温泉夢(おんせん ゆめ)
(「青特」バージョン)
米・米麹 25度  大和一酒造元(人吉市下林町)


温泉水焼酎の「源泉」.




 「温泉夢」には度数や熟成期間で分けられたいくつかのバージョンがあり, これは「特選 温泉夢」の青瓶, 通称「青特」バージョンです.
  
 ふわりと穏やかでやわらかで, 角がまったくといっていいほど立っていないので取り付きやすく, 口当たりが絶妙です.程よい甘みとほのかだがシャープな果実香に, うらうらとすばらしい夢見心地の酔い心地に誘われます.

 大和一酒造元は1953年の創業以来, 球磨焼酎ではもっとも後発の蔵ゆえに地元でのシェア獲得に苦労がありました.よその蔵と差別化できるオリジナリティの高い焼酎が喉から手が出るほど欲しい―.そのこたえは, 人吉温泉の発祥の地である市西部一帯にかかる蔵の立地にありました.
 温泉水で仕込みに変化をつけた「温泉焼酎 夢」が1986年に完成して起死回生の一打となり, その後同蔵の製品が「牧場の夢」, 「夢一(ゆめひとつ)」などの温泉水使用焼酎で固められる「源泉」となりました.
 温泉焼酎が順調に成長しているとき, 商標に関して思わぬ方角から横槍が入り,「温泉焼酎 夢」は「温泉夢」へと脱皮を余儀なくされましたが, 温泉焼酎のルーツとしてのポジションにかわりはありません.
 熊本県南部の湯どころ人吉市の温泉は, 1492年(明応元年)に相良氏第12代当主為続(ためつぐ)が林村(現・人吉市温泉町)に入湯した記録が残っており, その頃には湧泉していたようです.旧林村のゆたかな湯は, 今も旅館の老舗「翠嵐楼」や大和一酒造元に絶え間なく流れ続けています.ちなみに, 泉質は単純アルカリ重曹泉です.

 温泉水は硫化物その他無機イオンを多く含むので醸造に使用するのは業界では御法度中の御法度になっていました.にもかかわらず大和一さんが敢えてチャレンジされたのは, 蔵の温泉の溶存物が微量で刺激が微弱だったのでタンク内で希釈されてしまい, もろみの醗酵に響かなかったからのようです.なお, 「温泉夢」に先立って日本酒でも温泉仕込みが数銘柄が開発されていることもあり, 醸造に温泉水は禁忌の不文律はある程度くずれてきているようです.
 原酒の希釈には, 焼酎の成分と結合した沈殿物の析出による濁りを避けるためにわざわざ軟水化した水が広く使われています.ゆえに, 沈澱物のもととなる温泉水で割水するのは使用は禁忌です.


 「温泉夢」は味のよさで堂々勝負できる高いレベルの焼酎です.ところが, 温泉水の「効果」が製品の命になっていますので, 「青特」の箱に同封されているくわしい商品説明を読み解いて温泉焼酎の〈アドバンテージ〉について考えてみました.おおまかには下の「定言三段論法」が商品説明に盛り込まれています.ここで(1)が論法の大前提, (2)が小前提, (3)が結論になります.

 (1)弱アルカリ性である重曹泉は飲むと胃炎などの症状を軽減する. 
 (2)「温泉夢」は重曹泉仕込みである.
 (3)だから, 「温泉夢」はからだにいい.

 「温泉夢」が弱アルカリ性であることはどうでしょうか.食品学でいうところの飲食物の酸性・アルカリ性は, 体内から切り離された燃焼プロセスを問題にしたものであって, 体質との直接の関連はほとんどありません.また, 血液のpHが飲み物や食べ物でいちいちグラつくことはありません.
 「温泉夢」が謳う弱アルカリ性の意味が, 食品学的なものか単なる水素イオン濃度のことなのかはわからないものの, 興味があったのでpHを調べてみたところ, pH6±0.2でした.ほかの球磨焼酎は減圧, 常圧ともpH5〜5.5の範囲でしたから, それよりはいくぶん中性寄りですが, 「温泉夢」は弱アルカリ性ではなくて弱酸性でした.これが結論です.
 温泉水の成分は蒸留されないので原酒に重曹などは含まれていません.それでも水酸イオンが多くなっているのはおもしろい発見でした.



 コメントの一部が敢えて辛口になったのも, オリジナリティの高さで独走している下田蔵元に, これからも夢の広がりが胸を打つすてきな焼酎を期待しているからです.

§4 Index

 03. Feb. 2007