決して自慢できる体質ではありません。飲み過ぎる(飲め過ぎる)から、肝臓をこわしたりアル中になったりする危険性を抱えこんでいるからです。そうならないように、自重、自重。
遺伝子診断
さて、あなたは酒と仲良しになれますか? ALDH2のアミノ酸配列の変化は、遺伝子上のたった1個の塩基の変化(G→A)に基づくので、近年飛躍的に進歩した遺伝子診断技術を使えば髪の毛一本さえあれば判定できます。
その要領は:
1.髪の毛からDNAを抽出する。
2.そのDNAからALDH2遺伝子を遺伝子増幅法(PCR=Polymerase Chain Reaction)で増やす。
3. PCRで増幅したDNA鎖を鋳型にして特別なヌクレオチドアナログ(ddNTP)と蛍光色素でマーカーを付与する。
4.電気泳動を基本にした遺伝子配列解析装置でALDH遺伝子の遺伝子変異部位を読み取る。
以上です。
現在、遺伝子のDNA配列は、情報を電子的に変換し、コンピュータで編集して読み取っています。過去、フィルムに焼き付けた電気泳動の梯子段状のパターン(ラダーといいます)を肉眼で読み取っていた頃は「職人芸」が要求されたものですが、いやはや楽になりました。
配列データはこんな画像で出力されます。アデニン、シチジン、グアニン、チミンの4塩基が緑、青、黒、赤のそれぞれのピークに割り当てられています。
もっと劇的には、活性型ALDH2の持ち主だったら強くシグナル(右図の赤い長方形)が出るように設定した雑種形成法(hybridization)という技術で目の当たりに実感できます。御承知のように、我々の遺伝子は父親からと母親からのワンセットずつもらっているので、父母がどちらも活性型酵素[++]の持ち主であれば子の遺伝子も活性型[++]になり、酒豪となります.父母が不活性型酵素の持ち主[-
-]だったら子は[- -]となって二日酔い体質となります。みごとなメンデル型分離の例です.さて,両親の一方が[+ +]で片方が[- -]または[+
-]だったらどうなるでしょうか? 高校の生物の授業を思い出しながらひとつ考えてみてはいかがでしょうか。
22. Jul. 2000
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