
ゆうき
米・米麹 25度 林酒造場(球磨郡湯前町) |

常圧焼酎のなかでもたくましさが極まった「極楽」で存在感を示してきた林酒造さんがひらいた新境地の産物として注目に価します.ソフト志向の味はまさに古風の蔵に吹いた新風.
果実のような香りがなでるように優しく, もやがかかったような切なささえあります.林さんの焼酎はおおらかで剛健さが先行しているイメージがありましたから, 一驚するに足る「ゆうき」のほどよい柔らかさは, 林酒造場の新世代である展宏・康宏兄弟のコラボ, すなわち兄の展宏さんが描いた商品戦略のラフスケッチを, 弟の康宏さんがつくりの現場で肉付けをしていく硬軟自在の芸風の確立を満天下に示したものでしょう.
蔵からのメッセージがラベルにあります.
‘阿蘇の郷で川魚を利用して
害虫駆除や除草をさせてつくられた
「自然農法の無農薬米こしひかり」を選び
芳醇な香りと豊かなまろみのある味わいの
体にやさしい焼酎をつくりあげた逸品です’
「阿蘇の自然農法の無農薬米こしひかり」とは, 熊本県阿蘇市一の宮町で栽培されたコシヒカリのことで, 江藤友明さんがその生産者です.このように原料米生産者名の開示と「体にやさしい焼酎」の文言は, 「極楽」のラベルにしっかりと印されているあの有名な〈適飲保健〉の精神に明瞭につながっています.
林酒造場と阿蘇の無農薬米生産農家との付き合いはスポット的には長く続いていましたが, 「ゆうき」で一挙に市場的に開花しました.
「川魚を利用した害虫駆除や除草」もユニークで, 篤農家がこれから広めようとしてます.例として, 熊本県立南稜高校では学校田で鯉とアイガモに除草と害虫駆除をまかせ, その名も「恋愛農法」! 鯉とアイガモという生きた「農具」は有機肥料まで面倒をみてくれるのでいうことがありません.同校では焼酎の本場の高校の威信をかけて2005年から焼酎づくりを正規の実習コースとして組み入れており, 「恋愛米」はその原料として使われています.林酒造場の蔵元である林篤志さんは球磨焼酎酒造組合のそして業界の長老として大所高所から同校の焼酎製造実習にアドバイスされています.
国道219号線が湯前町を北に抜けるほんの少し手前で脇道に入り, しばし直進するとそこが林酒造場.球磨焼酎の蔵のなかでも有数のフォトジェニックなポイントに出くわします.すっかり根がはえたような土甕たち.木組みの白壁.それらをおおってやわらかな影を落とすエノキ(?)の老樹.そして全体がただただ深として閑.
フォトジェニック度ならば, 林酒造場のすぐ南にある石づくりの橋である下町橋も負けていません.1906(明治39)年の竣工ですから今年でちょうど100
歳ながら今なお現役です.均整のとれた石組みに明治の構造美を遺すこの橋についていずれページを割いて紹介する予定です.
蔵から下町橋にかけて緑が濃く静かに広がっています.こんな静かな一帯で熟成する焼酎たちはほんのときどきまどろみから覚めて甕をかすかにちりん, と鳴らしてはまた静寂に溶けるようで, 何か精霊が宿っているような純粋な意志と清冽さを感じます.
30.Jul. 2006
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